第2話

「地震だ! みんな伏せて!」


保育園の先生方が私たち園児に、きわめて緊張した様子で呼びかけた。


地面には亀裂が走り、地鳴りのような恐ろしい音が聞こえる。


怖かった、と思う。


けれどなにより、そのころの私はその怖さに負けたくなかった。


伏せるのが嫌だと思ったから、立っていたことを覚えている。



ヘンな子供だった。



その後の記憶は定かではないが、祖父母がわざわざ来てくれたことを覚えている。


不思議なこともあるもので、祖父母は地震が起きる前から


「早くいかなくちゃ、早く、早く」


と焦りに似た感情を覚えていたようだ。



……私の家族について話をしようか。


私の家族は警察官、つまりこういった有事の際は、災害現場に出かけなくてはならない。


父は、母と幼い私を残して、危険な現場へと向かった。



ちょうどそのころ、福島県双葉郡大熊町にて原発に異常が発見された。


絶対安全、5重の防護……そう評された鉄壁の防護は今、脆くも崩れ去ろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る