第3話 地下の囚われ人

片桐修太は息を詰め、必死に後ずさった。

目の前の**“影”**がゆっくりと動く。

その歩みはまるで迷いなく、片桐の存在を確かめるようだった。

地面に染みる黒い液体が、不気味に脈打つように広がる。

「ここは……どこなんだ……。」

震える声で呟く。

その瞬間、背後にあった階段が完全に閉じた。

ゴン──。

響く音が、静寂の中に飲み込まれる。

逃げ道はもうない。

目の前の存在がゆっくりと顔を傾けた。

いや──それは**“顔のようなもの”**だった。

「片桐……お前も、ここで迷うんだよ。」

声が囁く。

しかし、その口は動いていない。

まるで、片桐の思考の奥から響いてくるようだった。

彼は恐怖に駆られ、視線を逸らそうとした。

しかし──その瞬間、駅構内に微かな音が響いた。

カタン、カタン──。

電車の車輪がレールを軋ませる音だ。

片桐は目を見開いた。

見たこともない電車が、暗闇の向こうからゆっくりとホームへと滑り込んでくる。

それは鉄の塊のような、異様な車両だった。

窓の奥で、ぼんやりとした人影が見える。

動かない顔、微笑むような表情──それは、彼の知る誰かの顔だった。

乗っているのは、失踪した人間たちだ。

片桐は絶望した。

この場所は、二度と戻れない空間だったのだ──。

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