少女鳥類の物語集

ふとんねこ

序.少女鳥類とは


 少女鳥類。


 読んで字の如く、少女の姿をした愛玩鳥類の総称である。


 少女鳥類は、まだこの世に魔法と呼ばれた神秘が息づいていた二千年前、当時の権力者の庇護下にあった魔法使いたちにより生み出された人工生命体だ。

 華奢で繊細な少女の肢体、そこに見事なバランスでもって優美に羽根を伸ばす翼と尾羽。羽色は当時の権力者が求めた数だけ色とりどりに存在する。


 少女というものは、人類の中で最も美しい期間であり、存在だ。

 色鮮やかな鳥類というものは、元より人類に愛でられてきた存在だ。


 つまり、その二つを魔法的に組み合わされた少女鳥類は権力者たちが欲望のまま掌中で愛玩するに相応しく、複雑で困難な品種改良を重ねるだけの価値があったのである。



 ――だが、時代は移ろうもの。



 魔法は今や過去のものとなった。各国の伝承にその名を残し、各地にその痕跡を遺物として時折発見される程度の、歴史の一片と成り果ててしまった。


 しかし少女鳥類は、魔法を拐っていった時代の波に、同じように拐われることはなかった。



 ――百二十四羽。



 これは、現存する少女鳥類の個体数である。


 少女鳥類は魔法人工生命体。人類の手に囲われて、庇護されることを前提として生み出された愛玩動物であるため、人の手を離れると三日ともたずに命を落とすが、人の手で正しく飼育されていれば不老不死を体現するとされている。


 されている、としてその寿命を断言できないのは、もう新たな個体は手に入れられないという稀少性を尊ばれて研究が進まないのと、飼育下で死亡した例が未だないからだ。


 現代に残る百二十四の少女鳥類は、各国で手厚く保護され、愛でられている。


 その存在の神秘ゆえ、保有する少女鳥類の数が多ければ多いほど良い、という価値観が世界各国で共有されるほど。

 研究もせず、飼育するだけのそれに何の価値があると言うのか。そんな声は、権力者の視線の先で縮こまるしかない。


 ガラス細工のように美しい、人に似たる人ならざるものの寄る辺が己だけであると錯覚する瞬間ほど、人を酔わせるものはないのだから。

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