バニーガール潜入作戦

(ここはなんだ?オペラ…って雰囲気でもないが…)


まるでオペラのボックス席のような部屋で、一人のバニーガール…否、オリビアは部屋に置かれた赤いに座り、不安げな表情をしていた。

目の前には古代の闘技場めいた円状のステージがある。周囲は壁で覆われ、出入り口と思わしき二つの重厚な門が設置されている。白い砂で敷き詰められた床の所々には赤い血で染まっていたり、臓器または亡骸のようなものが転がっていた。

そしてその壁の上には観客席が囲うように広がっており、空席が存在しないほど人で賑わっていた。なお、オリビアのいる場所はその観客席より上に位置しており、全体を見下ろすことができた。


「早く始めろ!」「内蔵が飛び散るところを見たい!」「血が見たくて仕方ないわ!」


周囲の客たちは熱狂的なまでな声を出し、あまりにも品もなければ倫理観もないことを堂々と叫び続ける。客のほとんどが豪華なドレスやスーツで身をこなし、中には仮面のような物をつけてるものもいる。

そんな風貌からは想像もできないほど下劣な叫びに、思わずオリビアも耳を塞ぎたくなった。


「フフフ…確かこれを見るのは初めてよね?」


オリビアの隣に座っている悪魔のような角と尻尾を生やしてた妖麗な女が、オリビアの腰に手を回し寄せながら話す。


「…ハイ!一体ここで何が始まろうとしてるんですか?」


反射的に突っぱねようとしかけるが、衝動を抑え、表情も笑顔に戻しながら問いに答えた。


「それはね…っと、そろそろ始まるようだし、見ながらお話しましょうか」


回した手で体が引っ付くほど近づかせると、女の視界はステージのほうに向けられる。オリビアも同じ方へ向けると、いつの間にかステージの真ん中でスポットライトを当てられてる。そこにはマイクを片手に煽動的なまでに過激な格好のバニーガール…いや、司会が立っていた。


「えー、皆さん!大変長らくお待たせしました!これより、特大イベントの地下闘技戦の開幕です!!」

「「「ウオオオオオオオッ!!」」」


宣言と同時にスポットライトはステージ全体を照らし、観客たちの熱を帯びるように声で会場は包まれた。その熱を前に思わず息を飲み込むオリビアを見て、妖麗な女は愉快そうに笑みを浮かべた。


「大昔に剣闘士と呼ばれる戦士が猛獣や同じ剣闘士を相手に戦いを繰り広げたコロシアム…ここ地下闘技戦はそれを現代再現させたものよ」

「だけど、こんなの少しでも表に広まったら…」

「当然、即摘発よ。でも、ここにいるみーんなは誰も密告しようとしないし、話そうとしない。その理由は…この熱狂を見ればわかるでしょ?…おっと、どうやら早速始まるようね」


説明を聞いていた間に司会はステージから姿を消し、別の場所で実況を行っていた。


『さぁ、まずは景気づけに前哨戦から行いましょう!』


司会が言い終えたのと同時に、一つの門が開かれる。奥からぞろぞろと何人もの人がステージに現れ始めた。


その様子は様々であり。緊張する者、絶望する者、恐怖で震えてる者など、どれも不の感情で包まれている。恰好もまばらで、薄汚れた服装の者もいればどこにでもあるような平凡な服装を着てる者もおり、中にはバニースーツの者さえいる。


ざっと見渡しても闘技場に参加できるような選手としての風格は一切ない。だが、ただ一人、オリビアの目を一寸で奪った選手がいた。


遠くから見てもおおよそ2mはあるとわかる長身、着ているバニースーツのコンセプトからかけ離れてるドラゴンのような角と尻尾を生やし、明らかに周りに比べて楽観的な表情をしている女。その顔にオリビアは見覚えがある、いや、見覚えしかない。


(なに選手として参加してんだよリリィィィィィィッ!?)


オリビアの脳内は大声で包まれた。






ヴォルファーレ。ローテ・ヘンドラーのカポの一人『コラプス・メッテルニヒ』が開いた地下カジノであり、存在そのものさえ知る物はそう多くはない。カジノに従事する者ほとんどがローテ・ヘンドラーの関係者、もっと言えばコラプスの配下であり、カジノ全体で目を光らせている。


だが、バニーガールやバーテンダーといった特殊な役職を持つ者はその限りではない。流石のコラプスも全ての従業員を配下の者で統一するのは難しく、こうした時は外部から募集し調達するのがほとんどだ。


特にバニーガールの採用基準は特に緩く、大抵は債務者だったりコラプスが別で運営している風俗嬢から引っ張り出して来たりするが、正直なところ顔と体が良ければ誰でも採用される。


「ようこそローテ・ヘンドラー系列ヴォルファーレへ!どうぞ素敵なひとときをご堪能くださいませー!」


ワインボトルとグラスを乗せたトレイを片手に、平坦ながらもギリギリまでしか胸を隠せれておらず、下半身のほうの角度も高いバニースーツを着ながらも元気よく接客を行ってるオリビアがその例だ。


親衛隊の手がかりを探す為に潜入捜査をするべく、オリビア、リリィ、フェリクスの三人はネーベルの手助けを借りながらもバニーガールとして中に入る事ができた。


(…わかってたことだが、やっぱりどこを見渡しても構成員みてぇな奴が目を光らせてるな)


オリビアの視界にはサングラスを掛け、拳銃やAKWを装備してる見るからに近寄りがたい警備員が何人も辺りを見回っている。誰からどう見てもローテ・ヘンドラーの構成員だ。


「どこいってもあの物騒な奴らがいやがって調査もできやしねェぜ」


いつのまにかオリビアの背後からすっと現れたリリィが周りに聞こえない声量で伝えた。彼女もまたバニースーツを着ており、普段はコートやズボンで隠してる体の鱗が露出している。


「ここはいわば敵地のど真ん中だ。そう簡単に探し物が見つかるとは思ってないよ」

「となりゃあ、しばらくはここで働き続けねェといけねェのか?流石にきついぜそりゃ」

「仕方ないよ…何より、帰るのにも一苦労しなきゃいけないみたいだし」


オリビアの言う通り、ここから脱出するのはそう簡単なものではない。

ここで働くバニーガールは施設内で住み込むことが半ば強制的に定められる。衣食住は運営側が負担してくれるが、買い物等はカタログなどで注文することしか許されず、外出が認められるのは一部の高い成績を残した者しか許されない。

ようは一度ここに入った者は死ぬまで縛り付けるつもりなのだ。こうなればオリビアたちと言えど脱出するとなれば衝突はさけられない、逃げるのは最後の手段なのだ。


「今は嫌でも耐えるしかない。親衛隊に近づくために必要な苦労の一つさ」

「オレはいいけどよぉ…アイツは大丈夫なのか?」


背後に親指で指した先には、赤面し体を今すぐにでも隠したいぐらい恥ずかしがってるフェリクスの姿があった。着ているバニースーツはオリビアらと大差ない、そもそも彼女自身幼いころからいろんなことをされてきたが、バニーガールのような恰好をするのは初めてである。それ故に緊張と恥じらいが現在進行形で発生しており、両手で持っているトレイの上のグラスがガタガタ揺れてるのはその証拠だ。


その最中、オリビアとリリィの存在に気付いたのか、助けを求める眼差しを二人に向けた。


「…よし、あんまり固まってると不審がられるし持ち場に戻るぞ」

「だな」


二人は逃げるようにその場を離れていき、フェリクスは涙目になるも何とか適応しようと恥を忍び、接客作業へと戻った。

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