双星の軌跡
ジョン
第1話
双星の軌跡
昔々、遥か彼方の銀河には、神様達がいました。 神様達は、自分たちだけでは寂しいと感じ、他の生物を作ろうと決めました。まずは、無数の星々を創り出し、その星々に様々な生き物の種を蒔いたのです。 神様達は種が芽吹くのを静かに待ちましたが、待つ間に次第に互いに争い、やがてバラバラになってしまいました。 しかし、神様達が蒔いた種は、やがて芽吹き、成長し、そして今日の宇宙をとても賑やかで多彩なものに彩ったのでした。
【目覚め】
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その語りが終わる頃、アドラスの目がゆっくりと開かれた。暗いキャビンの中、彼はまるで長い夢から覚めたかのように意識を取り戻していく。すぐに彼の耳には、デバイス越しに鋭い声が響く。
「いつまで寝ているの。もうすぐ目的地よ!」
声の主はオペレーターであるメティスの声だった。アドラスは、むせ返るようなため息をつきながら、懐中の計器類に手を伸ばす。半眼をこすりながら、ゆっくりと各計器の表示を確認し、システムの準備状況を確かめる。その動作に対して、メティスは顔をしかめながら「ため息なんかしている場合じゃないわ!」と、叱責するが、アドラスはそれを軽く無視するように続けた。
そこへ、船長であるマクリルの落ち着いた声が流れる。「喧嘩はよせ。アドラス、もうすぐ降下ポイントだ。準備はできているな?」
アドラスは、短く「あぁ」とだけ返答する。すぐにメティスが落ち着いた様子で話しを続ける。「今回の依頼は、施設から『目的の物』を回収すること。目的の物が何なのかは不明だけど、依頼者が送ってきたビーコンがその目的の物に反応する仕組みらしい。カルマンにも調べてもらったけど、ビーコンに不審な点は見受けられなかったわ。目的の物を回収できたら、すぐに連絡して!回収に向かうわ!」
アドラスは、無機質に「わかった…」とだけ答えた。
その直後、メカニックであるカルマンの陽気な声が通信回線に割り込む。「アドラス!今から向かう場所にもし遺物や珍しい物があったら、すぐ教えてくれ!後でそれも回収するからな!」
これに対し、メティスが不機嫌な顔で手を握りしめながら「ちょっとカルマン!今は任務に集中する時でしょう!そんな雑談は後にして!」とかなりきつく咎める。すると今度はカルマンがむっとした様子で「ちょっとくらいいいじゃないか!ほんとメティスは頭が固いんだから。そんなにカリカリしていると小じわが増えるぞ~」と言い返していた。「なんですって…」メティスは怒った猫のような顔をしていて臨戦態勢といってもいい状態だった。
カルマンとメティス、互いに言い足りない雰囲気で口論を始める。しかし、そこに呆れたマクリルが厳しい表情で割って入る。「二人ともやめないか!メティス、カウントダウンを始めてくれ」
マクリルの冷静な指示が、その場の空気を一変させる。カルマンとメティスは互いにまだ言い残しがある様子だが、マクリルの厳しい表情に押されるように、メティスは切り替えてカウントダウンを始める。「ポッド射出5秒前、4・3・2・1、射出!」
音とともに、ポッドが大気圏へと勢いよく射出され、窓外の空が急速に広がっていく。アドラスは、今まで何度もこの瞬間を経験しているにもかかわらず、内心ではいつも不意に身震いが走るのを感じていた。
ポッド内、狭いキャビンの中で、アドラスは首から下げられたペンダントを見ていた。そこには彼にとって最も大切にしていた妻と娘の姿が映っていた。それを見ていると家族と過ごした日々、そして燃えさかる炎、倒れている家族とその傍らで立っている男が脳裏に焼き付いていた。そしてほんの一瞬だけ心の中で呟いた。「この任務を成功させれば…やつに近づける…必ず…」。彼の心は復讐に燃えていた。それこそが彼を生かし続ける原動力であった。
その言葉は、彼自身の覚悟と過去からの解放を求める、静かな誓いのように、密やかに反響していた。
【降下・着陸】
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しばらく降下するとポッドは自動的に着陸態勢を取り始め、すぐに、ドスンという大きな衝撃が全身を駆け抜けた。ハッチが開き、眩い太陽の光が差し込んだ瞬間、彼は一瞬手で顔を覆って目を慣らした。
「ここは、思ったより暑いな…」
辺りを見回すと、荒廃した大地の隅々に散らばる残骸群が、かつてこの周辺に施設が存在していたことを物語っていた。アドラスはすぐさま、船内のオペレーターと連絡を試みる。
「メティス、こちらアドラス。着陸完了。」メティスに着陸した旨を伝えた。するとメティスは眉をひそめ軽く腕を組みながら「着陸確認したわ。この星の磁場の影響で少し通信状況が良くないみたいね…声が聞こえにくいわ。デバイスを見てみて」
アドラスはデバイスに目をやると表示が乱れていた。アドラスはデバイスに触れ、何度か画面をタップしながら眉をひそめた。思い切って軽く画面を叩くと、叩いた瞬間に一瞬画面がちらつき、波紋のように数字が整っていく。それを見て、一瞬だけ、ほんの僅かな安堵が彼の表情に浮かんだ。「確かにデバイスの調子もあまりよくないな…着陸地点が当初予定していた場所より少し離れている。それも磁場の影響か?」アドラスの問いかけに対して、メティスは口に手を当て状況を確認しながら「そうね…磁場の影響だと思うわ。目標地点は、ここから北西に10キロ歩いたところに設定されているわ。ただ磁場の影響もあるから念のためにもう一度周囲の状況をスキャンするわ。」と答えた。
