第7話:マスターの影
記録名:旧市街地・補助監視記録より抜粋(封印解除指定資料)
資料番号:HK-Z / ハルカゼ構造調査補稿
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【観察記録:映像再構成ログ】
記録媒体:8mmフィルム(発見場所:旧第七区 廃棄倉庫内)
内容:喫茶店「ハルカゼ」と思しき空間の内部を、固定カメラが数時間にわたって記録している。
ただし、記録は断続的で、時間軸に乱れがある。
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> 映像:店内。木製のカウンターと6脚の椅子。椅子の影は5つ。
カップの湯気が上がるが、客は映っていない。
時計は止まったまま。だが、秒針の「音」だけは響いている。
> 時間が飛ぶ。
カウンターの向こうに、黒い“影”のような人型が現れる。輪郭はあるが、ディテールがない。
影は静止したまま、来客の動きに反応してカップを差し出す。
しかしその仕草は、常に来客より「少し早い」。
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> 更に時間が飛ぶ。
店内の椅子が4脚に減っている。
カウンターの上に「マスターの影」が2体映る瞬間あり──片方は少し小さく、動きも異なる。
一瞬だけ映像が乱れ、以下の場面に切り替わる。
> 映像:裏口の扉。そこに貼られた紙。
拡大すると、こう書かれていた:
> 「マスターは1人ではありません」
「だれかが席に座るたび、1つずつ分かれていく」
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【補足観察:フィルム裏書き】
記録者不明。映像の外枠に鉛筆で書かれていた走り書き:
「あの人は返事しか持っていない」
「カウンターに座ると、順番がずれる」
「マスターの影は“最後の席”を見張っている」
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【補遺:影の動きに関する分析メモ】
分析者:匿名(初期調査班)
分析では、「影」の動きが実際の来客記録より3.03秒早く反応している点に着目。
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> 「これは接客ではなく、記録の再生なのではないか?」
「あの空間は“かつての来訪”をループ再現しているだけだとすれば」
「マスターとは、記憶の器官のようなものかもしれない」
「本体はとうに“夜明け”に去り、影だけが残った──席を見張るために」
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【未分類断片資料】
資料庫整理中に見つかったメモ(紙片・焦げあり):
> 「影が一番濃くなるとき、マスターは寝ている」
「その間に誰かが来てしまうと、椅子が戻らない」
「影の数がマスターを超えたとき、店は記録されなくなる」
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【映像の最終フレーム】
画面に映る店内は、椅子が一脚も残っていない状態。
カウンターの内側に、ただ一つ、静止した黒い影が立っている。
その影が動いた直後、フィルムは燃え尽きたように途切れている。
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