転生特典が『規格外』すぎて、もはや災害レベルの五歳児～本人は至って平和に暮らしたいだけです～

ドデカメタン

だい第1章：異世界への目覚めと規格外の赤子

「ああ、また朝が来たのか……」

　佐藤健太は、重い瞼をゆっくりと持ち上げた。視界に飛び込んできたのは、見慣れた天井ではなく、埃っぽい蛍光灯の光だった。身体は鉛のように重く、全身が悲鳴を上げている。

　徹夜続きの仕事。ここ数ヶ月、まともに家に帰れた日など片手で数えるほどだ。定時で帰った記憶など、もう何年も前のこと。睡眠時間は平均して3時間。昼食はコンビニのおにぎりを仕事の合間に頬張り、夕食は栄養補助食品で済ませる日々に、心も体も擦り切れていた。それでも、上司の叱責と同期の手前、休むことなど許されなかった。

　今日も、終わらないタスクの山が健太を待ち構えている。積み上がった資料の山、鳴り続ける携帯、そして、脳裏にちらつく明日までのデッドライン。未来に希望などなく、ただただ、この苦しみから解放されたいと願うばかりだった。

「ふぅ……」

　深い溜息を吐き出し、健太はベッドから這い出そうとした。だが、その瞬間、視界がぐにゃりと歪み、全身から力が抜けていく。まるで、重力から解放されたかのように体が軽くなり、同時に脳内を駆け巡る激痛。

「ぐっ……な、んだ……これ……」

　言葉にならない呻き声が喉から漏れ、健太はそのまま、床へと倒れ込んだ。目の前が真っ暗になり、脳裏に走馬灯のように駆け巡るのは、仕事、仕事、仕事……。

　――ドサッ！

　鈍い音と共に、健太の意識は闇に落ちた。

　これが、彼の知る「佐藤健太」の、最期の記憶だった。

　次に意識が浮上したのは、不思議な温かさと、微かな光に包まれた、まるで夢の中にいるかのような空間だった。

「あれ……？俺、死んだんじゃなかったっけ……？」

　身体の感覚が、おかしい。手足を動かそうにも、うまく動かない。まるで、自分の身体ではないみたいだ。体の輪郭がぼやけているような、定まらない浮遊感がある。

　そんな混乱の中、どこからともなく優しい声が聞こえてきた。その声は、耳から入る音というよりも、魂に直接響くような、不思議な感覚だった。

『ようこそ、健太よ。新たな生へ』

　女性の声だった。だが、ただの女性の声ではない。まるで、世界の全てを包み込むような、慈愛に満ちた、それでいて途方もない力を秘めた声。宇宙の始まりから終わりまでを見守ってきたかのような、壮大で絶対的な存在感。

　健太は驚いて周囲を見回した。すると、目の前に光り輝く巨大な存在が浮かび上がっていた。それは、人の形をしていながら、星々の輝きを宿し、全てを照らすような神々しさを放っている。その姿は、あまりにも畏れ多く、同時に、どこか懐かしいような安心感を覚える。

「あなたは……神様、ですか？」

　健太の言葉は、声にはならず、ただ意識の中で問いかける形になったが、神様はそれを理解したようだった。

『その通り。私はこの世界の管理者であり、あなたを新たな生へと導く者』

　神様。健太は混乱しつつも、理解した。ああ、俺は死んだんだ。そして、今、神様とやらに会っている。つまり、これがいわゆる「異世界転生」ってやつか？小説や漫画でよくある、あの展開が、まさか自分に起こるなんて。現実離れしすぎていて、むしろ冷静だった。

『健太よ。あなたは前世で、己の身を顧みず働き、その一生を駆け抜けた。その努力と誠実さに、私は深く感銘を受けた』

　神様は、健太の全てを見透かすように語りかける。健太が抱えていた疲労、苦悩、そしてほんの少しの諦め。それら全てを、慈愛の眼差しで見守っていたかのように。

『故に、私はあなたに新たな機会を与えよう。この「アースガルディア」という世界で、思う存分、自由気ままに生きるがいい』

　アースガルディア。異世界。

　健太の脳裏に、これまで読んできた異世界転生小説の数々がよぎる。まさか、自分にそんな展開が来るとは。だが、同時に、疲弊しきっていた魂に、希望の光が差し込むような感覚があった。自由気ままに生きる。その言葉が、ひどく甘美に響いた。

『しかし、あなたの前世は多忙を極め、その分、享受できるものは少なかっただろう。そこで、ささやかではあるが、私からの贈り物を授けよう』

　神様の手から、まばゆい光が健太の身体へと流れ込んできた。それは、銀河の星々が圧縮されたかのような、純粋なエネルギーの塊だ。途方もない力が、全身を駆け巡る。細胞の一つ一つが活性化され、脳の奥深くまで光が染み渡っていくような、圧倒的な感覚。それは、不快な痛みではなく、むしろ、体の奥底から力が漲るような、万能感に似た、歓喜すら覚える感覚だった。

『それは、この世界の法則を遥かに超える、**規格外（オーバーロード）の力。いかなる物理法則も、魔術の常識も、あなたの前では意味をなさないだろう。そして、あらゆる事象を理解し、創造する全知全能（アルティメット）の知識。過去、現在、未来、そしてこの世界の根源に至るまで、あなたが望む全ての知識が、あなたのものとなる。さらに、どんな危機からも身を守る絶対防御（イモータルシールド）**の加護。いかなる攻撃も、いかなる概念も、あなたに届くことはない。これら全てを、あなたの魂に刻み込もう』

　脳味噌が焼けるような、それでいて心地よい感覚。あまりにも膨大な情報と力が一瞬で頭の中に叩き込まれ、健太の意識は飽和状態になった。しかし、その全ては明確に理解され、彼のものとなった。

『さあ、新たな生を謳歌するがいい、リアム・アークライト』

　リアム・アークライト？健太は自分の名が呼ばれたことに疑問を感じたが、それも束の間、意識は再び深い眠りへと落ちていった。次の目覚めは、きっと、まったく新しい世界でのものになるのだろう。