最弱植物系モンスターから始める異世界進化録

あつほし

第1話

第1話「発芽。わたし、植物になっちゃった!?」



ブラック案件の嵐が吹き荒れる納期前夜──

三十路も後半、フリーランスの意地と気力だけでPCと格闘していた久賀さやかは、ついに限界を迎えていた。


(あーもう、コード汚い。仕様変更しすぎィ……)


デバッグ地獄と無言のSlack、上からの無茶ぶりに追われるまま、最後のPRを投げて──。


「……ま、死にはしないでしょ……たぶんね……」


彼女の最期の言葉だった。


意識が闇に沈むその刹那、キーボードの横にいた小蠅を思わず噛み潰してしまった瞬間──。


(……自分、ハエトリソウかよ)


自嘲とともに、すべてがブラックアウトした。


  ◇  ◇  ◇


……暗い。

何もない。いや、正確には──「何も見えない」。

音もない。体の感覚も……ない。あるのは、ぼんやりとした“存在している”という感覚だけ。


(これ、なに? どこ? 夢?)


記憶も思考も、もやがかった脳内でぐるぐると渦巻いている。

だが次第に、“下のほう”から、ジンワリと暖かく、やわらかく、何かが満ちてくるのを感じた。


(水? 栄養? あ、これ……なんか知ってる。根っこ?)


感覚は拡張していく。やがて自分が「地面に埋まっている」らしいこと、しかも「上には伸びているらしい」ことがわかってきた。


(え……これって……)


嫌な予感が電撃のように背を走る。いや、植物に背なんてないけど。


(いやいや、もしかしてこれ──発芽してない!?)


“気づいてしまった”時の衝撃。

わたし、どうやら──植物として転生してしまったらしい。


(マジか……いや、これ絶対スキル系異世界モノだ!)


状況理解とともに、意味不明なテンションが跳ね上がる。

視界も聴覚もまだ封じられたままだが、「存在している」感覚が増していく。


そんなとき、不意に──“何か”が、わたしの中に流れ込んできた。


(!? なにこれ……濃い、すっごく濃い。うわ、なんか……記憶?)


どろりとした何かが、まるで溶けたスープのように、根から茎へ、そして中心部へと侵入してくる。

それはただの栄養じゃなかった。もっとこう……複雑で、圧縮された……情報の塊。


(これは……スキル……?)


脳裏を過ぎる数々の言葉。《神気操作》《精霊感応》《並列精神》──意味は分からない。でも、確かに「強い」気がする。


(うわ、これ……人間の……死体だ)


わたしが根を張っている場所。そこには、冒険者の死体が埋まっていた。

その身体から吸い上げているもの。それはただの血肉じゃない。

スキルの断片。記憶の欠片。生き様の残滓。


──それらが、わたしの中に、混ざっていく。


(ヤバい、超ゾクゾクする……!)


再びテンションが謎に上がる。


(これはもう、あれだよね。スキルゲー! わたし、スキル食べて成長する系主人公だよね!?)


そして、意識の奥底から響いてきた声。


《ユニークスキル:捕喰解析(デバウア・ドメイン)》発現──


(きたぁぁぁあああああああああッッ!!!)


即座に内心でガッツポーズ。根っこだけど。




《ユニークスキル:捕喰解析(デバウア・ドメイン)》発現──


その声が、脳内に響いた瞬間。

わたしの中の何かが、ガコンと音を立てて切り替わった。


(っしゃあああああ!!来た!ユニークスキルきた!!これで勝つる!)


喜びのあまり根がふるえる。……いや、ふるえてるかは分からないけど、そういう気持ちだった。


(ユニークってことは、固有スキル? 誰にもない? レア!?)


ゲーム脳のテンプレ思考が全開する。


(《捕喰解析》……解析ってことは、食べた対象からスキルとか情報とか吸収できるってやつでしょ?間違いなく当たりじゃん!てか、今吸ってる死体がもうチート級の匂いしてたし!)


