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 六月一五日 金曜日


 登校し、自分のクラスである二年C組の教室に入る。

 いつもなら、毒にも薬にもならないような動画の話だったり、部活やスポ―ツ選手、携帯端末でできるゲーム、スイーツだのラーメンだのといった多種多用な雑談でパンクしそうな朝のひと時を、ふりあえ様が独占していた。

 帝都の方で、早くも模倣犯がイジメをしていた子や不良をリンチにした、とか。

 ふりあえ様の信者が、ネオアグタシティで出てきた、とか。

 殺されたワン・トモカが和の国人と中津国人とのミックスということで、海外の人権ヤクザな人権保護活動団体が声明を発表した、とか。

 ふりあえ様の正体は、義憤に燃える元警察官の仕業、とか。

 ネットのニュースから得た情報から、値も葉もない噂話まで、復讐の神一色。

 そして、高校生にもなってヤンチャを気取っているクラスメート達は、居心地が悪そうに机に突っ伏したり、ふんぞり返って携帯端末で動画を見ていた。いつもなら大人しそうな同級生に『イジリ』をかましていたけど、今はふりあえ様を警戒しているようだった。

「なんか、怖いよね」

 キョーカがツインテールを揺らしながらやってきて、私に小声で話した。

「みんな、どこか楽しそうで」

「そりゃあ、話のタネとしちゃ恰好だからね。

 それに、この事件は多分、尾を引くだろうし。ネタにゃあ事欠かないでしょ」

「今日は、甲本くんのお友達に話を聞きにいくんでしょ?」

「うん。

キョーカは来なくていい」

「なんでさ? 甲本くんから話を聞けたの、私のお陰じゃん」

 確かに、それは認めざるを得なかった。

「だからって、次もそうだとは限らない。

 それに、遊びでやってるワケじゃない、って何度も言ってるでしょ?

 もしかしたら、どこかで後ろからバッサリやられるかもしれない」

 キョーカの、ギプスで巻かれた右腕を見た。いくらキョーカとはいえ、事件に巻き込まれるようなことになったら、後味が悪い。

「犯人は、証拠らしい証拠をほとんど残していない。慎重派だよ。

ちょっと嗅ぎ回ってるくらいで、焦って襲って来ることはないって」

「あのさ、なんでそこまで私に関わろうとするの?」

「アズちゃんの役に立ちたいからに決まってるでしょ。

 なんて言おうが、付いていくから」

 ややムキになったキョーカが、席に戻って行った。

 私は肩をすくめた。ホント、面倒くさいったらありゃあしない。



 放課後、私達は甲本くんの友人の一人である、五条(ごじょう)六明(むつあき)くんの家へと尋ねた。ここもケガレチだった。だからって、五条くんがチカラモチだとも限らないけど。

 住まいは木造と思しき二階建てで、間取りの広い一階部分の上に、子供部屋や物置があるのであろう二階部分がちょこんと乗っかっている。

 玄関の前でチャイムを鳴らすと、すぐに五条六明くんが応じた。ざんばら髪の小柄な体格で、確かに大人しそうな雰囲気だった。監視カメラで観たふりあえ様とは体格が合わないように思えた。

「どうも。レオンから話は聞いてます。

 中にどうぞ」

 三和土には、彼のものと思しきスニーカーが置かれていた。靴に拘りがあるのだろうか、あまり見かけないデザインだった。あともう一つの学生用ローファーは、カッターか何かで切られているのかズタボロ。可哀そうに。靴代だけでもバカにならないな、こりゃ。

 二階の彼の部屋に案内される。広さは六畳ほどで、端に勉強机とベッドがある。窓から入る西日がまぶしい。こざっぱりとした部屋だけど、壁には、ひと昔前に流行ったバンドのポスターが貼ってあった。日焼けしている辺り、今でもハマっているのか、それとも飽きてしまってなお惰性で張り続けているのかは分からない。

