第7話 状況整理
『ややこしくなってきたね』
「ややこしくなったな」
つい先ほどまで、あざとかわいい柚村さんの攻撃によって一種の錯乱状態に陥っていた俺だが、夕飯を食べてゆっくり風呂に入ると、段々と正気が戻ってきた。
今は殺風景な俺の部屋で姉と二人、柚村の恐ろしさを語り合っていたところだ。
いつものように
これが姉じゃなくて柚村だとしたら……俺は理性を保てる自信がない。恐ろしい子っ!
しかし、柚村の登場で本当にややこしくなった。
人間関係というのは、本当にわかりにくい。グループとかイベントとか、ほんと……。
というわけで、
『鈴ちゃんを取り巻く状況整理大作戦っ!!!』
葉瑠は天井に向かって意気揚々と手を上げる。大作戦ってなんだよ……。
『えー、鈴ちゃんを取り巻く人間関係は複雑な様相を呈しております。さすがのストーカー陽太くんもこの状況は予想しておらず、おねえちゃんと力を合わせて理解に努めたいとのことです』
「ストーカーじゃねえよ人間観察が趣味なだけだよ。あと勝手に人の部屋入ってきた上に場を仕切るのやめてもらえる?」
『それではさっそく始めましょー!!!』
葉瑠はもう一度高く拳を上げた。
……もういいや。
『まずはゆずきちゃんだよね!』
「あいつは単純だろ。ちょっこくとかいうわけのわからんリア充イベントを成功させるために、二荒を呼びたいと」
『うぅ……なんか嫌味がこもってるけど、たぶんそんな感じだよね……。でもさー、本当にそれだけなのかなー? 別に鈴ちゃんがいなくてもバレンタインなんだから盛り上がるだろうし、そのためにわざわざ陽太なんかに仕掛けてくるかなぁ?』
「うっせ。俺に気でもあったんじゃねえの? 知らんけど」
『それ……本気で言ってる?』
ベッドの上から心配そうな眼差しで見つめてくる実の姉。かわいそうな子……とか言ってきそう。
『かわいそうな子……』
「冗談に決まってんだろ! 次いくぞ次! 次は誰だ?」
『冗談は顔だけにしてね? ……えーと、じゃあ白沢くんは、どうだろ?』
「あいつは……二荒のことが好きなんだろうな。たぶん」
『だよね……』
白沢はイケメンだが若干抜けているところがあるので、考えていることはわかりやすい。
二荒へのアプローチがいつから始まったのかは知らないが、少なくとも冬休み明け、俺が二荒と隣の席になってからは度々そんな場面を目にしてきた。
野球部らしくボールだけを追いかけていればいいものを、よりによって二荒とはな。
「んで、バレンタインを機に勝負を掛けにきていると」
『にゃるほどにゃ~。陽太もうかうかしてられないね?』
「うっせ」
まあ、二荒の反応を見るに、その心配はなさそうだけどな。
『あとは……はなびちゃんかな?』
「あー、あれは……よくわからんな」
『え!? 幼馴染なんでしょ! なにその冷めた反応!?』
「幼馴染じゃねぇっつの……」
葉瑠は『なんだこの薄情者』という目で見てくるが、本当にわからないのだからしょうがない。花本とはただ小中が同じだった同級生にすぎず……特に最近のヤツはなに考えてるんだがわからん。
『まあ陽太には期待してなかったからいいけどねー。戦力外通告っ! ってことで話を戻すけど』
期待されないを続けてきたこと十七年、高嶺の花からチョコをもらえとか無理難題を言われ、できなかったら一生童貞にしてやると姉に脅されているどうも俺です。
『こら! 余計なこと考えない! ……で、はなびちゃんのことコバンザメって言ってたよね? 鈴ちゃんは』
「ああ。なんかでっかいサメにくっついてるとか言ってたな」
『そのでっかいサメっていうのがたぶん、ゆずきちゃんのことなんじゃないかな……』
「というと?」
『人気のあるゆずきちゃんにくっついて……なんだっけ? ほら、一軍グループの』
