白い砂浜

「今回の異常気象は例年より更に熱く、長期に続くとされており、今後も海水浴に来る客が更に増える予定です」

「トラブルの件数が今日だけでも32件上がっています」

「許可もなく店を出してる者が複数確認されてます」


とある会議室にて、複数人もの職員らしきものたちが書類を手に報告を出し合っている。どれも厄介事ばかりであり、良い報告は一つもない。この場を仕切ってると思われる一人の女職員は報告一つ一つを聞くごとに溜息の数が増えていく。


「…本社に送った増援申請はどうなった」

「却下されました。どうにもまた帝都でテロが発生したようでここに回すほど余裕がないようです」

「クソッ…あの便利屋はいつくる?」

「即承諾し明日の昼前には来る予定です」


この場において初めての朗報に思わず息を吐いた。


「しかし、この便利屋イグニートはそれだけ実力があるのですか?どうにも信用できませんが…」

「そこら辺の傭兵より腕っぷしは確かだ。何より期待以上の仕事はこなしてくれる…なにより、魔物も相手にできる」


その言葉に職員一同は口を閉ざし、不安の表情を浮かべる。


「…魔物の目撃情報に関しては今のところ続報はありません…やはり、気のせいだったとう可能性は…」

「だったら海上警備隊の1チームがパトロール中に突然行方不明になった件はどうなる?例え本当にいなかったとしても何事も備えておいて損はない」


彼女の言葉を前に不安な表情は深まるばかりだ。彼女は窓の方へ眼を向ける。夜空のもとで照らされる美しくも、どこか恐怖心を感じさせる海が見える。


「…せめて観光客に被害がでなければいいが」




ヴァイスサンドビーチ。グロリアにおける唯一といっても過言ではない海水浴を楽しめる場所だ。基本的にグロリアは年間の平均気温が低く、普通であれば特別な目的がない限り、誰も足を踏み入れない。


だが、異常気象による気温上昇が発生すると、皆こぞってこの場所へとやってくる。すべては滅多に味わえない海水浴を楽しむ為、地獄みたいな気温を紛らわせるために。


「いやぁ、初めて来ましたけどすごい人数ですね!」

「そりゃそうだろ。この暑さだ、誰だって海で泳ぎてぇに決まってんだろ」


フェリクスとリリィは辺りを見渡し、人だかりで賑わう様子を見る。昨日から準備を終わらせ、早朝から依頼主から用意してくれた車で数時間走らせてここまで来た。今はまだ午前中であるが、砂浜から海まで人でいっぱいだ。


「一応言っておくが、私たちは仕事で来てるのを忘れるなよ」


二人の後ろの方からオリビアの声が聞こえる。声色は真面目そのものだ。

そう、今回ここに来たのは遊びに来るためではない、依頼のためだ。依頼主はグロリアでも有数の警備会社『シルト』からであり、端的に言えばビーチ内で問題を起こす者たちの対処、ひいては襲来してきた魔物の討伐だ。


こうした人の集まる場所を格好の餌場としている犯罪者は後を絶えず、窃盗を行う者もいれば、暴力沙汰、最悪の場合テロめいたことをしでかす輩が現れる。そのために警備員が求められるが、どこも満遍なく人員を配備できるほど余裕はない。


今のグロリア帝国はほぼ全体的で治安が不安定であり、どこもかしこも治安を守る者が求められる。現にシルト社はヴァイスサンドビーチにあまり構っていられないぐらい忙しいのだ。そこで目を付けたのが便利屋イグニートだ。

オリビアとリリィは何度もシルト社から依頼を受けてはこなしており、実力もあってか強く信頼されている。故に依頼として臨時の警備員とし任されたのだ。


「依頼元はウチのお得意様であり太客のシルト社からだ。いい加減にやることは勿論、真面目にやらないと今まで積み重ねてきた信頼を壊しかねないことを忘れるな」


シリアスな雰囲気でオリビアは二人に話し続ける。だが、そのリリィとフェリクスから向けられる視線は疑いと呆れが混ざっている。

現在のオリビアはサングラスを掛け、レース付きで布面積がやや少ない白ビキニを着用し、手には近くの売店で買ったメロンソーダを持っている。説得力などあるわけがなかった。


「ほんとお前…よくそれでそんなこと言えるな」

「まぁ、さっき担当者みたいな人から服装は自由でいいって言われましたしいいんじゃないんですか?」


だが、水着姿なのはオリビアだけではない。他二人もそうだ。

リリィは赤黒いビキニの上にラッシュガードを着こみ肌をなるべく露出しないようしている。通行人に肌の鱗がぶつかって怪我させないための保険だ。

フェリクスのほうはピンクのフリルのスカート付きの水着を着ている。出発前は自前で持って来たさらしとふんどしで行こうとしたが、オリビアらに止められ新しく買ってもらった新品の水着だ。


「…オホン!とにかく!私たちがやるべきことは迷惑客の対応および異常がないかの確認だ!そのためにも周囲に溶け込む格好でいるのは至極当然のこと!」


演説の如く机上に振舞いながらオリビアは自身の格好の正当性を語り続ける。リリィの目は冷ややかであり、フェリクスは困り顔だ。


「何より普段来てる服より断然に涼しい!熱中症で倒れる心配もないというわけだ!」

「オレらはともかくお前はコートの下に下着着てるだけだろ。コートオフだと今と大して変わってない格好してんじゃねぇか」

「下着って言うなァ!!」

「ま、まぁまぁ!せっかく海に来たんですし海上での警備という名目で泳ぎに行きましょうよ!あっ、私もそのメロンソーダ飲みたいんで後で売ってるところ教えてくださいしょちょー」




「彼女たちが便利屋イグニートの?」

「あぁ、前までは二人だったが最近新しく従業員が増えたらしい」


やや離れた場所でオリビアたちの様子を眺めている者が二人いた。二人もまた水着の上にラッシュガードを着ており、盾のエンブレムが刺繍されている。シルト社の紋章だ。


「本当に大丈夫なんですか彼女たち…」

「あれ見たらそう思うのも無理はないが、実際に問題が起きれば即座に動いてくれるから安心しろ」

「…やけに信頼されていますね、ネフェリ隊長」


豊満な胸を緑色の水着で包み込んでいる女…ネフェリは小さく笑みを浮かべ、タバコに火をつけ口にくわえた。


「何度か依頼を共にした身なんでね、まぁ、見てりゃわかるさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る