「五条くんって、二年D組だよね? その、イジメの方は大丈夫?」

 キョーカの問いに、五条くんは曖昧に笑って答えた。というか彼、私達と同じ高校に通ってたのか。影が薄くて気付かなかった。

「ふりあえ様が出てからは急に大人しくなったよ。

まあ、アレの全てが肯定される訳じゃないだろうけどね」

「事件が起こった夜、五条くんは何をしていましたか?」

 私が尋ねると、彼は淀みなく答えた。

「もうその時間には寝ていたよ。下の階の両親は起きていたけど。

 凄い台風だったよね。風の音が凄くてさ。

 まだまだ雨も降るみたいだし、この時期はヤになっちゃうよ。

 もっとも、アグタはいつも曇っているけどね」

 五条くんには明確なアリバイがある、か。

「ワン・トモカについて、何か知っていることはありますか?」

「レオンをイジメていたヤツだろ?

 彼女は結構有名でさ、八郎高校の女子グループのリーダー的な存在で、高校を跨いで色々繋がりもあったみたいだね。

 僕をイジメていた谷口達とも、彼女とは面識があったみたいで、あちこちの高校のイジメに関わっていたみたいだよ。

 でも、それぐらいしか知らない。

知りたくもない。僕達はこんな目にあっているのに、楽しそうに生きている連中のことなんてさ」

 五条君の瞳が、黒い淀みで覆われていく。

「だいたい、僕は小学校のころからそうだった。

 ずっとそうだった。

 大人しく、静かに過ごしているし、そうしたいだけなのに、アイツらの方から絡んできて、教科書やノートを盗んだり、プロレス技かけたり、携帯端末を手にした途端、SNSを使ってネチネチ嫌味や悪口を書き込んだり、僕らの電話番号をネットに晒すような真似までして。僕の画像をアプリで加工して、人の顔をオモチャにもするし。

 僕たちがどうして耐えなきゃいけないんだ。いつまで絶えないといけないんだ。

 学校なんてアテにならないし。

 学校といえば、アイツらのせいで、僕の成績だってボロボロだ。

もう詰みじゃん。たった一七年しか、しかも理不尽ばっかりの一七年で、僕の人生は決まってしまっているんだ。

 今更ふりあえ様が出て来て、それがどうなるっていうんだ、ええ?」

 何かに憑りつかれたような独白のあと、不意に素面に戻ったのか、五条くんはうつむいた。

「ご、ごめん、ついね。

 愚痴を聞いてもらうつもりじゃなかったんだけど」

 私は首を振った。その怨嗟は、私にも多少は心当たりがあるし。

「気持ちは分かりますよ。

私もイジメられていたことありますから」

「え、アズちゃんも!? 意外」

 逢魔の一族は、場所を転々としながら、ケガレチを清めてイヤシロチにし、時にはチカラモチを大立ち回りすることを生業にしてきた。

 当然、そんな超常じみたことを快く思わない者、信じない者は大勢いる。

 小さい頃の私は、そのはけ口としてはピッタリだった。

 その頃の私はささくれ立っていたから、イジメてきた相手を、椅子を振り回して吹っ飛ばして、その後馬乗りになって文鎮でボコボコにしたことがある。それも授業中に。先生も含めて全員ドン引き。イジメた相手は大げさにも救急搬送。私は前代未聞の小学生で謹慎処分。それから誰も寄り付かなくなったけど。それは黙っておいた。

「そうだったんだ……僕たち、生きづらいよね」

 五条くんの口調には同情がこもっていた。いや、今の私はイジメとは別の問題で生きづらい。主に金銭面で。やっぱり、煙草やめるべき?

「五条くんは、ふりあえ様について何か心当たりはありますか?」

「なんの接点もないよ。あるわけがない。

 ただ、レオンが持っていたコスプレ衣装と、ふりあえ様ってちょっと似てるかな、って思ったくらいで。あ、アイツを疑っている訳じゃないよ。

 特撮ヒーローの姿って、みんな似たり寄ったりだしね」

 キョーカが一家言ありそうな顔でむずがってたので、私は視線で制する。特撮ヒーローの姿が、どれも似たり寄ったりという感想には、私も同意。

「コスプレ衣装を売ってる専門店に問い合わせた方がいいじゃないかって思うんだ。

 レオンも確か、あの衣装は買ったって言っていたから。顧客リストから犯人を割り出せるかもしれない」

 なるほど。けどまあ多分、警察もその線で調べは済んでいるだろう。あとで法人元警部に聞いてみよう。

私は五条くんにお礼を言って、彼の家を後にした。



 レオンくんのもう一人の友達である、梅田泰斗くんの家へ向かう。彼はアパートの一室に一人で住んでいるという。案の定、ここもケガレチだった。そして、犯行現場からは最も近い。直線距離にして、およそ二〇〇メートルほど。目と鼻の先だ。