再び流れ込むスキル断片。

《神気操作》──おそらくは“神聖属性”に関する何か。

《精霊感応》──精霊と意思疎通?

《並列精神》──なにそれ強い(確信)。


(てか、これ死体の持ち主、ただの冒険者じゃなかったな? なんかヤバいやつ食ってない?)


それを裏付けるように、さらに解析が進む。


《スキル断片:神気操作(Dランク)》吸収

《スキル断片:精霊感応(Cランク)》吸収

《スキル断片:並列精神(Bランク)》吸収──《同調記憶域(メモリー・バディ)》の基盤構築中


(え、なに?最後のやつ……なんか勝手に進化しようとしてない?)


異世界チートあるあるなスキル昇華システム。きた。最高。


(いやもう、いける。わたし絶対いける。最強の植物モンスターになれる!!)


この時点で、自分が植物であることへの絶望はもはやどこにもない。

むしろテンションは過去最高を更新し続けていた。


(てか、ここまで来たらやることは一つだよね……そう!)


──満を持して、叫ぶ。心の中で。


「ステータス!オープン!!」


その瞬間、意識の空間に光が差した。

そして、目の前──というか脳内スクリーンに浮かび上がる、スマホUI風のパネル群。



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【ユニット名】──???(名付け未設定)

【種別】──植物型魔物:レッサーディオネア・ベビー

【所属】──破滅の森 深域/《マザー・タイラント・デスプランツ》管理圏

【成長段階】──第一段階:新芽

【状態】──活動限界まで72時間/死体供給:継続中

【スキル】

・《捕喰解析(デバウア・ドメイン)》

・《神気操作(断片)》

・《精霊感応(断片)》

・《並列精神(断片)》→進化中:《同調記憶域(メモリー・バディ)》

【称号】

・《自我の芽生え》

・《死体栄養美》

・《夢オチ系主人公》

【実績ボーナス】──吸収効率+3%

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(うっわ、マジで開いた!ちゃんとスマホUIっぽい!!縦スライドだし、装飾まで完璧!運営有能か!?)


妙にオタクっぽい目線でステータス画面を観察する自分に、ちょっと笑えてくる。


(いやでもマジで……このスキル群、可能性しか感じない)


特に気になるのは《同調記憶域》。これ、並列精神の派生進化っぽいし、「記憶」とか「同調」とか、意味深ワードが並びすぎててゾクゾクする。


(これ、まさか……スキルだけじゃなく、人格とか記憶とかまで再構築できる系……!?)


そして、もしそれが本当に可能なら。


(この死体の持ち主、めちゃくちゃ重要人物だった可能性、大。)


ここでふと──断片的に流れてきた、名前があった。


(……クローネ・イーグレット……?)


声にならない声で名を呼んだときだった。

わたしの中にあったスキル断片のひとつが、静かに共鳴を始めた。


《スキル断片:精霊感応(Cランク)》──共振中

《スキル断片:並列精神(Bランク)》──安定化

《スキル断片:神気操作(Dランク)》──融合補助


(……ん?)


感覚のどこかで、“集まってきてる”気配があった。

重なり合うように、擦れ合うように、データが形を成していく。


(あれ、なんか……まとまってきてる?)


そう思った瞬間──脳内に、かすかな“揺らぎ”が走った。

空気の震え、熱の流れ、動く質量……それらが突然、はっきりと感じられた。


(えっ、これ……見えてる?いや違う、感じ取ってる?)


いままでは漠然と“外がある”程度だったのが、今は違う。

具体的な距離、数、方向、速度。それらが明確なデータとして浮かぶ。


《スキル再構築完了》──

《芽吹感知(スプリング・センス)》を獲得しました!


(……感知系、きた!!)


スキルウィンドウに、新たな文字列が刻まれる。



▼追加スキル

・《芽吹感知(スプリング・センス)》

 →地中を伝わる振動・熱・魔力の微細変動を感知し、近隣の生体反応を簡易的に察知する

 ※成長により探索スキルに進化可能



(うおおおおおおお!!このスキル、今のわたしにピッタリすぎる!!)


