諸突猛進の番犬
朝日の光が窓から差し込み暗い室内を照らす。黒い下着だけを着てベッドで横になってるオリビアは太陽光と頭痛で目が覚めた。のそっと片手で頭を抱えながら起き上がる。
「……飲みすぎたか」
前日の記憶はあまりない。酒場での出来事やリリィから聞いた依頼に関することは覚えてるが、そっからは記憶がぼやけてしまう。とりあえずベッドから降りるべく動こうとしたら、何か堅いものが足を振れた。
「…ん?」
オリビアは訝しむ、ベッドの上には布団や枕ぐらいしかなく堅いものなどあるわけがない。布団をめくり中を覗く、影になっててうっすらとしか見えないが何であるかは理解できた。それは長く、大きく、鱗があり、じっと見てるとたまに動く。尻尾だ、より正確に言えばドラゴニュートの尻尾だ。
誰がいるのかわかりきっているが隣に目を向けると、そこには熟睡してるリリィの姿があった。布団をめくってみると何故か彼女も下着姿であり、無骨なデザインをした灰色の下着を着け身体の脚や腕、胸元やらの一部の身体に鱗がある。布団が無くなったのと恰好も相まって寒く感じたのか尻尾を身体に巻き付け暖を取ろうとしている、まだ起きてないようだ。胸はオリビア同様とても小さい。
普通に起こしてやろうとも思ったが、突如としてオリビアにある好奇心が生まれる。
(そういやこいつ尻尾が弱点って自分で言ってたよな)
いつぞやで珍しく酔っていたリリィから聞いたことを思い出し、そう考えた時には既に行動に移っていた。寝起きのテンションというのもあるがオリビアは考えたらすぐ実行する癖がある。彼女は躊躇うことなくその先っぽを振れた瞬間。
「んひゃあっ!?」
リリィの普段なら絶対出ない声が響き渡る。予想外の声のびっくりしたオリビアは防衛機制で反撃に来た尻尾に対応することができず被弾し吹っ飛ばされた。胸を叩かれ2,3回は床を転がり痛みで悶絶した。
便利屋イグニートの事務所はフライハイトの一角にある。立地的には悪くなく、人通りも多い場所でもあるため偶然事務所の看板が目に入り依頼を任せようと思ったと言う依頼人もいるぐらいには目立っている。内装はいわゆるレトロチックな雰囲気があり、レコードプレイヤーや大量の本棚が飾られている。オリビアとリリィはここで同居しているのだ。
「お前なぁ、いくら何でもデリカシーってのがあるだろ」
リリィは呆れた様子でコーヒーを入れながら喋り、オリビアは尻尾を食らった腹をさすりながらソファで横になっている。二人とも流石に軽く着替えており、リリィはシャツ一枚だけを追加で着て、オリビアはスパッツを履いている。少なからず両社とも人前でいられるような恰好ではない。
「嘘かほんとなのか気になるじゃん…前々からドラゴニュートは尻尾が弱いという逸話を聞いたことあったから興味はあったんだよ…」
「なんでそんなクソみたいな話が広まってんだふざけんなよマジで…」
そんなことを言いながらリリィはコーヒーを入れた二つのカップを運び、そのうち一つをオリビアの前に差し出した。
「さて、改めて聞くがやるか?あの依頼」
「……シュヴァルツアクスのボスからの依頼だろ?下手に断ったらそれこそ面倒なことになりそうだし。だがまぁ、最終的に受けるかどうかはちゃんと話を聞いてからかな」
そう言ってオリビアはコーヒーを口に運ぶ。甘めだが確かな苦みも感じれる、好みの味だ。
便利屋イグニートは何でも屋ではあるが殺し屋ではない、殺人の依頼などは受けない方針でいるのだ。
「まぁギャンググループを皆殺しにしろだの、ぶっ殺して死体を晒上げにしろだの。そういったエグイ依頼ではないと思うけどな。メインはどうやら麻薬の流通の阻止みたいだし」
「ならいいが…そういやいつこんな依頼貰ったんだ?」
「あぁ、昨日の酒場で会うちょっと前までは事務所に帰ってたんだよ。んでまだオリビアも帰ってきてないから飲みに行こうとしたら扉の前に依頼が書かれた手紙があってね。確かこの中に…」
壁にかけてあったコートのポケットからの一枚の手紙を取り出しオリビアの前にだす。中身を取り出せば依頼内容と報酬、そして組織や依頼主の名の書かれている。内容は要約するとこうだ。
『ここ最近のフライハイトで広まっている新型の麻薬の流通元とされるギャングに関して調査を願いたい。詳しい話は直接会って話す。シュヴァルツアクス三代目ボス、シレジス・アーカイン』
