恋のはじまり、詰め合わせました。

星ノ律

鈍感少年

「小田せんぱーい! 一緒に写真撮ってもらえませんか!」


 ランニングに向かう途中、友人の小田が一年生の女子に声をかけられた。


「おう、もちろんいいよ! えーと……確か、ハルカちゃんだったよね? えーと……隣の子も一緒に?」


 小田は、その女子生徒に意気揚々と答える。

 

「はい、この子も一緒にお願いします! ——あと一緒に、佐山先輩もいいですか? 出来れば四人一緒で」


 はい!?


 俺も一緒に!? 佐山という、俺の名字が出たことに驚いてしまった。



 早速、撮影が始まった。


 ハルカは右手を掲げ、俺たちを入れた自撮りを始める。俺も枠から外れないよう、緊張しながらも顔を寄せる。

 

 ディスプレイには、キレイに四人の顔が収まった。そんな中、ディスプレイに映るハルカの友人につい目が行ってしまう。黒目の大きな、笑顔が可愛い女の子だ。


 その後、角度やポーズを変えて五枚ほど撮る。女子はホントに自撮りが上手だ。


「先輩ありがとうございました! 小田先輩、あとで写真送るんでLINE教えてください!」


 ほう、なるほど……


 写真も撮れて、LINEも交換出来るわけか。これは、一石二鳥だ。


「もちろん! ——で、ハルカちゃんさあ。やっぱ、マネージャーは無理? テニス部の一年生マネージャー、一人しかいないから大変なんだよね……」


 二ヶ月前、新入生の下校時間に合わせて、毎日のように新入部員の勧誘をした。部員は少しずつ増えるものの、マネージャーは一向に希望者が見つからなかったのだ。そんな中、もう一押しで入ってくれそうだったのが、このハルカだった。


