終章 夏の夕暮れ

夕暮れの帰り道

「ねぇ。最近、特別特別って言わなくなったよね」


 家への帰り道。そんなことを言われた。


「……前の僕って、そんなに特別って言ってた?」

「うん。結構言ってたよ」


 過去の自分の顔面を掴んで地面に倒したい気分だ。

 おかげで今、今日で一番恥ずかしいかもしれない。


「どうして言わなくなったの?」

「まぁ、色々あったからね」

「色々って?」


 色々は、色々だ。この夏で起きた、本当に色々なこと。

 それを説明するのは、長いし恥ずかしい。


「教えてよーわたしたちの関係で秘密は無しでしょー」


 彼女が腕に絡みついて言って来ると、なんでも答えたくなる。

 それに、このまま黙ってるのは無理そうだし、一つだけ理由を教えようと思う。


「……君の絵が、綺麗だったから。君と同じ世界で生きてられるなら、別に特別じゃなくてもいいかなって思っただけだよ」


 まぁ、これは半分受け売りだけど。

 ちゃんと、僕だけの理由は他にもある。


 けれど、それは言わなくていい。教えなくていい。

 そんなこと、言わなくても彼女は知っている。


「……わたしの世界は、もう無いけど?」

「あるさ。だって、僕は今、いい匂いがしてる。だから、君もまた匂いが感じられるようになるよ。僕が、そうしてみせる」


 彼女は、またあの笑みで言う。もう、この笑顔も見慣れたような気がした。


「じゃあ、期待して待ってるね」


 これは、いつかの帰り道。

 夕暮れ時の中で交わした、なんでもない会話。

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