第19話 湯川家の日常
湯川家の朝は早い。
まだ、太陽が昇りきらないうちから、居間では祖父が新聞を広げ、祖母は味噌汁の鍋を火にかけていた。
「ひな、はよ起きや! 学校に間に合わんぞ!早く朝ごはん食べちゃいなさい!」
台所の方から母の大きな声が飛ぶ。
「はーい……」
階段をドスンドスンと下りてきたひなは、制服のスカートを片手で押さえつつ、眠そうにあくびをした。
食卓に並ぶのは、炊き立てのごはんに漬物、焼き魚。これがいつもの湯川家の朝食だ。
祖母が湯呑みをひなに差し出しながら、にやりと笑う。
「ひな、正月んとき、ようけ楽しそうにしとったなぁ。あの東京のもんと一緒やったんやろ?」
「ばーちゃん! いきなり何を言うん!」
ひなが顔を真っ赤にする。
父は黙々と焼き魚をつついていたが、ちらりと視線を上げて一言。
「そいつ、黒崎っちゅうんか。……どんなやつなんや?」
「え、えっと……ふつーの人やよ。東京出身だから、ちょっと都会っぽいけど、優しいし……」
言葉を選びながら答えるひな。
すかさず母が箸を置き、ニヤニヤ顔で追撃する。
「ふーん、優しい、ねぇ? なんやひな、顔ゆるんどるやん」
「ち、ちがうって!黒崎くんとは、その…… と、友だちだからー!」
と慌てて言い返すも、祖母と母は目を合わせてクスクスと笑っている。
父は最後まで無言を貫いていたが、席を立つ前に一言だけ。
「……あんま、勉強さぼんなよ?遊びもほどほどに……な?」
その声音に、ひなは小さくうなずいた。
家族の前では、学校での『自称ギャル』な姿も鳴りを潜め、素のままのひながそこにいた。
学校へ向かう支度をしながら、心の中で小さくつぶやく。
――れんが、ウチの家のこと知ったら、びっくりするんやろな。……れんにこのことは内緒にしておこ~
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