第2話 いなごの佃煮弁当

転校初日から強烈なインパクトを与えている、ギャルの湯川ひなに絡まれている黒崎蓮だが――


 今日も朝から彼は思っていた。


 「……あのギャル、昨日も放課後までずっと喋ってたよな……。言っていること、ほとんどわからなかったが……」


 湯川ひなと名乗ったギャルは、翌日も朝からやたらハイテンションで教室の隅で笑っていた。しかも、俺が入ってくるなり叫んだ。


 「れぇぇぇん!!今日もよう来たのぉ〜!!」


 「お、おう……(声でかいって……ってか、「よう来たのぉ~!!」って、孫を迎えるおばあちゃんかよ…!)」


 「おんし、ほんま、しゃんとしとるでな!でもうち、そがなツンケンしとるとこも、やけん♡」


 「……ん?ちょっと待て。いまって言ったか?聞き間違い…か?」


 「ほれ、れん!こっちこっち~!お昼ごはんんときは、うちの隣の席、確保しといたけぇ!」


 その日の昼休み、俺はなぜか湯川ひなに呼び出されて、隣の席で弁当を食べることになった。


「……それは、なに?」


 俺は湯川の弁当に目を奪われた。


 デカい。まず弁当箱が大きい。三段ある。そして、その弁当の中身が――


 「これか?これはな、いなごの佃煮!」


 「……!? いやいやいや、それ『虫』じゃんか、それ!!」


 「え〜?うち、小さい頃からいなごの佃煮を食べているから、いっちゃん好きやけぇ!」


 「いや、ギャルがいなごをバリバリと食うの、見たことねぇよ!?…いや、別にギャルじゃなくても、いなごをそんな豪快にバリバリとは食べないわ!」


 「れんも、一回食うてみん?チャレンジ、チャレンジ!!」


 「い、いや、俺は……ちょっと……お気持ちだけ受け取っとくわ……!(虫、ちょっと苦手)」


 田舎ギャル、恐るべし!湯川ひなのギャル飯?のレベルが高すぎる。



 「れんって、かぶいとるけど、ほんまはよか男やんな〜」


 「え?その『かぶいとる』ってなに?」


 「…そーね、「なにかを被っている」みたいな…歌舞伎?とかに近い感じかな?歌舞伎とか見ないから、分かんないけど!」


 「……あー、なるほどね……」


 「でも、うちは、そがなとこ、嫌いじゃないけぇ。……んふふ♡」


 湯川が、俺に向かって微笑む。


 まるで太陽みたいな、飾らない笑顔。


 だけどそのあとに続いた湯川ひなの衝撃の一言で、俺は口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。


 「……ほやけど、れんがうちの婿むこさんになったら、いなご、毎日食えるけんね♡」


 「いや、誰が婿だッ!!そして、虫メインの食卓なんて、想像しただけでも嫌だわ!!ぜったいに嫌!」


転校2日目にして、ギャルの湯川ひなに翻弄される黒崎蓮であった…


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