「んー……今はバイトしてるから無理だなあ。バイト辞めることあったら、また考えます!」


 ハルカと友人は「ありがとうございました!」と言うと、校門の方へと駆けていった。



「ハルカちゃんもだけど、友達も可愛かったな。——俺たちに気があるよ、あれは」


 後輩女子に声をかけられて、小田は得意げだ。まあ、確かにコイツはそこそこのイケメンだし、一緒にいて楽しい。モテる理由も分かる。


「俺たちってか、目当ては小田だろ? ハルカちゃんは完全にお前って感じだったし、もう一人の子だって一度も俺のこと見てくれなかったし」


「——じゃあ、なんで佐山も一緒に撮ろうってなるんだよ」


「お前さあ……俺もいるのに、俺だけスルーとか可哀想だからに決まってるでしょ? って言うかさ、ハルカちゃんに『付き合ってください!』とか言われたらどうすんの?」


「ハルカちゃんなら、OKに決まってんじゃん。——って言うかすまんな、お前の高二の目標サラッとクリアしちゃって、ハハハ」


 高二の目標かぁ……


 そう言えば高校二年生になってすぐ、部活終わりのファミレスで、俺たちはそれぞれの抱負を語り合った。


『ダブルフォルトを減らす』『まずは地区予選を勝ち抜く!』


 そんなテニスの話で盛り上がったのも、最初の内だけだった。


『やっぱり彼女欲しいな、それも下級生なんかに告られたりしたら最高だな!!』


 なんて話題に、自然と話題も移っていったのだ。


 その時に言った、俺の目標は——


「えー……テニスの方は、試合中に緊張しない。恋愛の方は……後輩から『LINE交換してください!』って言われたい。以上」


 皆に「目標ちっさ!」と笑われたのは言うまでもない。


 ちなみに、小田の目標は“後輩に告白される”ってことだった。



***



 スマホが机の上で震えている、小田からだ。


 字を打つのが面倒だからと、電話してくることが多い。なんでもLINEで済ませる俺とは正反対だ。


「佐山? 来週末さ、遊園地行かね?」


「まあ……空いてるけど。誰と?」


「ハルカちゃんと、こないだのもう一人の子。藤崎さんって言うんだって。俺ら四人で」


「——俺、付録感半端ないんですけど」


「まあまあ、そう言うなよ。ハルカちゃんさ、遊園地のタダ券持ってるんだって、ちょうど四枚。タダだし付き合ってくれよ、俺の為だと思って」


 結局小田に押し切られ、俺も行くことになった。


 さて……その日は、どんな服を着ていこう。


 テニス部の奴らとカラオケに行くのとはちょっと違う。四人とはいえ、デートらしいデートは生まれて初めてかもしれない。



***



 俺と小田は遊園地の入り口に、約束の15分前には着いていた。白い雲はチラホラと見えるものの、カラッとした気持ちの良い晴天だ。


「お待たせしましたー! 先輩たち、待ちました?」


 ハルカと藤崎さんは、約束のちょうど5分前にやってきた。


「ぜ、全然全然っ! さっき来たところ」


 そんな感じで答える小田。


 ——ん? なんだこいつ、珍しく緊張してるのか?


 だが、そんな小田の気持ちも分からなくはない。ハルカも藤崎さんも、制服の時よりずっと大人っぽく見えるからだ。かと言って、無理に背伸びしている感じでもなく、なんというかオシャレと言うか……


 二人には申し訳ないが、高二男子のファッションに対する理解なんてこんなレベルだ。ほんと、ごめん……


 俺はと言えば、ファストファッションで固めた上下に、アディダスのスニーカー。それは、小田も似たようなものだった。俺たちは何枚も服を買えるほど、金に余裕は無い。


「じゃ、これチケット。ほらここに『優待券』って書いてるでしょ。本当にタダだから気にしないでくださいね」


「ハハハ! なんだよそれ、余計気にしちゃうじゃん! じゃ、早速入ろうか!」


 いつもの小田に戻っていた。俺同様、さっきは私服のハルカたちに緊張してしまったのかもしれない。



 最初は俺と小田のペア、そしてハルカと藤崎さんのペアで歩いていた。だが、気付けば俺と藤崎さんが一緒に歩く形になっていた。


「そっ……そういや、ハルカちゃんにカノンって呼ばれてるけど、あだ名なの?」


「えっ? 違いますよ、名前です。『花の音』って書いて、カノンです」


「ええっ! めっちゃ可愛い名前じゃん! 芸名とか?」


「モデルやってる女子高生ならともかく、芸名なんて無いです! すみません、ちょっとウケます」


 そう言って藤崎さん——いや、カノンちゃんはクスクスと笑い出した。


 なんだろう……やっぱり笑顔が可愛い。


「そっか、マジで芸名かと思っちゃった、ハハハ……俺の名前は——」


「知ってますよ、“蒼い”のソウに“太い”のタで、蒼太さん」


 思わずカノンちゃんを横目に見る。


 俺の視線に気付いてるはずなのに、こちらを見てくれない。


「——なんで知ってるの?」


「んー……秘密です!」


 そう言うと、彼女はいたずらっぽく笑った。



***



「なあ小田。ところで、絶叫系はいつ乗るのよ」


 次はこっち! その次はあっち! と先導する小田だが、大人しいアトラクションばかりで絶叫系は今の所一つも乗っていない。


「え……? 小田先輩、もしかして絶叫系苦手なんですか?」


 ハルカが意地悪そうな笑顔を浮かべて小田を覗き込む。


「んっ……んな、ワケねーだろ! 最初から飛ばすと、大人しいアトラクション乗っても刺激無くなっちゃうだろ? そういうところまで、ちゃんと考えてるの俺は!」


「私は絶叫系エンドレスでも全然構わないですけど? とりあえず、これ乗っちゃいましょうよ」


 ハルカが指さしたのは、園内一の絶叫マシンだった。



***



 遊園地から電車で地元まで戻り、駅前のファミレスに入った。俺たちにはここが一番心地良い。

 

「いやー、やっぱ今日は、小田と絶叫マシンのコラボが最高だったな。今思い出してもウケるわ」


 絶叫マシンの席に付くなり、小田は首を斜め45度に傾けたまま固まってしまった。走り出してからもその姿勢は崩れる事無く、停車するまでの約3分間、俺たちは笑いっぱなしだった。乗車中のスマホ撮影禁止だったのが、悔やまれて仕方がない。