「グループY?」
ちなみに、グループYのYは柚村のYから来ている。それだけ柚村の存在感は大きいというわけだ。
まあ、俺が勝手に名付けたんだけどね。
『そうそう。グループYに入って、自分も人気者の仲間入り……みたいな?』
葉瑠は自分の推測に自身がないのか、話しながらも首をちょこちょこと捻っていた。
おそらく花本は柚村か他の連中にパシられて、二荒がちょっこくに参加するよう促していたのだろう……それが彼女の、グループにおける存在価値なのかもしれない。
ただ、葉瑠がいうほど人気者にもなれていないので、やはりヤツの考えていることはわからない。
『鈴ちゃんのことは、どう思ってるのかなぁ?』
「さあ……結局どっちつかずなんだよな……あいつは」
二荒と仲良くしたいのか、それとも柚村と愉快な仲間たちと一緒にいたいのか……まあ、どっちもってことなんだろうが、なんだか腑に落ちない。
いつからあんな女になっちまったんだかな。
『う~ん……わからない……』
そう、頭を抱えてしまうほどに複雑なのだ、高校二年の人間関係ってのは。
甘酸っぱいとかほろ苦いとか、どっかの偉そうな詩人が決めつけた言葉では表せないくらいに、めんどくさくて気持ち悪い。
そこまでして、彼らは見えない青春を追い求め、醜い三角関係や四角関係を築き、黒歴史を量産していく。
……本当にめんどくさい。
本当に……ぶっ壊してしまえばいいと思うほどに。
ともかく、あいつは――花本はなびは、
「コバンザメっていうより、伝書鳩だな」
『うーん……言いたいことはわかるけど、なんかはなびちゃんがかわいそう……』
「そうか? 平和の象徴だぞ? むしろ光栄だろ光栄」
『うーん……だからうちの弟はモテないのかぁ……』
葉瑠はなぜかうんうんと頷き、一人で納得していた。
なんかイラッとくるけど……もういいや。
今日は色々あって疲れたし、そろそろ寝よう。めんどくさいことは明日になってから考えよう。起きたら嫌なことは忘れてるかもしれないし。
寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおー!
……忘れないんだよなぁ、これが。むしろ夢にまで出てきて最悪の目覚めになるんだよなぁ。悪夢悪夢。
……いや待てよ? 柚村が出てきたらむしろ……ムフフ。
『なーににやけてんの? エロ助くん?』
「うっせ。寝るから早くそこどけよ」
『あー冷たい。じゃあ今日はおねえちゃんと寝る? おねえちゃんのここ、空いてますよ?』
「…………」
いいかげん突っ込むのもめんどくさいので、物理的に突っ込んだ。
ヒヤッと冷たい感覚がするが、気にしない。
『ひゃあ! なんか普通に貫通してきた!? 幽霊だからってやっていいこととだめなことが――』
「おやすみ」
やっと姉が立ち上がってくれたので、かちゃりと電気を消す。
『ねぇ! 今あたしのお尻触ったよね!? ねぇ!』
「触ったじゃなくて、貫通した、な」
――とまぁ、しばらく葉瑠はあーだこーだと文句を言って、いつのまにかいなくなる。
安心してくれ。俺たちは血の繋がっている姉弟だし、互いに物理的に干渉することもできない。
だからいやらしいことは何も起きないし、姉のパンツを間近で見ても何も思わない。
……大学4年にもなって、まだピンクの下着なんて履いてたのか、こいつ。
いや、むしろ大人になったからこそピンクなのか? 白はむしろ子どもっぽいのか? 普通は黒? それとも赤……?
俺はパンツの神秘について考えながら、深い眠りにつく。
スカートを覗くとき、スカートもまたこちらを覗いている……。
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