「報酬は有益とされる情報だけでも30万メルク…目的である麻薬を売りさばいてる連中をぶっ潰せば500万メルク…何でも屋に対する依頼料として考えたらとんでもない金額だ。上手い話し過ぎて怪しいな」
「気持ちはオレもわかりはするがよ、薬が広まってるのはまごうことなき事実だし、その被害を無視はできないだろ?それに向こうはマフィアの中でも巨大な組織シュヴァルツアクス、普通の人からでは得られない情報もあるはずだ」
「裏社会のことなら同じ裏社会の人間から聞くのが一番…か。なら行くとしよう、どのみち依頼を受けるか受けないかは直接会って話さしてから決めないとだし」
オリビアはソファの上で乱雑に置かれていた白い上着を手に取って羽織い、リリィはいつの間にか茶色のコートに着替る。二人は事務所のドアを開け外へと出て行った。
夜に限らず朝のフライハイトも人でいっぱいだ。職場へと出勤してる者もおれば遊びに行こうとする者もおり、中には朝だというのに酔っ払いふらふらと歩いてる飲んだくれさえいる。フライハイトではよく見る光景だ。ネオンライトがなくとも目立つ店も多く、飲食店、酒場、ガンショップ、風俗などが建ち並ぶ。
「おっ、いつの間にかあそこに武器工房が開いていたのか」
「前までは確かアクセサリー店だったけどな、ほんとこの街は店の入れ替わりが激しいもんだよ」
フライハイトに住み込んでる二人でさえ知らいない店もあるほど、この街での競争は激しい。というのも、大抵ここで店を開く場合はバックにギャングやマフィアなどの勢力がある場合が多く、そうした後ろ盾のない店は長生きすることはできない、風俗やカジノといった店なら猶更だ。この街で古店で老舗であり続けるのは相当の経営手腕か巨大なバックがあるうえで成り立っている。
「最近だとパーラーフリッシュも潰れたらしいぞ」
「マジで!?前々から行こうと思ってたのに…」
「だから行くならとっと行ったらどうだって言ったんだよ。後からってしてたらどうせ無くな…と、どうやらついたみたいだな」
歩き続けて数十分、雑談しながら話していると巨大な豪邸めいた建物が視界に映る。目的の場所であるシュヴァルツアクスの本部にたどり着いた。ギャングの場合だと拠点は基本的に裏路地にあるが、マフィアそれも巨大な組織となると表通りにあることが多い。組織の力を堂々と示す意味合いもあり、ここら一帯は自分のシマだという敵対勢力に対する警告ともなる。
「でけぇな、マフィアの本部だと知ってると要塞みてぇだ」
リリィは本部全体を見渡しながらそう話す。
「中にいくつもの兵隊がいるのも考えたら間違ってはないな。とりあえずとっとと行くぞ、あまり客人を待たせるわけにはいかないからな」
そう言ってオリビアは中に入ろうと入口へ向かいリリィも後に続こうとした。
「おい、そこのお前ら止まれ」
だが、その入口付近で立っていた一人の女が二人を止める。
背はやや低く、服装は赤ピンク色の着物のような上着とスカートに腰には刀を携えている。グロリア帝国ではなかなか見られない珍しい服装だ。胸はとても小さい。
「見ない奴だな、どこのギャングの下っ端だ?ここがシュヴァルツアクスの本部って知ってのことか?アァ!?」
「は?いや私らはこの中にいるボスの方と話しがあるだけで」
「ボスを狙ってるって言いたいのかテメェら!この本部の守りを任されてる私によくもそんなナメたこと言ってくるとはな!」
「おいシュヴァルツアクスってこんな狂犬だったか?」
明らかに敵意剥き出しの少女を前に二人は流石に困惑する。
「上等だ!来るなら来やがれ、このフェリクスが相手してやる!一歩たりとも近づけさせやしない!」
「……リリィ、少し下がっていてくれ」
「いいのか?こんな急に問題起こして」
「問題もなにもどう見ても向こうから仕掛けてきてるだけだろ…それに、話してわかるような状態には見えん。手荒だが落ち着かせるならこうしたほうが早い」
「…わかったよ、だけど厳しそうなら介入するからな」
「そこの判断は任せるよ」
そう言ってオリビアはフェリクスと名乗った少女へと近づき構えを取る。
「セイヤッ!」
先に動いたのはフェリクスだ。叫びながら接近し鋭いチョップを繰り出す!オリビアはすかさず腕でガードしカウンターの蹴りを頭めがけ放つ。
だが、フェリクスはそれを直ぐ様しゃがんことで回避!