 梅田くんは、部屋の前で待っていた。彼は髪をメンズカチューシャでオールバックにしていて、顔にはたっぷりとニキビがあり、体格は筋肉質でガッチリとしている。太腿の肥大した筋肉の付き方からして、ラグビーか何かのコンタクトスポーツをやっているらしい。イジメられているようには思えないほど、肉体に威圧感がある。

 けれど、彼の声量は、消え入りそうなほど弱気な小声だった。練習で延々と叫んでいるのか、少ししゃがれてもいる。

「どうぞ」

 ぶっきらぼうにも不器用にも思える短い案内と共に、私達は部屋に入った。饐えた臭いがする。ワンルームの中は、独り暮らしらしい生活感に溢れてて、片付けた跡があるけど、整然とした印象は無く物で溢れている、といった感じ。壁にはここらが記された地図が貼ってある。玄関には案の定、ラグビースパイクが汗臭さを発散させながら転がっていた。

 私の傍らにいたキョーカが露骨に顔をしかめているのを、肘でつついて制した。部屋の鬱蒼さでいえば、私も人の事はいえない。

「どうぞ、座って」

 私達は、煎餅になった座布団に座り、梅田くんは草臥れた座椅子にあぐらをかいた。

「で、聞きたいことって?」

 キョーカが下手にボロを出す前に、さっそく本題に入ることにする。

「梅田くんに聞きたいことがあります。

 ワン・トモカがふりあえ様に襲われた夜、貴方は何をしてましたか?」

「その夜は寝てたよ。

 夜の八時には床についてた。

 鬱で、マジでなにもしたくない」

「それを証明できる人は……いませんよね?」

 梅田くんは、のそりと頷く。

「このアパート、防音性高えし」

 近隣住民から様子を聞くこともできない、か。

「ワン・トモカについて、何か心当たりは?」

「レオンをイジメてたヤツだろ。

 ウチのラグビー部のキャプテンと、仲が良かったな。

 SNSでの『晒し』を提案したのは、アイツだった。

 俺も携帯端末の番号、ネットに晒されてる。

 けど、電番って、変えると周りに伝えるのが手間じゃん?」

 誰がどんなイジメのレパートリーを提案したか。有益な情報にはあまり思えない。

「ふりあえ様について、何か知ってることはありますか?」

「知らねえ。

 でも、ふりあえ様には頑張ってほしいわ。

 そうすれば、ウチのラグビー部のイジメも、いつかは静かになるだろうし」

 どうやら、梅田くんに対するイジメはまだ続いているらしい。

「ラグビー部の連中は、SNSを使って俺をハメてるんだ。

 俺、これでも進学校に通ってるからさ。周りも賢いんだよ。

 だから、ふりあえ様が出てきてもタカを括ってるんだろうな。

 もともと俺、ラグビー部の中でも大して活躍できてないし、練習キツくて勉強も遅れてるし。

 今、学校もちょくちょくサボってんだ。

 国の両親にはなんも言えねえよ。

なあ、逆に聞きたいことあんだけど」

 惑いを帯びた梅田くんの声音が、重くなる。

「はい」

「例えばさ、自分が地獄に落ちたとする。

 その時、天国から、自分だけが助かるロープが降りてきたとして、ふたりはどうする?