アドラスも周囲を見回したが、そこには残骸と永遠に続くような荒野だけだった。その光景がかつて幾度となく見てきた戦場の光景と重なっていた。少ししてメティスから「もう一度周囲をスキャンしたけど生体反応もないし、特に異常は見られないわ。進んでも大丈夫」。それを聞いたアドラスは一歩一歩、荒野へ向けて歩みを進め始めた。
【探索】
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あたりを警戒しながら荒れ果てた大地をさらに進んでいくと、そこにはかつて何かの施設があったことを思わせる残骸が大地に刻まれていた。しばらく歩いているとデバイスから周辺が汚染されていると警告が出た。生身の人間がここにいたら一分と耐えることはできない汚染レベルであった。
「この地域、かなり汚染されているな…」
アドラスがそうつぶやくと、通信からマクリルの声が聞こえどこか懐かしむ感じで話し出した。
「うむ、ここはかつて軍の研究施設があった場所でな…先の大戦でここは標的にされ、激しい爆撃を受けた。汚染はその時の名残だ。何の研究をしていたかは知らんが、ここまで徹底的に破壊されているってことは、相当重要な施設だったのだろうな。」
それに、メティスが明るい声で割って入る。
「さすが船長!物知りね!」
マクリルは笑いながらも、年季の入った風格を漂わせながら答える。
「伊達に長生きしてないからな。」
そこへカルマンが目を輝かせながら無邪気な子供のような口で通信に加わる。「軍の研究施設だったってことは、試作兵器の残骸やその情報がありそうだな!アドラス!周りに何かない?」
アドラスは周りを見回してみたが、あるのは鉄くずや建物の残骸ばかりだった。
「いや、特に何もないな」。そう短く答えた。
するとカルマンは少し残念そうな顔をしながら腕を頭の後ろで組みながら「そうか~、けどアドラスじゃ何が貴重なものか分からないだろうから、やっぱり僕も同行すべきだったんだよ。船長~頼むよ、今から行ってきていい?」
するとメティスが顔をしかめ机をたたきながら「いいわけないでしょ!あなたが行ったら何か見つかるまでそこら中を掘り返すんだから!それで前散々な目に遭ったこともう忘れたの?」と冷たくあしらった。
それに対してカルマンはにやりと笑い椅子でクルクル回りながら「前は運が悪かっただけさ!それに結果的にはそのおかげでピンチを切り抜けられただろ?」と得意げな様子で反論する。
メティスもすぐさま口を尖らせカルマンに指をさしながら「あのね…仲間を危険に晒したら元も子もないでしょ!」と反論する。
マクリルはまた始まったと言わんばかりの呆れた表情で頭をかいていた。こんな口論は日常茶飯事である。付き合っていてはきりが無いので、アドラスは二人の口論を無視して歩き続けた。
【疑念】
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歩き続けてどれくらい経っただろう。しかしどこまで歩いても残骸しか無く本当に依頼主が求めている物があるのかアドラスは疑いの念を抱いていた。
アドラスは険しい表情で「マクリル…この依頼、本当に大丈夫なのだろうな?」と疑問を投げかけた。マクリルは口に手を当て少し考えると「うむ、お前の言いたいことはわかる。依頼者の素性も依頼の詳細も不明となると普通は受けない。だが今回は違う、前金で通常の依頼では考えられない金額を支払い、依頼成功の暁にはさらにその倍を支払うことになっている。俺たちの素性についてもずいぶん詳しいみたいだしな。相当なやつであることは間違いない。それに今回の依頼の成功報酬は金だけじゃない。それがお前さんにとって重要だろう?それはわかっているはずだ」。そうはっきり答えた。マクリルの声は一見穏やかだがそこには依頼を成功させるという固い決意をアドラスは感じた。
それでもアドラスの心の中では疑念が渦巻いていた。もしかすると依頼主に嵌められているのではないか、もしそうであるならば今すぐ引き返すべきだ。この荒野で襲撃を受ければ無事では済まない。足取りが重くなり一瞬立ち止まりそうになる。しかしすぐに前を見据え力強く大地を踏みしめた。「今回の依頼を成功させれば、やつに一歩近づく。その為にはやるしかない」。そうアドラスは自分に言い聞かせた。ビーコンは確かに反応を示し、その信号は徐々に強まっていく。彼は気を取り直し、ただ依頼を遂行することに集中する決意を胸に秘め、一歩ずつ、砂塵舞う荒野を歩み始めた。
【到着】
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その後さらにしばらく歩き続けると、次第にその先に、崩れかけた建物が現れた。アドラスは武器を構え周囲を見回したが、特に異常はなかった。辺りは不気味なくらい静かで、今にも何かが飛び出してきても不思議ではなかった。それはアドラスの警戒心をより一層高めるのに十分であった。
アドラスは険しい表情で「メティス、ここか。」とつぶやいた。
メティスは緊張した面持ちで「そうね……反応は、建物の中から来ているわ。一応周囲をスキャンしたけど近くに生体反応は確認できなかったわ。けれど、何があるか分からないから、くれぐれも気をつけて!」と答えた。
「わかった…」
アドラスは低い声でただそう言い残すと、慎重な足取りで崩れた建物の中へと足を踏み入れて、暗闇の中へ消えていた。
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