(…!コイツ、なんとなくわかったがそこら辺にいるギャングとはまるで違う!)
「セイッハァァァァ!!」
そしてその場でジャンプし、回転してカカト落としを繰り出した!狙いはもちろんオリビアの脳!だがオリビアはバックステップを取り回避、フェリクスのカカト落としは地面に直撃しアスファルトの破片が飛び散る。
「今の攻撃を避けるとは、ギャングにしてはなかなかやるじゃないか!」
フェリクスは余裕の笑みを浮かべた。オリビアは静かに構えを崩そうとしない。
(今んところは互角、オリビアの魔法はまだ使ってないし本気ではないと思うがそれは向こうも同じはず。本部の門を任されるほどの実力者、いったいどれだけのものか…)
リリィは静かに二人の様子を見守った。もしも万が一を考慮して乱入することも視野にいれている。
「だがまだまだこんなものじゃないぞ!この私フェリクスの真の力を!お前らに見せてや」
その時、フェリクスの背後にある扉が突如開かれ、なにかが投擲された。それはモノリスめいた鉄の板のようなもの、室内などで飾られるオブジェクトだ!
「ンアッ!?」
後ろから、それも自分が守ってた入口から攻撃がくるなど考えてなかったフェリクスは後頭部を被弾!そしてフラフラとした後、その場に崩れ落ちた。
「たくっ、少しは他人の話を聞けつってんだろ…」
ため息を吐きながら黒いスーツを着たメガネの女が現れた。両端には部下と思わしき同じようなスーツの女がいる。シュヴァルツアクスのマフィアであることを二人は直感で理解した。
「どうもあなた方がかの便利屋イグニートで間違いないでしょうか?」
「…あぁ、そうだ」
オリビアは構えを解き懐から便利屋の名刺を取り出し渡す。それを見たメガネの女は納得したような様子で名刺を豊満な胸に付けられてるポケットへと収納する。
「まずはうちの者が大変失礼な事をしたことをお詫びいたします、私はシュヴァルツアクスのカポであるベルナデッタ・ホープと申します」
「謝罪とかはいいよ、こっちは怪我とかしてないし。便利屋イグニートの所長、オリビア・イグニートだ。そして私の後ろにいるのがうちの従業員」
「リリィ・ザルムートだ、どうぞよろしく」
ベルナデッタはニッコリと笑った後に両端にいた女マフィアに目を向ける。
「おい、お前らはフェリクスを運んどけ。話が終わるまでしっかり躾しておけよ」
「「ハイ」」
そういうと二人の女マフィアはそれぞれフェリクスの腕を掴み引きずりどこかへと運んでいった。
「ではここから先は私が案内いたしましょう。奥の方でボスが御二人をお待ちしておりますので」
「…あぁ、わかった」
二人はベルナデッタの案内で、今度こそシュヴァルツアクスの本部へと先に進んだ。
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