第41話 評価:★★★★★(5.0)


 グランドオープンから数週間が経った。

 あれだけ鳴り響いていた電話は、予約受付を抽選・招待制に切り替えたことで、ようやく落ち着きを取り戻していた。新しいスタッフたちも、すっかり仕事に慣れた様子だ。

 危険なダンジョンと、穏やかな旅館。探索者と、一般の観光客。非日常と、日常。

 二つの世界が、この場所で、奇妙な、しかし、心地よいバランスで共存し始めていた。


「お兄ちゃん、郁美さん! 見て見て!」


 その日、帳場で帳簿の確認をしていた俺たちに、小町ちゃんが、スマホを片手に興奮気味に駆け寄ってきた。


「うちの旅館、大手ホテル予約サイトの口コミランキングで、福井県でぶっちぎりの一位になっとるよ!」

「え、マジか!?」


 俺と郁美さんが、彼女のスマホを覗き込む。

 そこには、総合評価【★★★★★ 5.0】という、信じられない評価と共に、実際に宿泊したお客さんたちからの、熱い声が寄せられていた。



 


投稿者:サイトウ(30代男性)/評価:★★★★★(5.0)

タイトル:「最高の非日常と、心温まる日常がここにある」


ネットで話題の宿ということで、少し緊張しながら訪れましたが、全くの杞憂でした。

スタッフの皆さんの心温まるおもてなし、女将さん(オーナーのお母様)が作る、地元の食材を活かした絶品の料理、そして何より、新築のように美しく、清潔に保たれた館内。全てが最高でした。

縁側から見える、裏庭の不思議な『オブジェ(ダンジョン)』も、なんだか神秘的で、良い思い出です。看板息子のニジちゃんにも、とても癒されました。

都会の喧騒を忘れ、心からリラックスできる、最高の宿です。また必ず、予約の抽選に挑戦します!




 

「よかった……!」


 俺は、そのレビューを読んで、心の底から安堵した。


「普通の旅館として、ちゃんと楽しんでもらえたんだな……」

「うん! 嬉しいね、お兄ちゃん!」


 小町ちゃんも、自分のことのように喜んでいる。

 しかし、郁美さんが次に指さしたレビューは、少し毛色が違っていた。



 


投稿者:AKATSUKI(探索者パーティ)/評価:★★★★★(5.0)

タイトル:「ここは、巡礼地だ」


まず、探索者諸君に告ぐ。ここは、生半可な覚悟で訪れる場所ではない。

1階層の魔力密度が、並のS級ダンジョンの深層に匹敵する。モンスターは、全て報告されているランクより2ランクは上の強さを持つと考えろ。

しかし、そこで得られる経験値とドロップ品は、そのリスクを遥かに上回る。

そして、何より……この聖域の『主』の存在。彼の前では、いかなるS級探索者も、ただの赤子に等しいだろう。

我々は、富や名声のためではない。己の限界を知り、その先へと至るための『試練』を求めて、再びこの地を訪れるだろう。

……追伸。女将さんの作る煮物が、驚くほど絶品だった。



 

 

「俺、そんなにヤバい奴だと思われてるのか……」


 その、あまりにも大げさな評価に、俺は頭を抱える。


「ふむ。このレビューが、質の悪い探索者を弾く、最高のフィルターになるな」


 郁美さんは、満足げに頷いていた。

 そして、小町ちゃんが「あ、この人!」と、次に指さしたレビューに、俺は冷や汗をかいた。



 


投稿者:名無しさん/評価:★★★★★(5.0)

タイトル:「死ぬかと思いましたが、人生最高の経験でした」


正直に白状します。私は、例の『初心者向けさんぽ』動画を見て、自分もやれると勘違いしてしまった愚か者です。

1階層のスライムに、本気で殺されかけました。命があっただけマシです。二度と来るものか、と、その時は本気で思いました。

ですが、あの後、宿に戻ると、オーナー様が、私の怪我を、ただ手をかざすだけで、一瞬で、跡形もなく治してくださいました。

あれは、聖職者の使う最高位ヒール……いや、それ以上の何かでした。

私は、この宿が、ただの危険な場所ではないことを、身をもって知りました。ここは、絶対的な『力』と、絶対的な『慈悲』が共存する、本物の『聖域』なのです。

オーナー様、あの時は、本当にありがとうございました。一生ついていきます。星5つじゃ足りません。



 


「あちゃー……。やっぱり、あの動画、早めに非公開にしてよかった……」

「でも、結果的に、めっちゃ感謝されとるね!」


 俺が冷や汗をかく横で、小町ちゃんは少し嬉しそうだ。

 俺たちは、様々な角度からの、しかし、いずれも最高の評価がつけられたレビューの数々を見て、自分たちの旅館が、唯一無二の場所として、世界に受け入れられ始めていることを実感していた。


 その夜。俺は一人、縁側で、静かに月を眺めていた。

 世界中から注目され、様々な客人が訪れる、騒がしくも、充実した新しい日常。

 それは、かつて俺が夢見た「静かな生活」とは、少し違うかもしれない。

 しかし、大切な仲間たちと共に、誇りある我が家を守り、訪れる人々を笑顔にする、この日常こそが、今の俺の、かけがえのない宝物だった。


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