 自分だけでも助かるために掴むか、それとも同じく地獄に落ちた誰かに譲るか」

 私は少し考えて、応える。

「同じ地獄に落ちた相手が誰か、にもよりますね。

 身内がいなけりゃ掴むだろうし、いたとしたら——」

「掴まない、か」

「たぶん。地獄の折檻がどれほどえげつないのかは分かりませんが」

「きっとワン・トモカは、今頃うんざりするほど味わってるだろうぜ」

 ワン・トモカの霊魂は、未だに現世をさ迷っているけどね。どっちがマシかは、私には分からない。

「私は地獄に落ちないだろうからへーきへーき」

「マジかよ」

「マジかよ」

 キョーカの能天気な言葉に、私と梅田くんは同じ言葉が出た。

「……まあ、とにかく分かった。

 悪かったな、変なコトを聞いて」

「いえ。

 あのう、あの壁に貼ってある地図は?」

「あれか。

 俺、方向音痴なんだ。

 けど、方向音痴が過ぎて、地図見てもピンとこないんだよな。

 でも、一応貼ってある」

「なるほど。

 大変な中、今日は会ってくれてありがとうございました」

 私達が帰ろうとすると、梅田くんは呼び止めるように口を開いた。

「……なあ、ふりあえ様を捕まえるためにアチコチ調べてるんだって?」

「ええ、そうです。そういう依頼ですので」

「あの人を捕まえるの、止めることってできないか?」

「気持ちは分かりますけど、そうもいきません」

「あの人は、今の世の中に必要な存在だ。俺はそう思っている」

「私はそうは思いません。

 少なくとも、ふりあえ様が問題の本質を解決しているようには見えません」

 そう言うと、梅田くんは押し黙った。

「それでは、私達はこれで。

 ありがとうございました」

 梅田君の部屋を後にする。

 外に出るとムッとした暑さと共に、気疲れで肩が重くなる。

 やっぱりこの依頼、受けるべきじゃなかったのかもしれない。

「アズちゃん、大丈夫?」

 キョーカが顔を覗き込んでくる。

「ちょっと疲れただけ。

 今日はそろそろ帰ろうか。考えたいこともあるし」

「甲本レオン。

 五条六明。

 梅田泰斗。

 この中に、犯人はいると思う?」

「なんともいえないね。全員怪しいといえば怪しい」

 キョーカは腕を組んで空を見上げる。

「んー、やっぱり梅田くんが怪しいのかな。

 彼、すっかりふりあえ様の信者みたいなこと言ってたけど、そういうフリをしてるんじゃない?

 部屋に地図もあったし。ガタイも良い。

 監視カメラのふりあえ様、凄い速さで走っていたじゃん。梅田くんなら出来そうじゃない?」

「どうだろう。

 まだ決定的な証拠が見つかっていない」

「甲本くんがふりあえ様だったらヤだなあ。

 結構可愛い顔してたじゃん? 趣味も良いし」

「私情混じり過ぎ。確かに可愛いっちゃ可愛かったけど」

「ねえ、いっそのこと、片っ端からケガレチを清める、って手はないの?」

「あ~、それね。

やろうと思えばできる。

実際、以前はそうしてたんだよ。調べものすっ飛ばして、手当たり次第にイヤシロチにして、それを邪魔するチカラモチがいたら、ソイツの相手をして——ってな感じで。

 けど、たまたまケガレチの外に出ていたチカラモチが二人もいてね。

 ソイツらに感づかれた挙句、たまたま別のチカラモチとも面識があったみたいで、三人して襲われて死にかけたことがある。それがトラウマになっちゃって。

 チカラモチの力をなくすためには、彼らがケガレチにいる時にまとめて祓わないとダメなんだよ。どうも、私の力はその土地を通っていった方が強いみたいで。

 だから今は、ケガレチを消す時は、その場にチカラモチがいないか、慎重に確認してからやることにしてる。

 それに、今調べておいた方がチカラモチの仕業や対策も練りやすいし」

「じゃあ、やっぱり犯人は特定しないとダメかあ」

 キョーカがため息をつく。

「とにかく、気になる人達のことはおおかた調べた。

 あとは、細々した所を調べていくしかない」

「コツコツやるの、私苦手なんだよな~」

 だから私の仕事には関わるなって言ってるのに。

コッチだって気が重いんだから。



 六月一八日 月曜日


 この数日、シャカリキになって調べてみたは良いものの、特に収穫らしい収穫は無かった。

 コスプレ衣装を製作している企業にも問い合わせてみたけど、ふりあえ様に似た製品はあれど、注文者は別の県に在住している人たちばかり。

 ふりあえ様が監視カメラに映った場所も調査済み。その全ての地点がケガレチだった。犯人が監視カメラの位置を把握しているなら、どうしてわざわざ自身の姿が映るような真似をしたんだろう。それとも、その位置を通らないと自宅に戻れなかったからだろうか。

