観測逸脱群

鵠 理世

1 パジャマの少女とタクシー「単独」事故

 地方紙朝刊(202×年5月16日付)

 「緑のパジャマ姿の少女」目撃直後にタクシー単独事故 ドラレコには映らず——K市


 202×年5月15日午前4時46分ごろ、K市○○町の国道△号線(片側2車線)の直線区間で、市内在住の個人タクシー運転手の男性(62)が運転する普通乗用車が左車線側の街路樹に衝突した。男性は胸などを打つ軽傷で、命に別状はない。


 K署交通課によると、事故当時の天候は曇り、気温は14度前後、路面は乾いていた。ブレーキ痕はなく、車両は左前部が大破しエアバッグが展開していた。消防によると、K消防署のポンプ車1台と救急車1台が出動し、男性を市内病院に搬送した。


 運転手は「道路中央に緑色のパジャマを着た小柄な少女が突然現れ、こちらを見てじっと立っていた。とっさにハンドルを切った」と説明。現場に駆け付けた近隣会社員男性(45)も「緑っぽい服の子が一瞬いた気がしたが、次にはいなかった」と話し、両者の目撃談はおおむね一致しているという。


 しかし車載ドライブレコーダーには少女の姿は映っておらず、無人の車道へタクシーが急に進路を逸らす様子と、ハンドル操作時の警告音だけが記録されていた。現場付近に足跡や衣類の痕跡も見つかっていない。男性からアルコールは検出されなかった。


 運転手は事故直後には「はっきり見えた」と繰り返したが、翌日の聴取では「見間違いだったかもしれない」と証言を修正。近隣男性も「何かを見た気がするが今は自信がない」と語っている。


 同署は「早朝の薄明で歩行者を錯覚した可能性や、一時的な視覚混乱が考えられる」として原因を調べている。K市内では事故の前後、未明に“緑のパジャマ姿の少女”を見たとの通報が計3件寄せられているが、いずれも確認には至っていない。

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