第4話

「……ちょ、え?」


タクシーが止まった瞬間、**神楽坂 真白かぐらざか・ましろ**は助手席に乗ったままの怜司を睨んだ。


「なんで、うち?」


隣で涼しい顔をしている**烏丸 怜司からすま・れいじ**は、窓の外をちらと見ただけで答えた。


「次の案件、ここだ。あと、挨拶もかねてな」


「はあああ!? いやいやいや、うちの家族、結婚式すっぽかしたんだけど!? あんたの会社のことガチで嫌ってるから!!」


「知ってる」


「あと言っとくけど! 父も母も今パートでスーパーの品出ししてっから! 陰陽師の家系って言っても、うちはもう……!」


「知ってる」


「……」


テンポよく繰り出される「知ってる」の弾幕に、真白は言葉を失う。


「じゃあ何しに来たわけ?」


怜司は、タクシーを降りながら言った。


「おばあさまに、挨拶を」


 


 


「……」


それを聞いた瞬間、真白の中で何かが冷たく弾けた。


「……ふざけんなよ」


怒りが、胸の奥からこみあげる。


「おばあちゃんは、あんたの会社の“結界演算装置けっかいえんざんそうち”で、天国送りになったんだよ」


「……」


「確かに、地縛霊になりかけてたかもしれない。でも、でも……!」


声が詰まった。


「私は、もっと話したかったのに……!」


 


 


怜司は、何も返さなかった。


 


神楽坂家の仏壇の前に立つと、黙って手を合わせた。


線香の香りが、家の古い木材と混じり合って、どこか懐かしい匂いが部屋に漂う。


 


その背を見ながら、真白は思った。


(……どんな顔して拝んでるつもりだよ)


「なに……贖罪? 演出? 『人間らしさ』を取り戻す練習でもしてんの?」


心の中で毒づく。


だが、怜司はゆっくりと手を下ろすと、振り向いて口を開いた。


 


 


「……地縛霊のまま、この家に縛っておく方が、正しかったと思うか?」


 


 


「……え?」


 


真白の思考が止まった。


 


「家のため。孫のため。そうして“未練”に変わった思いが、いつか“呪い”になる。それでも、話したかったか?」


その声に、あの機械的な冷たさはなかった。


むしろ──、静かだった。


悲しみに触れた者だけが持つ、温度のない沈黙。


 


真白は答えられなかった。


(……なに、今の)


(あいつが“正論”とか、“情”みたいなこと言うなんて)


 


ごくり、と喉が鳴った。


「……」


そのまま、二人は無言で玄関を出る。


 


 


が──そこで、男が立っていた。


スーツのボタンをきちんと留め、背筋の伸びた姿勢。

髪は品よくまとめられ、どこかに余裕を滲ませた微笑を浮かべている。


 


「よく来てくださいましたね、怜司さん。そして──真白」


 


東雲 蒼汰しののめ・そうた


真白の許嫁だった男だ。


表向きは温和で優しく──

裏では、没落した神楽坂家を取り込むための駒として、真白を見ていた男。


 


真白は一歩、怜司の後ろに下がった。


怜司は、ピクリとも動かない。


静かな空気の中で、三人の視線が交差する。


 


 


──次の“勝負”の予感が、空気をぴりつかせた

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