第14話

玄関を上がり、通されたのは年季の入った座敷だった。畳の色はすっかりくすみ、角の仏壇からは濃い線香の香りが立ちこめている。真白は思わず背筋を正した。


「娘が……顔を、失くしちまったんだよ」


ぽつり、と村長が言った。


「……顔?」


真白が聞き返すと、村長は湯呑に茶を注ぎながら、まるで世間話のように淡々と語った。


「目も鼻も口も……何もねえ。つるんと皮だけ。まっさらの肉だ」


あまりに淡々としていて、かえって背筋が冷える。


「似たような症状のやつが、この村には他にもいる。……共通してんのは、みんな“〇〇さん”の家に近づいたってことだ」


「〇〇さん?」


「そう呼んでる。あの家に住んでる、得体の知れねえやつのことをな。……『からおもての〇〇さん』ってな」


「……怪異に、名前があるんですか?」


「あぁ。住所もあるぞ」


その言葉に、真白は目を瞬いた。


「住所……?」


「そうだ。村の地番にも載ってる。〇丁目×番地。そこは、もう昔っから“〇〇さん”の家だ。誰も住んでねえはずなのに、なぜか生活感だけは残ってる」


村長はぼそりと付け足した。


「……お前らの使ってるその機械。結界演算装置とかいうんだろう。あれじゃダメだ。うんともすんとも言わなかった。……だから、最後の頼みでお前を呼んだ」


背筋を冷たい汗が伝う。

結界演算装置が、霊を“認識しなかった”というのだ。

それはつまり、システム上“そこにいない”と判定されたということになる。


「その家……案内してもらえますか」


村長は無言で、畳の隅に折りたたんであった地図を引き出してくる。指さされたその場所には、たしかにこう書かれていた。


──“〇〇さん宅”。

──“〇丁目×番地”。


(人じゃないのに……家を持ってる……?)


真白は、意味のわからない不気味さを引きずったまま、その場をあとにした。

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