第6話 王宮に帰って父と兄には仕事に生きると宣言しようと思いましたが、結局出来ませんでした

 考えたら私は元騎士団長にもいろいろ世話になっていたと思う。

 あんまり私との接点はなかったけれど、私のことでいろいろ迷惑をかけていたみたいだ。

 そもそも、私付きの近衛騎士は1年保たずして交代することが多かった。それを手配してくれていたのがモーリスさんなのだろう。

 その交代について私は深く考えなかったけれど、よく私が王宮からいなくなったから心労が響いて続かなかったのかもしれない。

 騎士達は私付きからお兄様付きに転属になったと聞いたらとても喜んでいたそうだから。

 私付きになるのは罰ゲームだったそうだ。

 信じられないわ!


「エヴァも大変ね」

 私付きの侍女のエヴァに言うと、

「いえ、私は慣れっこになっていますから」

 なんかエヴァも達観モードになっているんだけど……


 今はそのエヴァが一生懸命私をドレスアップしてくれていた。


 明日と明後日はお休みなので、私は今夜から王宮に帰ってお父様やお兄様のご機嫌伺いに行くのだ。

 その後は待ちに待った迷宮ツアーのサブ添乗だ。余計な詮索をされて行くのを邪魔されたらたまったものではないので、私はここで元気にしているアピールをしておこうと思ったのだ。

 当然お父様やお兄様には私が働いていることは秘密だ。

 ブラストにばれていないと再度確認したから問題ないだろう。

 でも、いつまでも二人には秘密には出来ない。もう恋愛はこりごりだったし、出来たらこの旅行会社の仕事を生涯の仕事にしたかった。

 それにはこの旅行社での仕事に生きたいと二人を説得するしかなかった。

 出来たら、この週末の滞在でちゃんと話せたら話したいと思って帰ったのだ。



「おお、リーゼじゃないか、久しぶりだな」

 私に会うなりお父様は涙ながらに抱きしめてくれたんだけど……

「一週間前にお会いしてますけど」

 私がそう指摘すると、

「一週間も前の話ではないか! 可愛いリーゼと一週間も会えなかったかと思うとお父様はとても悲しかったよ」

「学園の時もそうでしたよね」

 私は白い目でお父様を見たのだ。

 学園は全寮制で私は土日以外は帰っていなかったはずだ。


「何を言うんだ。学園の時は月に一度も帰ってこなかったじゃないか!」

 お兄様がそう指摘してくれたけれど、確かにそうだ。

 あの時はこれ幸いと休みの日はブラストの所に行って、今の会社でバイトしている時の方が多かった。


「学園を卒業したらずっと城にいると思って楽しみにしていたのに」

「父上、何を言っているのです。リーゼも婚姻が決まればいつまでも王宮にはいませんよ」

 お兄様がまた忘れていたことを思い出させてくれた。


「お兄様! 私はもう婚約とか良いです!」

 私はむっとしてお兄様を睨み付けた。

 お兄様はそう言ってくれるが私はもう恋や婚約はこりごりだ。

「いや、しかし、リーゼ、そういうわけにもいくまい」

「そうだぞ、リーゼ、お前もいつかは幸せな婚姻をしてだな」

「お父様、お兄様、それ以上言うと私はニーナの所に帰りますけど」

 私は二人の言葉に切れてしまった。

「いや、待て、リーゼ、帰るってお前の家はここではないか!」

「そうだぞ、リーゼ」

 二人は慌てだしたのだ。

「陛下、殿下、その話はほどほどに」

 ブラストが横から取りなしてくれた。

「そ、そうだな」

「本当にロンバウトの奴は馬鹿だよな。あれだけ言ってやったのに判らないなんて……いや、なんでも無い」

 私の鋭い視線を受けて慌ててお兄様は首を振ってくれた。

 楽しい添乗のはずなのに、あのロンバウトの相手をしなければならないなんて本当に最低だと思っているのに、今、ここでロンバウトの事など出してほしくない!


「私のことよりもお兄様は上手くいっているのですか? 婚約者様のセシリアさんと」

「今はセシリアの事なんてどうでも良いだろう」

 お兄様はむっとして誤魔化してきた。

「また、喧嘩したのですか?」

 私は呆れていた。


 この二人は二年前に婚約が決まったけれど、よく喧嘩するのだ。

 セシリアさんはネイホフ公爵家の長女で今は学園の三年生のはずだ。

 来年セシリアさんが学園を卒業したら結婚するはずなのに!

 こんなによく喧嘩していて良いのか?

 と危惧しないでも無かった。


 兄妹して異性運は良くないのかもしれない。

 まあ、これ以上触れるとお兄様が怒り出すから何も言わないけれど、私のことよりも自分のことをちゃんとしてほしい。私は恋ではなくて仕事に生きることにしたのだから。跡取りはお兄様が婚姻して作ってくれないと!


「そう言えばリーゼ、ファルハーレン伯爵夫人がお前に似た人物を王都で見たと言うんだが、まさか、王都をふらふらとうろついているわけでは無いだろうな」

 婚約者の話題の仕返しとばかりにお兄様が話題を変えてくれた。

「そんなわけ無いじゃ無い!」

 私は否定した。

 そうだ、ふらふらはしていない。ちゃんと仕事をしているのだ!

 でも、夫人にはどこで見つかったんだろう? たとえ見つかっても変装しているから判らないはずなのに!

「まあ、それならいいが、絶対にするなよ!」

 お兄様が釘を刺してきたから私は大きく頷いたのだ。


「それで、リーゼ、いつになったら帰ってきてくれるのだ。そろそろ二週間になるが」

 お父様が悲しそうに話してくれた。

「それは心が癒えるまでですわ。私はロンバウト様に言われた言葉がまだ心に残っていて……今も悲しくて」

 私が涙を拭く真似をすると、

「おお、なんと言うことだ。あのロンバウトメ。私のリーゼをこれほど悲しませるとは。帝国の皇帝には散々苦情は言っておいたからな」

 お父様はそう言ってくれるけれど、じゃあ、何故、まだ、ロンバウトはこの地にいるんだろう?

 お陰でロンバウトと一緒にツアーに行く羽目になってしまったじゃない!


「しかし、リーゼ、いつまでも、ブラストの所にやっかいになるわけには行くまい」

 お兄様が指摘してくれた。確かにそうだ。私はいずれはブラストの所を出て、一人暮らしをする予定だ。前世の記憶のある私は家事は一通りは出来るので一人でもやっていけるはずだった。お父様にもお兄様にも話していないけれど。いずれはきちんと話さないといけない。

 でも、下手に話すとすぐに連れ戻されるに違いないし……

 どうやって、二人を納得させれば良いんだろう?


 私は悩みに悩んだが、結局この二日間の間ではこの二人にその話は出来なかったのだった。

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