血路の果てに凛と咲く

四季香

Episode 0 屍人殲滅部隊 WOLF BITES 第五部隊

ビーッビーッビーッ……


 頭蓋骨から脳へと直接振動が伝わるような警告音が鳴り響く。


―――チームC、待機ルームに到着。

ゲートが開きます、扉から離れて下さい。

繰り返します。ゲートが開き....


 感情が無い冷たいアナウンスは、これでもかと、私たちは道具でしかないことを実感させてくる。私たちは所詮、死ねば代わりが補充されるだけの存在だ。


「なあなあ凛ちゃん、帰ったら一発ヤらせてくれよ。後悔はさせないぜ」


 この組織、屍人殲滅部隊は犯罪者の寄せ集めであるからか、品のない者が多い。横に立つこの男も元は女子校生五人を強姦した性犯罪者であり、一八歳の私も彼の性的な対象になっているらしい。

 

 私にとってはこの場所、共に過ごす人間、これから行うこと、その全てが不快で嫌いだ。しかし、私には必ず見つけないといけない人がいる。


 三年前、二一〇八年一二月、世界中で「屍人しびと」と呼ばれる化物が現れた。日本では東京の中心からその化物は出現したらしい。彼らは人を襲い、喰らっていった。そして傷を負った人間も化物になり果て、人を襲い始めた。

 そして、問題はその凶暴性だけではなかった。彼らは通常の攻撃で死ななかったのだ。ハンマーで殴ろうが、ナイフで斬ろうが、銃で撃とうが死ぬことはなく、身体が再生し、復活するのだ。


 私の家族は化物に襲われて怪物になってしまった。私は倉庫に隠れる事で、なんとか襲われずに済んだのだ。

 そしてもう一人、私には大切な人がいた。幼馴染の恋人だ。軍に保護されて、東京を出た私は直ぐに彼にメッセージを送ったが返信どころか、既読がつくことさえ無かった。

 しかしその二ヶ月後、東京が屍人で埋め尽くされ、国が壁を建設して東京の隔離を進めている頃、携帯にメッセージが届いた。


「凛が無事で良かった。俺は東京の安全な場所にいるから心配するな。必ず会いに行く」


 私は直ぐに返信を返した。しかし、それから約三年、いまだに既読はついていない。

 壁の建設が完了した二一〇九年三月。身寄りもなく、行く宛も無かった私は、避難施設を出ないといけないタイミングで、彼を探しに壁の内側、つまり東京に行くことを決意した。丁度、屍人殲滅部隊の一般募集があったのも背中を後押ししてくれた。

 そして現在、厳しい訓練を経て、私は WOLF BITES 第五部隊 チームCの一員となり、板橋区の奪還を目指している。板橋区は恋人の家があった場所で、何か手がかりがあるかも知れないのだ。


 もうすぐ戦闘が始まるという状況で、隣の男は「なあ、凛ちゃん良いだろ」と私にしつこく話しかけ続けていた。


 私は正面で腕を組み、溜息をついた。男の視線が私の顔から、組んだ腕の上に乗る私の胸に移る。


「お願い。今回で死んで」


男はひゃっひゃっと笑った。私は眉間にしわを寄せて男を睨んだ。


「良いね凛ちゃん。その可愛さと身体に似合わない強い性格が興奮するんだよな」


 私はふんっと、顔を男の方から正面に向き直した。


ガアァァッ!!


 外から開いた扉の隙間をすり抜けて、腕を組む私に飛びかかってきたのは屍人だ。その肌は暗い灰色で、血管が赤く浮き上がっている。すぐ顔の正面にある大きく開けた口には、人の骨も喰らうからか、欠けて鋭利になった歯がずらりと並んでおり、大量の唾液だえきが私の顔に飛んできた。

 隣の男は助ける様子もなく、ニヤニヤしながら私を見ていた。

 屍人が私に飛び掛り、宙を舞うこの刹那に隣の様子を見る余裕があるのは、身体増強剤を射っているおかげだ。


 私は右手で腰に差したナイフを抜き、頭蓋まで到達する勢いで屍人の顎下からナイフを突き刺した。刺した勢いのまま頭部を持ち上げて首が伸びたところで、左手で二本目のナイフを抜き、胴体と頭部を切り離した。


 私の顔に大量の血飛沫ちしぶきがかかる。ナイフを振り下し、刃から抜けた頭部が男の足元に転がっていった。


「ひゅー、たった二手とは相変わらず無駄のない殺しだこと。もう少し弱ければ襲っちゃうんだがな」

「今すぐ、この人と同じにしようか」


 男は再び、ひゃっひゃっと笑い「勘弁、勘弁」と言いながら、外に向かい歩きだした。他のメンバーもそれに続く。


「もうすぐ見つけるから。待ってて、透君」


 私の目的は幼馴染で恋人の朝霧あさぎりとおるを探すこと。彼と再会する為なら何だってする。その、決意を胸に私は扉の外に向かった。


―――――――――


【用語】


屍人しびと

突如として世界中に出現した化け物。

人を喰らい、襲われた人も屍人になってしまう。

当初、ウイルスの感染による凶暴化に思われたが、違うということが分かっている。

通常の攻撃ではダメージを与えられず、国が開発した特殊兵装でのみ殺傷が可能。


■屍人殲滅部隊 WOLF BITES

隔離された東京を奪還するために編成された部隊。全部で九部隊ある。


【登場人物】

■四辻よつじ凛りん

1)プロフィール

18歳の少女。本作の主人公。

身長165cm、茶色の瞳に黒髪のショートカット。学生時代は剣道をやっていた。

身体増強剤の副作用で発汗量が減り、体温調節が難しくなっているため、長時間の戦闘が困難。


2)使用武器

双剣型狭域制圧兵装・AC01-Org

AC01(Absolutely Cleaver No.01)シリーズの原点。

カーボンと軽量金属で構築された黒色のナイフで、起動すると赤色の発光ラインが浮かび上がる。


その性能は、全てのものを斬ることが出来るというもの。ただし、使用者が「斬る」という行為を想像出来ないものは斬れない。


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