第3話 最悪なことに元婚約者候補と保護者役を連れての添乗になってしまいました

 ロンバウト・ブリューケンは銀髪で茶目の目の覚めるような美男子だったが、目の前の男は青い髪の黒目になっていた。地味な平民の装いをしていたが、どう見ても貴族なのは一目で判った。こいつは見た目だけは良いのだ。本当にこいつが振られたのか? 私は会った時から不思議だった。女に言い寄られている姿しか目に浮かばなかった。思い出したら公爵令息もこんな感じだった。


 何しに来たんだろう?

 私がここで働いているのは皆には内緒のはずだ。

 でも、ここに来たというのはバレているんだろうか?

 私は何もかも父にばらしているブラストの様子が絵に描いたように思い描けた。ひょっとして謝りに来たのか?

 これはとてもまずい。

 私は誰か代わってくれそうな者を探した。

 でも、横のフランカは何故か失敗したという顔をしていたけれど、モーリスさんの相手をしているし、他のカウンター要員もお客様の相手をしていて、手が空いているのは新人のヨハンだけだった。


 仕方がない。私が相手をするしかないか。

 私が諦めた時だ。


「君の赤い髪、とてもきれいだね」

 私は私の事をペチャパイとけなしたロンバルトからいきなりその言葉が発せられて目が点になった。


 こいつ、嫌みを言っているのか?

 私は一瞬、固まってしまった。


「お客様、ここは旅行会社で当社の店員を口説かれるのはどうかと思いますが」

 何故か私の後ろから怒り顔のヨハンが指摘してくれて、私ははっと我に返った。


 いけないいけない。危うく本当に張り倒しそうになっていた。

「お客様、お褒めいただきありがとうございます」

 私はニコリと営業スマイルをすると、

「ここは良いから」

 ヨハンを下がらせようとした。

「しかし、リーゼさん」

「良いのよ」

 ヨハンが反論しようとするのを強引に奥に追い返した。


 私は元々今の赤い髪に緑の目でとても見た目は目立つ子供だった。が、赤い髪が宗教的にあまり宜しくないそうで、私は父と兄の意向によってブロンドヘアに黒い目とごくありふれた髪色と目の色に魔法で変装させられていたのだ。この旅行社ではそんな必要がないので、変装を解いて髪をあげていたのだ。

 だからロンバルトは私の事がどうやら判らないらしかった。


「いや、申し訳ない。つい見とれてしまって」

 なんかロンバルトが言っているけれど、こいつはいつも周りの女にそう言っているのか?


「ところでお客様、本日はどのようなご用件でしょうか」

 カウンターで男の人にいろいろと言われるのは慣れていたので、私は構わずに聞いてみた。さっさと仕事を終わらせてこの男から離れたい。私の偽らざる心境だった。

「いや、ちょっとショックなことがあって少し悩んでいたら、とある方から、この旅行会社に行って相談してみれば良いと言われたんだ」

 ロンバルトが説明してくれた。

 誰だ? 余計な事を教えたのは?

 やはりブラストしか考えられないのだけど、ブラストは父に言いつけてくれたのだろうか?

「あのう、ここは相談所じゃないんですけど」

「いや、当然そうだよな。そんなことは判っているよ」

ロンバルトは慌てて言い訳を始めた。

「いや、昔赤い髪の女の子に助けられたことがあって、君が少しその子に似ていたから」

「あのお客様。何度も申し上げますように、ここは相談所ではないのですが」

私が塩対応でそう言うと

「ああ、そうだった。何でも、迷宮ツアーがあると聞いたのだが」

「いや、ございますが」

私は青くなった。この男、迷宮ツアーに参加するつもりか?

私は全力で断りたかった。

「昔行ったことがあって、また一度行きたいなと思ったんだ」

ロンバルトは平然と参加するつもり満々なんだけど。

「いや、参加人数が、結構増えてきまして、中々厳しいかと」

私は断ろうとしたのだ。そもそも帝国の第一皇子がなんで庶民が参加するツアーなんかに参加するのだ。サブとは言え私が参加するのだ。こんな男と一緒にツアーなんて絶対に行きたくなかった。私としては断固として断りたかった。それに確かあと一名分しかあいていなかったはずだ。

横のモーリスさんが申し込んでくれてそれで終わりなはずだ。


「そうなのか?」

ロンバルトはとても残念そうにしてくれたけれど、私はほっとしたのだ。

「1名くらいなんとかならないのか?」

ああああ、来たよ、権力のある奴はいつもこうやって無理を言ってくるのだ。前世でも繁忙期に宿を取るのが大変な時に無理難題言ってくる大企業の社長とかがいて本当に大変だったのだ。

でも、迷宮ツアーは王国との取り決めで、確か客の数は20人と決められていたはずだ。こればかりはこいつがなんと言おうと出来ないはずだ。

「お客様、大丈夫でございます。一人くらいなんとかいたしましょう」

そこにいつもは出てこないシモン部長が颯爽と登場してきたのだけど、いや、ちょっと待って、なんで部長がこんな時に出てくるのよ。デ・ボック子爵に私が絡まれて困っている時には出てこなかったくせに!

シモン部長は金のなる木には敏感なのだ。このロンバルトが金持ちかどうかは知らないが、金のなる木だと思ったのだろう。

「そうか、それは助かるよ」

ロンバルトは喜んでくれたのだ。

くっそう、こうなったら王女権限で絶対に人数なんて増やしてやらないんだから。

私がそう決意した時だ。

「では、お客様。ツアー代金はシングル使用料金も含めてお一人様金貨110枚です」

もみ手して部長が請求してくれた。

「何! 金貨110枚もするのか。こんなツアーに?」

ロンバルトがいきなり文句を言い出したんだけど。

ちょっと待って! あなた帝国の第一皇子でしょうが! 大店のペーテルス夫妻ですらすぐに払ってくれたのに、帝国ってそんなに貧しいの?

私はあいた口が塞がらなかった。


「あっはっはっはっは」

いきなり横のモーリスさんが豪快に笑い出してくれた。

「そこの若いお方。金貨100枚くらい余裕で出せないとは親が嘆き悲しみましょうな」

さすが元軍人、帝国の皇子にも物怖じせずによく言ってくれた。

私は拍手喝采したくなった。


「しかし、モーリス、俺の金は民の大切に稼いだ金で」

私はその言葉に少しだけロンバルトの事を見直した。この皇子は帝国の民が稼いだ金を無駄には使いたくないらしい。前世のどこかの政治家共にこの皇子の言葉を聞かせてやりたいと思わず私は思ってしまった。

「それはそうですが、金は使わないと経済は回りませんからな」

そう言うと豪快にモーリスさんが笑ってくれたんだけど、でも、ちょっと待って!

考えたらロンバルトはモーリスさんのことを知っていた。何故、帝国の皇子が一介の我が国の退役軍人を知っているんだろう?

モーリス、モーリス……ああああ! 思い出した。モーリスって前の近衞騎士団長のモーリス侯爵だ!

私服と近衞の凜々しい制服を着ていないからよく判らなかったのだ。

ええええ! ということは私の事も当然知っているはずで、私はブラストに嵌められたことを知ったのだ。絶対に父か兄に何か言われて私の事を監視していたのだ。


「ということで、リーゼさん。迷宮ツアー楽しみにしていますよ」

モーリスは笑ってくれたけど、私はそれどころではなかったのだ。

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ここまで読んで頂いてありがとうございました。

保護者を連れての添乗になったリーゼ……最悪です。

フォロー、評価☆☆☆を★★★して頂けたら嬉しいです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾

続きは明日です。

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