影より現れし者
(魔物の…収容所?一体何を言ってるんだ?)
魔物の知識に関しては疎いフェリクスでも、理解しがたいモノだった。確かに魔物を制御したという実績はあるが、時が経てばすぐ効果がなくなることが実証済みであり、今は管理できても近いうちに制御できなくなるのは誰でもわかるはずだ。
そんな魔物を収容するなど、闘技場の見世物にするにしてもコストが掛かりすぎる。こうしたビジネスに長けてるローテ・ヘンドラーならば無駄な費用は避けるはずと思ってるフェリクスだからこそ疑問に感じていた。
「中の構造は…っと、ついたな」
話そうとした矢先に、重厚な鋼鉄の扉の前で立ち止まる。看板等はないが、おそらくここが先ほど言った魔物の収容所に続く扉だろう。
「説明するより見ればわかる、とにかく行くぞ」
「あっはい」
警備員が鋼鉄の扉を開け中に入り、フェリクスもその後に続く。
中は薄暗く広々としており、道中はあちらこちらに警備員がいたのに対しここには全くと言っていいほど人がいない。あるのは何も収容していない複数の檻だ。
(…獣っぽい匂いは全くしないな、確か動物を素材に魔物を作るってしょちょーから聞いたけど)
以前ヴァイスサンドビーチで戦ったザンクカルマール、リリィと戦ったライオンの魔物を見ればわかる通り、魔物の大本となるのは動物だ。しかし、この部屋には動物特有の悪臭等は一切感じられず、あるのは血の匂いぐらいだ。
それに空になってる檻をよく見ると、木製で出来た粗末な机や椅子など動物を収容するにはまず必要のないものがちらほらある。
「本当に魔物がいるんですか?どこにもいませんけど」
「それはお前の予想している魔物の収容所のイメージが違うだけだな。ここは動物園みてぇに魔物をそのまま放り込む場所じゃねぇ」
「…?いやでも、ならどうやって魔物を…」
「それはこれからのお楽しみ…おっと、そろそろ口を閉じとけ…そろそろ隊長の元につくはずだ、こっからは走っていくぞ」
そう言うと警備員は突然走り出し、フェリクスもそれを見て走る。重装甲のスーツとヘルメットを装着し、元の持ち主が持っていたショットガンも背負っているのでかなりきついが弱音は吐かず走り続ける。
「遅いぞお前らァ!休憩はとっくに過ぎてるんだぞッ!」
しばらくは走ると奥から怒鳴り声が聞こえる。目を凝らすと、重装甲のスーツを着ているがヘルメットを付けづ睨みつけてくる女の姿が見えた。
おそらくあれが警備員の言っていた隊長であろう。既にフェリクスらと同じ格好をしている警備員たちが集まってる。
「遅れて申し訳ございません隊長!ちょっと用が長引いて…」
「言い訳などいらん!今日が何の日だったかわかっているのか!」
「…え?」
突然の問いに警備員が困惑していると、3秒もせず隊長の拳が警備員の腹に叩き込まれた。
「オグゥ!?」
重装甲だろうと痛いものは痛い。警備員は腹を抱え膝が崩れ落ちかけたがギリギリで踏んばり止める。
「バカ者が!今日は親衛隊、それも諜報機関長が来訪する日だぞ!」
「……やっべ」
ようやく思い出したのか警備員の被ってるヘルメット越しから大いに焦ってる声を漏らし汗を流し始める。
だが、何より驚いてるのはフェリクスだった。
(し、親衛隊!?しかも今日…てかコイツ諜報機関長と言ったか!?)
親衛隊はいくつかの機関が存在しており、警備や諜報に軍事まで幅広くあり、その機関のトップは機関長と呼ばれ、親衛隊内でも発言力のある幹部職だ。諜報機関長はその名の通り諜報を専門とする【親衛隊諜報機関】のトップである。
今までは親衛隊が関わってるのはオリビアの予測の範疇に過ぎず、明確な証拠はホテルの時でも見つかることはなかった。だが、こんな親衛隊が摘発すべきこのカジノに、それも諜報機関長であろう者が来たとなればスキャンダルどころの話ではない。
(ぐぬぬ…こんなことならカメラぐらい持ってきたら…いや、今は何としてでもこのチャンスをものにしなくては!)
証拠を残すことができないのが口惜しいが気持ちを切り替えていると、隊長の目線がこっちに向けられてるのに気づく。
「貴様、私が叱ってるのにボーっとするとはいい度胸だな?」
つかつかと隊長はフェリクスの方に近づく。さっきまでボコボコにされていた警備員はボロボロであるものの、いつの間にか警備員の集団の中に並んでいる。
「その寝ぼけた頭を叩きなおしてやる!ヘルメットを外せ!」
「エッ!?」
流石のフェリクスも声を出して動揺した。最悪バレるのはいいがようやく重要な情報が入るって時にバレるわけにはいかない。さっとヘルメットを片手で取られないよう掴み、もう片方の手で最悪を想定しAKWの柄に手を伸ばそうとした…その時。
「おやおや、揉め事ですかな?」
暗闇の奥から響く声を耳にした隊長は一瞬で青ざめ、フェリクスから離れ声の下方向に向き敬礼を取る。他の警備員も敬礼し、フェリクスは若干遅れながらも敬礼をした。
つかつかとこちらに向かってくるのは、四人の黒い軍服を全身に包み込む軍人。表情は無表情であり見られてるだけで威圧感を漂わせる。そして彼らの被ってる軍帽には赤い光を模した紋章が刻まれている。
彼等こそがグロリア帝国において最大勢力の組織とされる親衛隊の隊員だ。
そして、真ん中でヘラヘラと笑みを浮かべながら隊長の方に顔を向けている明らかに雰囲気が違う者がいた。同じく黒い軍服を着ており、他と見比べても明らかに身長が低くざっと見ても150cmあるかないかぐらいの低身長ながら、その胸は豊満だった。
「いえ!何事もありません!ビルセント機関長!」
「あっそ、ならいいけど」
警備員…という名のマフィアを前にしながらも、ポケットから取り出したアメを舐めて興味なさそうにしている彼女こそが、親衛隊の諜報を一括する親衛隊諜報機関長…ビルセント・ファーネスである。
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