第4話 結婚後の生活、そして……
早いもので、ユリウス殿下とわたくしの結婚から、半年が過ぎました。
初めは意気消沈していたジュリア様ですが、ユリウス殿下が甘々に慰められたことで次第に元気になっていきました。
今では王宮での”聖女”としての振る舞いも板につき、威厳と風格が芽生えてきている様子。
さらには、女神様の加護もいっそう強まっているようです。
魔物を寄せつけない聖水を精製したり、病人や怪我人を癒したりと大活躍。
奥ゆかしい性格にも好感が持たれ、身分の低さなど気にしない人も増えてきました。
わたくし? 結婚式からこれまでずっと、ユリウス殿下と寝室を別々にしておりますが何か?
ユリウス殿下? 結婚式からこれまでのほとんどを、ジュリア様と寝室を共にしては朝にこっそり戻ってきておりますが何か?
「そろそろ頃合いでしょう。ジュリア様。いったん王宮から離れてくださいませ」
「なぜです? ……今になってようやく私が疎ましくなりましたか?」
ジュリア様は、濃紫の瞳をぱちくりと瞬かせたまま硬直してしまった。
まるで自分が、突然処刑を言い渡されたかのように。
夜な夜な殿下に愛でられているのにも関わらず、この方の反応は乙女のように可愛らしい。
権謀術数の世界とは無縁の場所に居るのだ。ユリウス殿下のことは関係なしに守りたくなってくる。
「知り合いに子爵家の貴族がおりまして、近々、養子をとろうと考えているそうですの。
養子の条件は”聖女”としての適性があることです。
なお、子爵家の令嬢となれば、王族のお手付きをされて側妾に収まることがよくありますの。……あとはお分かりでしょう?
ユリウス殿下への根回しは済んでおります」
「いえその……前々から聞かされている話ではありますが、なぜそこまで?」
今になってもなお、ジュリア様は戸惑っていた。
自分の夫に、よろこんで愛人をあてがおうというのだ。まともな妻のする事ではないのだから、疑われるのも当然だろう。
「殿下とあなたの愛が、わたくしの腐りかけた部分に生気を与えているのですのよ。二人の絆が深まるほど、わたくしの中の”腐った魔物”が満たされて癒されるの」
わたくしの弁解に、ジュリア様が首をひねる。
「そういうものなのですか?」
「そういうものなのです」
まだ、釈然としないものはあるのだろうけれども。
最初から現時点まで、『ユリウス殿下とジュリア様の恋を応援する』というわたくしの言動は一貫しているので、ジュリア様は首をひねりつつもうなずいた。
***
時はさらに過ぎ、子爵家で花嫁修業を受けたジュリア様は、ユリウス殿下の側妾として召し抱えられる日が来た。
元々”聖女”として王宮になくてはならない人材となっていたため、子爵家に移っての花嫁修業も可能な限り短縮されたそうな。
今のジュリア様は苗字なしではない。エルセリオ子爵姓を持った、れっきとした子爵令嬢――ということになっている。
”聖女”としての鍛錬を積んだジュリア様の認識変換魔法は達人の域にあり、可憐な容貌や洗練された物腰と相まって、かつて教会の前に捨てられた親の知れない素性だとは誰も思わないだろう。
”聖女”になる前の小間使いだった頃のジュリア様を知っている人が見たとしても、寡黙で儚げな深窓の令嬢としか思えないはずだ。
(お綺麗ですわ。天使みたい)
わたくしの目の前には、純白のウェディングドレスを着たジュリア様がいる。
その隣には、純白のタキシードと白いネクタイ着けたユリウス様がいた。
貸し切りにした教会で、数十席ある椅子にはただの一人も座っていない。
居るのは、わたくしと、新郎のユリウス殿下と、新婦のジュリア様だけだった。
側妾は結婚式を挙げられない。それはこの国の不文律であり、王に近い立場であるからこそ遵守しなければならないルールだった。
それではあまりにあまりであるため、わたくしは形だけでも式を挙げるように勧めた。
ユリウス殿下はとても乗り気で、ジュリア様は結婚式に憧れつつも遠慮していたが、強引に二人で説き伏せた。
「新郎ユリウス・アレクシス・ヴァレンティア。
あなたはここにいるジュリアン・エルセリオを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
神父の代理となり、わたくしが問いかける。
「魂にかけて誓います」
厳かに、しかしきっぱりと、ユリウス殿下が決意を述べる。
「新婦。ジュリアン・エルセリオ。
あなたはここにいるユリウス・アレクシス・ヴァレンティアを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「この命にかけて誓います」
即答だった。
(ドドドドドドドド ======┌(┌ ^o^)┐デュフ)
魔物が暴れようとしている。わたくしは耐えるのに必死だ。
これから起こることは、あまりに刺激が強すぎるから。
「それでは、指輪の交換を」
ジュリア様がユリウス殿下の手を取り、薬指に指輪をはめる。
ユリウス殿下がジュリア様の手を取り、薬指に指輪をはめる。
その手は、喜びによって震えていた。
(ドドドドドドドド =====┌(┌ ^o^)┐==┌(┌ ^o^)┐デュフフフ)
「最後に、誓いの口づけを」
二人の醸し出す幸せオーラに当てられて、わたくしの胸が熱くなる。
(ドドドドドドドド =====┌(┌ ^o^)┐==┌(┌ ^o^)┐==┌(┌ ^o^)┐デュフコポォヌポォ)
ユリウス殿下はヴェールを上げ、そっと視線で導くように、ジュリア様の顔を引き寄せた。
殿下の蒼い瞳と、ジュリア様の菫色の瞳が互いの姿を映しあう。
その顔と顔が近づき合い、唇と唇とが重なりあった。
(ドドドドドドドド =====┌(┌ ^o^)┐==┌(┌ ^o^)┐デュフコポォヌポォ)
(ドドドドドドドド ======┌(┌ ^o^)┐===┌(┌ ^o^)┐デュフコポォヌポォ)
あまりに尊い光景。気を強く持たなければ失神しそうになるくらいに。
二人の唇が離れ合う。お互いに愛し合う者同士の感慨と歓喜がそこにあった。
「おめでとうございます。これでお二方は、他の誰が何をどう言おうと夫婦ですわ。わたくしが認めます」
気づけば、わたくしの瞳からは涙が流れていた。
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