「先輩、苦手だったらちゃんと言ってくれたら良かったのに」


 いたずらそうな笑顔を浮かべながら、ハルカが言う。


「うるせーなー……その上、回転系もすぐ酔っちゃってすみませんね」


 ヤケになる小田に、俺たちのテーブルは笑いに包まれた。


 食事を終えても、ドリンクバーという強い味方がいる。


 俺たちが入学したときの話、卒業した先輩達の話、お互いの担任の話。俺たちは、夜遅くまで会話に明け暮れた。



「じゃ、また来週な佐山!」


「ハルカ、またね!」

 

 小田とカノンちゃんは、ここから電車で一駅移動しての帰宅になる。二人は手を振りながら、駅の改札へと消えていった。



「じゃ、私たちも帰りましょうか」


 俺とハルカは、ここから徒歩で帰宅だ。時間も時間だし、ハルカの家まで送っていくことにした。


「——先輩どうでした、カノン? 良い子でしょ」


「んー……そうだね。大人しい子だと思ってたけど、案外しゃべるよね。あと、よく笑うし」


「慣れてきたら結構うるさいですよ、あの子。まだまだ、猫被ってます」


 そう言うと、ハルカはフフフと笑った。


「あの……ハルカちゃんはあれなの? なんていうか小田を、うーん……推しっていうか。その……」


「ハハハ、なんですかその聞き方。『好きか?』って事でしょ。話面白いし、見た目も良いと思うけど、付き合うかって言ったら違うなあ」

 

 俺は、ハルカの予想外の答えに驚いた。


 ハルカが小田のことを好きで、ハルカ中心に動いていると思っていたからだ。実は俺に言わないだけで、小田がハルカに猛プッシュしているって事なんだろうか?


「先輩って、もしかして鈍感ですか? こないだ四人で写真撮ってってお願いしたでしょ? ——あれ、カノンが私に頼んできたからですよ。それ以上、私は何も言いません」

 

 ハルカを見たままフリーズする俺に、ハルカは吹き出した。


「気付きましたっ? 今日はあくまでキッカケって事で! 後は頑張ってくださいね! ——じゃ、私はここで大丈夫なんで!!」


 そう言うと、ハルカは点滅を始めた信号を渡っていった。そんなハルカに、俺は呆然と手を振り続ける。俺なんかより、彼女の方がずっとずっと大人だ。



 ハルカと別れ、スマホを見るとLINEが入っていた。


 カノンちゃんからだった。


——————————

先輩が私のLINE聞いてくれないから、小田先輩に聞いちゃいました。

(高二の目標の話も。ごめんなさい笑)

今日はとても楽しかったです、ありがとうございました!

また遊んでください!


花の音と書いてカノンより

——————————

 

 ちょっと変則的な形にはなったけど、高二の目標は早々に達成されてしまったのかもしれない。


 そもそも今回のデートは、ハルカと小田が俺のために企画したものだったのだろうか。ハルカはさておき、小田にそんな事が出来るとは意外だった。


 そして俺も、悩みに悩んだ末、カノンちゃんに返信をした。


——————————

こちらこそ楽しかったよ、ありがとう!

カノンちゃんで目標達成されちゃったので、新しい目標作りました。

「好きな子にを告白する!」

ご期待ください笑!!


蒼いに太いと書いてソウタより

——————————


 そんな俺のLINEに対して……


——————————

はい! 超・超・期待しています!

——————————


 こんな即レスが返ってきた。


 次の俺の目標達成は、案外早いかもしれない。



 そんなカノンちゃんからの返事の直後、小田からもLINEが入った。


——————————

おいおい、今日のデート、お前とカノンちゃんのためらしいじゃん。

カノンちゃんから聞いて、俺絶望してるんだけど。 

——————————


 ハハハ……どうやら、俺たちは二人揃って鈍感なようだ。


 俺の新たな『後輩に告白する目標』、小田の『後輩に告白される目標』——


 先に達成できるのは、どちらだろうか……





〈 了 〉

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