見えない。動けない。聞こえない。

そのすべてを“感知”で補える可能性。

わたしの最初の“感覚”が、ついに芽吹いたのだ。


そして──。


その新たな感知スキルが、はっきりと捉えた。


生体反応:接近中

数:4体

種別:不明(腐臭・小型・獣型)

反応強度:中

距離:9メートル、接近中


(……来る!?)


突如襲い来る緊張感。

芽の奥底で、思わず体がふるえた。


(早く……対処手段、なんかないの!?)


──来る。


芽吹いたばかりの新感覚、《芽吹感知(スプリング・センス)》がはっきりと示していた。

地面を擦る足音、踏み締められる湿った土、獣じみた息遣い……。


(……数は4体、やっぱり魔物か。腐肉食っぽい反応してるし……)


最悪の想像が頭をよぎる。

いや、これ……わたしが掘り返されて、クローネさんの死体ごと漁られたら、詰む。


(やばいやばいやばいやばい!まだ咲いてもないんですけど!?)


しかし──。


接近してきた個体たちは、わたしの上を悠然と通り過ぎた。


(……え?)


ガサ……ジュル、ジュルッ。

やがて感じたのは、クローネの死体の“すぐ横”、かろうじて私に触れていない部分を掘り返して、腐った肉塊を貪る感触だった。


(……!? なにそれ、そっち!? おい、こっち本体……というか植物のわたし、無視!?)


全身全霊のスルー。完全無視。

鼻先をかすめるように、そいつらは朽ちかけた革のバッグ、冒険者の断ち切れた腰布、血の染みたローブの裾をくわえ、しゃぶりながら後退していった。


(……えっ、終わった?)


そう、あまりにもアッサリと。


彼ら──いや、奴らは単に「今ある死肉の残り香」に釣られて来ただけの 掃除屋だったらしい。

生きた植物の苗床なんて眼中にない。いや、視界にも入ってないのかも。


(……た、助かった……)


根っこの先まで脱力。存在がゆるむ。

もし人間の姿だったら膝から崩れ落ちていた。


が。


安堵した、その直後──。


(……あれ?)


根の先から感じる吸収ルート。

スキル断片、魔力、そして栄養素の流入速度に、明らかな“変化”があった。


(っ……!? ちょっと減ってる!?)


《死体供給:断続的》

《栄養源:外的損傷により減少中》

《スキル断片供給:継続中/但し品質低下の可能性あり》


(うわああああああ!!!)


さっきの連中、わたしの栄養持ってった!!

ただの肉じゃない。クローネさんの貴重な身体情報、魔力痕、スキルの断片、ぜんぶ、そこに含まれてたのに!


(お前ら、わたしのメシ盗んでいったなコラァ!!!!!)


体も動かせない植物の新芽が、内心でブチ切れ。

だけど、叫べないし、走って追いかける足もない。


(ああもう、植物って無力!!こんなに怒ってんのに、なんもできないの、悔しいッ!!)


せめて見えたら……せめて声が届いたら……

せめて──食い尽くしてから来いよッ!!


《怒りボーナス》発動中──捕喰効率+2%(5分間)


(いや……それで帳消しになるかああああ!?)


とはいえ、スキル断片の吸収はまだ続いている。

供給量は減ったが、質の高い核はまだ生きている……はず。


(くそ……先にもっと吸っておくべきだった……!)


だが、それでも。


(……絶対、無駄にしないからな。クローネさんの命も、その力も、全部……)


誓いのように、芽の中で熱が灯った。


そしてその深層で──スキル構築の最後のピースが、そっとはまる音がした。


《同調記憶域(メモリー・バディ)》

再構築フェーズ1、完了。

クローネ・イーグレットの人格断片、保存開始──


芽吹いた記憶。

根付いた誓い。

わたしの中で、誰かが“確かに生きている”感覚が、ほんのりと芽を開いた。



############


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