第2話 人の心がない集団

信じられないと思うが今起きている事を話すぜ! ソフィアが目の痛みに耐えながら目を開けると、



そこには……


和製の大鎧を装着し、反りに反りまくった日本刀を携えた30人程の武士団が立っていた。


元腐れ歴女のソフィアは一瞬で理解した。


(あの反りに反りまくった日本刀は太刀たちと呼ばれている日本刀だ。唯々人間を斬り殺す為だけに特化したのが太刀なのだ! 美術品の日本刀から遠く離れた、ガチモンの殺戮の武器だわ!)


「姫様! この場はそれがし共にお任せ下され。早うお逃げ下され。活路はその者に任せておりますゆえ。早う、早うお逃げ下さいませ」


武士の一人が、ソフィアに告げる。


(何!? 何なの? この世界観を無視したようなコスプレ集団は?)


ソフィアが、今起きている現状を受け入れる事が出来ずに戸惑っていると、


「姫様、こちらです。我等について来て下され」


数人の武士がドアの取手に手を伸ばし、ドアを横に引いた。


しかし、ドアは本来横開きではない。ドアは観音開きで開くのがセオリーだ。挙げ句の果てにはドアを蹴りだし、日本刀で斬りつけ始めてしまった。


武士団がドアを開けるのに戸惑っていると、復活した自宅警備兵達とオマケの貴族達が、突如現れた武士団と一触即発のにらみ合いをしている。


(何、この人達? ドアも満足に開けられないの? 馬鹿なの?)


ブチギレ寸前のソフィアは、


「ドアはこうやって開けるのよぉ!」


御自おんみずからドアを開けて見せるのだった。


「おおっー!! さすが、我が主君はやれば出来る子でござる。さあ、姫様。我等と一緒に」


武士団はソフィアを必要以上に称賛をするのであった。


「これくらいなら子供だって出来るわよ!」


ソフィアはイラッとしながらコスプレ武士団に告げると、


武士団はカッと目を見開き、その場に座り自分が持っていた短刀で自らの喉を突こうとし始めた。それはまさしく、今から自害しようとしている行動であった。


そのヤバい行動にいち早く気付いたソフィアは、


「あなた達何をしているの! そんな事で自害しようなんて止めなさい!」


目の前で惨劇が行われるだろう未来に危機感を感じ、一応は自害を留まるよう促すが、


「姫様止めてくださるな。童子わらしでも出来る事を我等が出来ないとは武士の名折れ、潔く散るのが我等が武士道なり!」


「いや、それは…… 言葉のあやと言うか、兎に角、自害だけは止めて!」


「姫様に無様な姿を晒したのは、我等一生の不覚」


ソフィアの説得にも耳を貸さない。この武士団をソフィアは呆れながら、どうしようかと模索する。一方では、自宅警備兵とオマケ貴族達が武士団と睨に睨み合いを重ねている。


ソフィアは、この状況を如何に収拾させ、この場から逃げる事だけを考え行動に移す。


「あなた達。私を護るのが役目じゃないのかしら? あなた達が命を懸けるのは…… 今でしょ!」


「「「――ハァ!? そうだ。そうであった。我等としたことが、武士の本分を忘れるところでござった! 申し訳ございませぬぅぅ」」」


武士団は、ハッとした顔になり、日本刀に持ち変えたのだった。


「じゃあ、逃げるわよ!」


ソフィアが正々堂々と逃亡宣言をすると、武士団はソフィアの宣言に呼応するように、


「「「いざ! 鎌倉!!」」」


と雄叫びを上げるのだった。


ソフィアはあのイカれた武士団の雄叫びを聞き逃さなかった。


(今、いざ! 鎌倉!!って言ったわよね? もしかしたら、この集団は…… 二度の元寇襲来で蒙古軍をボコボコに返り討ちにした。あの鎌倉武士団…… 蒙古の使節趙良弼ちょうりょうひつさんが鎌倉武士団の事を、人の心を持ち合わせていない。親孝行を知らない。獰猛で殺戮を好む。上下の礼を知らない。日本人を得ても役に立たない。日本侵攻、断固反対と言わしめた。頭のイカれた鎌倉武士団じゃないの! なぜ頭のイカれた狂戦士バーサーカー集団が、こんなところにいるの? まさか、私が寝ている隙に大掛かりなドッキリでもしているのかしら? きっと、どこかに隠しカメラがあるはずよ。私をたぬきの罠に嵌めようなんて100万年早いわよ)


ソフィアは逃げる途中であっても、この現実離れした状況に思案を巡らせていたのだった。


「ソフィアァァ! ソフィアァァァァア!」


(遠くからイケメンが、私の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、私の知らない人だからガン無視でも全然構わないよね?)


ソフィアの行く手を阻む自宅警備兵達を自称鎌倉武士団が、太刀と和弓で威嚇しながらソフィアの前後左右を囲み、建物の中を進む。


自宅警備兵が不要にソフィア達の一団に近付こうものなら、鎌倉武士団は容赦なく太刀を振り下ろした。太刀を振り下ろしたと言っても、あくまでも威嚇程度のものなのだが、それでも自宅警備兵を腰砕けにさせるのは容易な事だった。


そして、ソフィア達一団は無事に建物の外に出ることに成功したのだった。

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