8.
彼も直ぐに綺麗な笑みを私に向けた。
「よく来たね」
ありがとう、は何だか違う気がしてコクリと頷く。
と、何故かアキは狼狽した。
「…あ、…えっと、違う、から……。そういう意味じゃないから」
彼は自分の事を話すのが苦手だと言っていた。
分かってると返すと安心したように肩を下ろす。
「翼ちゃんか!」
呼ばれた名前に吃驚した。こんな風に名前を呼んでもらえるとは思ってもみなかったし、
「久し振りだなぁ。勉強頑張ってんのか?」
「聞いてくれよ。コイツ禁煙始めて三日なんだと。もう死にそうな顔してんだよ」
「黙れ。まだ生きてるっての…」
こんな風に言葉をかけて貰えるなんて思ってもみなかった。
嗚呼、なんて温かいんだろう。
「おかえり」
突然訪問して、驚かされたのは寧ろ私の方。
「た、だいま」
あ。と思った。
ちゃんと言えた。
それから話をした。
今現在の此処の事。
それは篠から聞いていた通りだった。
人数は愕然と減ったものの、ユニがしっかりしているから前と何ら変わりはないという。
この部屋も以前と変わらず、集団の溜り場となっている。
以前タキが使っていた隣の部屋は残ってはいるけれど、タキは滅多にそこには帰って来ないらしい。
タキと篠はすっかり此処に姿を見せなくなった。アキがちょくちょくサボりにやって来るくらいらしい。
「期待のされ方が違うんだよ。まぁ、俺は楽で良いけどねぇ」
なんてアキは言っているけど。
「翼ちゃん篠に会ってる?」
「あれから何度か」
彼等と別れてから数日後、突然何の連絡もなく篠が家にやって来たのだ。
でもそれきり彼とは電話で連絡をとるくらいになっている。忙しいのだろう。
アキは「なるほどねぇ。…ああなるわけか」なにやら意味深に呟いて。
「そうだ。翼ちゃん、タキと篠のところ行こう」
そんな事を言い出した。
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