第7話後編 新潟の海は広かった

――朝6時。

 宿の小さな窓から差し込む太陽の光で、自然と目が覚めた。


 昨日の夜、畳にゴロ~ンと寝転んだ湯川さんが「れ~ん、明日の朝起こしてや〜」って言ってたけど――


 「お~い、湯川さ~ん!朝だぞ~起きろ~!」


 「……んんん……あと10分だけぇ……れんの声、目覚ましより心地ええわぁ……」


 「ちょっと!湯川さん、寝ぼけてんじゃねぇ!マジで急がないと電車に乗り遅れるぞ!」



 急いで朝食を食べて、俺たちは宿を出発。JR長野駅から信越本線に乗って、直江津駅を目指した。


 車窓から見える山々と川を眺めながら、湯川さんがぽつりとつぶやく。


 「なんか、地元とは雰囲気がちゃうな。うちら、知らんうちに結構、遠く来てたんやなぁ…」


 「あぁ、ほんとだな。……地図で見ると近く見えるのにな」


 「でもな、うちはこの『乗り換え』とか『本数少ない電車』とか、普段あまり電車を利用しないから新鮮だわ」


 「…そう感じるのはたぶん、湯川さんだけだよ……都会の人間に頻繁な乗り換えはキツすぎるわ……逆に尊敬しちゃう」



 午前11時、電車は直江津駅に到着。


 駅前から出ているバスに揺られて海辺の公園まで出ると、視界が一気にひらける。


 「――うわっ」


 目の前には、青く広がる日本海。

 波の音が、胸の奥まで届くようなリズムで響いていた。


 「……うち、ほんまに、生の海は見たことなかってん!」


 「えっ?マジで!?そっか、湯川さん出身だもんね……!!」


 「テレビで見るより、ずっと広い海……空とつながっとるみたいや」


「(…あ、イジりを見事にスルーされた…)」



 湯川さんは靴を脱いで、日本海の砂浜へと足を踏み出す。


 「……海の水、冷たっ! でも、冷たくて気持ちええ〜!最高~!」


 足先が波に濡れるたび、湯川さんは小さく笑った。


 「れんも、来いよ!」


 「嫌だよ。ズボン濡れるし!」


 「……そんなん気にせんでええ。こういうのは、楽しむんやってば」



 ふいに、湯川さんが俺の手を握る。


 「れん、ありがとうな。連れて来てくれて」


 「……べ、別にお前のためにってわけじゃ……」


 「ふふっ。そーゆーれんの照れているとこ、好き♡」


 耳まで真っ赤になった俺を見て、湯川さんはいつものようにケラケラと笑った。



 そのあと、海沿いの市場で昼飯。

 湯川さんが人生初の『浜焼きホタテ』に挑戦して「口の中、海になったぁ〜!」と大騒ぎ。


 そのテンションのまま、直江津駅の売店で買った「直江津名物・サバ寿司弁当」を抱えて帰路の特急電車に乗車。



 夕方、帰りの特急電車の中。

 ふたり並んだボックス席。窓の外には夕陽に照らされてオレンジ色に染まった海。


 「……うち、東京もええけど、こういうとこのほうが意外と好きかも」


 「そっか……?でも東京も、案外悪くないと思うぞ?」


 「じゃあ次は、れんの番やな。東京、案内頼むで?」


 「……ああ、もちろんさ!東京案内任せとけ!」

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