 相変わらずふりあえ様の人気は凄まじく、監視カメラに映った映像から3CGモデルを作って頒布するヤツ、コスプレ衣装を自作するヤツ、それらを不謹慎だと非難するヤツ、色々と出て来ている。今までイジメられていた人達が、SNSを通じて徒党を組んでイジメをしている奴らをリンチし、それを撮影、ネットに投稿するヤツらも出てきた。

 ジュ・フェイからの連絡が携帯端末に来たのは、放課後のことだった。

「お腹減ってない?」

 とのこと。「飯食ったか?」的な文言は、中津国人の一般的な挨拶だ。コレに私が「食べていない」と返信すれば、決まって「飯を食いに来い」という旨の返事が来る——来た。

 そうだな、ちょっと気晴らしにフェイが経営する飯店で、早めの夕飯を取るのもいいかもしれない。報告もした方がいいだろうし。タダで食べさせてもらえるし。あれ、卑しいな、私。

 外を見ると、またもや大雨。少しは涼しくなるのかと思いきや、今日も蒸し暑い。

 けれど、フェイが作った天津飯を思えば、大雨くらい大したことじゃない。幸い風は吹いていない。私はさっさとキョーカと別れて、フェイの飯店へと向かった。

 高校を出て、公園に入る。この公園を突っ切っていった方が近い。雨でぬかるんだ地面が靴底に食いついて、クッキリとした足跡がついた。しまった、跳ね上がった泥が靴下に付かなきゃいいんだけど。

 フェイが経営する飯店『ジュ・チー』は、入口前に置かれた、金と緑で彩られたド派手でっかい龍の置物がランドマーク。ネオン看板が曇天の中でも煌びやかに光り、店内は橙の灯りに包まれている。

 細部が金箔で彩られた両開きドアを開けば、マホガニーのテーブルと椅子が満載された店内にご案内。豪華すぎる店内の割に、フェイはTシャツにジーンズ、ゴムサンダルというチグハグな姿。油が跳ねた時とか痛くない? その恰好。

 私が席に着くなり、湯気の揚がる天津飯と、五目焼きそばがテーブルに差し出された。

「どう、犯人は見つかった?」

 笑顔のフェイが向かい合って席に座る。流石に多少は落ち着いたらしく、いつもの彼女に戻りつつあった。

「ゴメン、フェイ。まだ足取りは掴めてない」

 ゴメン、フェイ。私の視線は天津飯と五目焼きそばに釘付けだわ。正直。

「そうか。

 まあ、食べな食べな」

 お言葉に甘えて、頂きます。レンゲで天津飯を掬って口に運ぶ。やっぱりフェイの料理は旨い。

「そういえば聞いてなかったね。

生前のワン・トモカについて、何か変わったこととかなかった?

 どんな小さなことでも良いから」

 フェイは小首を傾げる。

「うーん、特に変わったところはなかった……かな。

 でもさ……トモカもバカだよ。

 目立ちたがり屋で、気に入らない人がいるとすぐちょっかい出すし。

 台風が直撃してるなかでも夜遊びなんてしてさ……。

 大人しく家に帰っていれば、殺されずに済んだのに……」

 フェイの大きな瞳が潤んでいた。

「そうだね……」

 天津飯が、ただただ熱い。

 フェイの頬に、大きな雫が伝って降りていく。

「ねえ、この事件、トモカが悪いのかな?

 それとも、ふりあえ様が悪いのかな?」

 少し口をつぐんで、そして正直に答える。

「……どっちも悪い」

「……そうだね」

「けど、私達がフリアエ様を捕まえて、落とし前をつけさせるよ。

 これ以上、フェイを泣かせない」

 そう言うなり、フェイは少し笑った。

「ありがとう、ズィーイ」

 雨は小降りになっていた。直に止みそう。

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