第14話 師団長の休日!リュミエール後編

現在俺はリュミエールの前で土下座をしている。


「それでどうして私の部屋に?」




怖い、寝てる姿は天使だったのに今は鬼になってる。


「い、いやぁ暇だったから会いに行こうかなぁって?」


「それで私を襲おうと?」


「それは断じて違う!」


あ、これ嘘つき変態師団長って目をしてる……




リュミエールは少しため息をして俺の目を見つめ直した。


「それはそうと……私の”あれ羽根”見ちゃいましたよね……」


「あ、あぁ。それに俺をこの世界に呼んだってこともね」




「そ、それも聞いてたんですね……」


「なぁリュミエール、この世界に呼んだ理由を聞いても良いか?」


俺の問いに、リュミエールは少し目を伏せ、迷うように言葉を探していた。そして静かに口を開いた。




「……私は、この世界の守護神なのです」


「守護神……?ということはその羽根があるのも……」


「はい。正確には“神々の影”と呼ばれる存在――この世界の均衡を保つため、神界から地上に降りた者です」




リュミエールの瞳がどこか遠くを見つめているように揺れた。




「この世界は今、神界の腐敗した一派に侵されつつあります。本来、神々は人間の世界に干渉してはならないのですが……それが破られ、混乱が広がっているのです」




「だから、俺を……?」




「ええ。あなたのように、他の価値観を持ち、神々に縛られない存在――外の世界の“自由な力”が必要でした。私は神の立場にありながら、直接手を下すことはできない。だから……あなたを呼んだのです」


リュミエールの声が少しだけ震えていた。




「それに……」




彼女は言い淀み、俺をまっすぐ見つめた。


「かつて、あなたによく似た人を、私は――」




リュミエールの言葉はそこで止まり、再び視線を落とした。


俺はしばらく何も言えなかった。




守護神? 神界? 世界のバランス?


……正直、よくわからん。




ただ――彼女の顔が、声が、あまりに真剣で、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。


「……なるほどな。つまり俺は神様が世界をなんとかするための、秘密兵器ってわけか」




わざと軽口を叩いてみる。けど、その実、俺の手は少しだけ震えてた。


リュミエールは驚いたように顔を上げる。




「怒らないのですか? 私の都合であなたを巻き込んだというのに……」


「怒る理由はねぇよ。むしろ納得した」


「……納得?」




「前から思ってたんだ。なんで俺みたいな下ネタ好きの元自衛官が、いきなりこの世界で兵を率いて、しかも色んな奴に頼られてるのかってな。正直、実感なかったんだよ」




俺は窓の外に目をやる。遠くで兵士たちの訓練の声が聞こえる。


「でも、今は違う。お前が俺を信じて呼んでくれた。その理由がはっきりしたなら――今度は俺が応える番だろ?」




リュミエールの目が見開かれる。




「……一希さま……」




「ただし!」俺は指を立てた。「神様なら、もうちょっと優しくしてくれよ? 背負い投げとか、壁に叩きつけるのとか、俺、次やられたら多分死ぬから!」




リュミエールは一瞬きょとんとして、それからふふっと小さく笑った。


「……気をつけます」




その笑顔は、今まで見たどんな微笑みよりも、神秘的で、美しかった。




でもって――やっぱりちょっと怖い。


次投げられるときは確実に殺られそうな気がする。




「それで、一希さま。あなたはこれからも、私と――この世界と共に、戦ってくれますか?」


俺は大きく息を吸ってから、にっと笑った。




「任せとけ。こっちの世界にもエロ本ぐらいあるんだろ? だったら、頑張れるさ」




「……やはり、あなたは最低ですわ」


リュミエールは呆れたように言ったが、どこか楽しそうだった。




そして俺は心の中で、静かに決意した。




この世界のために。


信じてくれた彼女のために。




そして――この世界で“生きる”ために。

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