クレクレの魔女と真愛の聖女

仲村 嘉高

プロローグ

第0話:結婚式




「花嫁様がどこにもいません!」


 結婚式の準備の為に花嫁の控え室へ行った使用人達が、慌てた様子で新郎の部屋へと飛び込んで来た。


 ここは、王太子の控え室。

「え?」

「なに!?」

 慌てた様子でソファから立ち上がり返事をしたのは、新郎の服装をした青年だが、王太子では無い。

 もう一人、ゆったりとソファに座り側近の報告を受けているのが王太子である。

 彼も新郎の服装をしている。


「たった今、花嫁の準備が終わったと報告を受けていたのだが……?」

 ソファに座って報告を受けていた王太子が、戸惑いの表情を浮かべる。

「リリア様ではございません」

 使用人が慌てて否定すると、あからさまにホッとした顔をする。


「それならば居なくなったのはイドリーか」

 慌ててたはずの青年は、居なくなった人物が判明した途端に興味を失ったかのようにソファへと座り直す。


「いや、自分の花嫁が居なくなったのだから、心配するフリくらいはしようよ」

 王太子が責めるような言葉を口にするが、顔は笑っているし、口調も冗談めかしている。


 居なくなった花嫁の心配を、誰も本気でしては居ないのだ。


「リリア様のご準備が終わり、イドリー様のお部屋に行きましたところ、ドレスとご本人が居ませんでした」

 使用人が溜め息を吐き出す。


 新郎達の様子を見て、花嫁が居なくなった事がと理解したのだろう。

 責任を問われる心配が無くなり、安堵と共に、消えた花嫁への不満が吹き出したようだ。



「しょうがない。結婚式の時間はずらせないからな。リリアを二人でエスコートするか」

 王太子が青年に提案する。


「それは良いですね! 私もイドリーよりもリリア様をエスコートした方が幸せです」

 青年も明るい笑顔で了承する。


 今日はこの国の王太子と、公爵家嫡男の、国をあげての合同結婚式だった。




 結婚式は、時間通りに始まった。

 本来は二組の新たな夫婦が歩くはずだった教会の絨毯の上を、一人の花嫁を真ん中に新郎二人がエスコートして歩く。

 その異様な光景に、誰も異を唱える者はおらず、皆が祝福の拍手を贈る。


 本来居るはずの花嫁の両親まで。


「さすがに恥ずかしくて、あの中へは混じれなかったのかしら」

「やっと分不相応だと気付いたのね」

「あぁ! 三人だとなんて美しいのかしら」

 参列者からも、居なくなった花嫁を心配する声はあがらない。

 むしろ居ない事を喜ぶ声がそこかしこで囁かれる。



 花嫁の足りない結婚式は、つつが無く終了した。

 そのまま三人で、街中へのお披露目行進パレードへと行く。

 二台の馬車で行われるはずだったが、花嫁を真ん中に両脇に花婿が座り、一台での行進となった。


 行進の後は披露パーティーであり、その場でも花嫁は一人だった。

 そこまで行ってやっと、居なくなった花嫁の両親が首を傾げ始める。


「うちの娘はいつ出てくるのだろうか」


 王宮の使用人を捕まえ、イドリーの所在を質問した両親は、その時に初めて自分達の娘が行方不明である事を知った。

「なぜ! なぜ教えてくれなかったのですか!?」

 母親が使用人の腕を掴み、責める。

 責められた使用人は困惑を隠せない様子で答える。「聞かれなかったから」と。


 使用人からしてみれは、今更何を? と、思っていた。

 結婚式もお披露目行進も終わり、披露パーティーも半分以上終わっているのだから、当然の反応だろう。




 イドリーの両親は披露パーティーを抜け、王都の居宅タウンハウスへと急いで戻った。

 披露宴会場のある王宮内には娘が居ないと判明したので、屋敷へ戻っていると思ったからだ。


 理由は解らないが、結婚式が嫌になったようだ。幸せすぎて、怖くなったのかもしれない。

 しかしどのような理由が有れ、自分が望んで、幼馴染のリリアにお願いして結んだ婚姻なのに、なんて我儘なのか!!


 怒りを隠さずに屋敷に戻った両親は、娘が帰って来ていないと使用人に言われ、困惑した。

 こっそり戻っているかもしれないと、娘の部屋へと向かう。

 今日からは新居へ移るので、私物は少ないだろうが、泊まるくらいは問題無いはずだ。


 両親は娘の部屋の扉を開ける。

 そして、驚いた。

 イドリーが居たからではない。

 何も無くなっていないからだ。


 通常、新居へ持って行くはずの宝石箱も、使い慣れた化粧品も、好きな香水も。

 クローゼットを開けると、そこにはギッシリとドレスが並んでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る