白昼ねむむは眠れない

@ryo-ka1

第1話 ねむむ眠れない

 枕ヶ丘高校は私立高校である。

私、夢乃時計ゆめのとけいは枕ヶ丘高校に通う高校2年生。

また今日も変わらず2-b組の窓側の席に着席する。

まだ外は暑く、9月の後半だというのに窓から見える太陽は私たちを殺さんとばかりにかんかん照りだ。

校庭も、教室内の賑やかさも昨日までの風景と変わらないように見える。


キーンコー、、、ン

8時50分のチャイムがなる。

チャイムの音は昨日より歪んでおり、音はいつもより小さい。このチャイムがあの季節が来てしまった事を知らせている。

いつも通りのホームルームの時間。

教室の扉がガラガラと音を出しながら開いた。

茶色のカールがかかった髪を揺らしながら、担任の

箸村七瀬先生が教卓の前にたった。

今日の服は深い緑のノースリーブ、そして胸元に小さな黄色いリボン。うちの学校は比較的教師の服装が自由なため、昨日は確か、水色のワンピースのような服を着ていた。そんな服を着こなすほど、学校の教師にしては容姿がとても整っている。彼女の天然なところとやけに思わせぶりな態度から、彼女に対するラブレターは1ヶ月に何十通か届くとか…

箸村先生は甘い声で、

「はい、今日は転校生が来ています。入ってきてください。」と言った。

ゆっくりとびらがあけられ、銀髪の少女が入ってきた。少女の髪は少し跳ねていて、光に当たるとキラキラ光る。彼女の肌はとても白く、自然に彼女の顔に視線が集まる。その白い肌が目の下のおおきなクマを目立たせている。窓からの光にあたり彼女の眼がキラキラ光る。オレンジ色の目は綺麗で、美しい。彼女が小説などに描かれるいわゆる美少女なのだろう。

教室はざわつき始める。

「はーい。静かにしてください。では自己紹介お願いします!」

箸村先生は黒板の前を彼女に譲る。

「えっと、私の名前は…」

彼女は自信なさげにボソボソと話し始めた。

「私の名前は白昼ねむむと言います。えっと、白に昼で、はくちゅうって読むんです。前の学校ではよく、くらねって呼ばれてて…はい」

彼女の声が小さくなるにつれて、クラスの空気は冷たくなっていく。

「えっと、まぁみなさん仲良くしましょうね!」

先生がその雰囲気を断ち切るように手をパチンと叩いた。彼女は少し胸を張って辺りを見回した後、焦ったようにお辞儀をした。

まさかあの自己紹介が上手くいったと思っているのだろうか?クラス内が静かになっている理由はよくわかる。あんなにも端麗なのに、彼女は自信なさそうに背中を曲げ、美しい目をあちこち動かしている。

「白昼さんは、まだ席が決まるまで、後ろのあの席で良いかしら。」

先生は私の後ろの席を指差した。

「は、ひゃぃ」

彼女はコクコクと頷いている。

先生はチラッと私を見て、ウインクをしながら「お願いね」といった。

白昼さんは恥ずかしそうに黒板の前を退く。

視線が痛そうに席に座る白昼さんに、「宜しくね」と言うと、「よ、ろしく、です…」と机の左下を見ながら片言に返ってきた。

「あー。まぁ何か困ったら言ってね。」

私がそう言って前を向くと、後ろから

「ヨシッ」

と声が聞こえてきた。少し後ろをむくと、彼女はニヤニヤしながら右手で小さくガッツポーズをしていた。

それで良いのか…

彼女の様子につい、そう口走ってしまいそうになった。


休み時間に彼女は質問攻めにあっていた。何処から来たのとか、好きな科目はとか、好きな小説は、とか…

彼女は焦りながらも少しずつ返していっていた。

「ねぇ、白昼さんってなんでここに来たの」

多くの生徒が興味深そうに聞いていた。

「えっと…それは……」

彼女は急に何も答えなくなった。ぴたりと動かなくなる。

「ええと、白昼さん?」

クラスの人たちが彼女を揺すった時、机にバタッと倒れてしまった。

クラスはざわつく。

「どうしよう!」白昼さんを囲んでた人達は、悲鳴のような声をあげている。

「ハッ!」

突然白昼さんは起き上がり、笑顔を見せた。

「す、すいません、ちょっと意識が…えっと、よくある事なんです。気にしないでください!」

周りの人たちは安心したような顔を見せる。

「あー、良かった!無事なら大丈夫。」

その一件が無かったように進むのが信じられない。囲んでいた人たちは、また彼女に対する質問を続ける。

「大丈夫じゃないでしょ」

私の口からこぼれ出た。クラスの人は一斉に私の方をみる。

気づいたら彼女の手を引いていた。

「保健室行くから、いいね?」

白昼さんは焦りながらも、ついてきてくれた。



保健室の扉を開ける。立て付けの悪い扉は甲高い音を立てながら、ゆっくり動き出す。保健室の中には誰もいない。

「あの、保健の先生を呼ばなくていいんですか?」

白昼さんは、ゆっくりそう言った。

「いや、今は先生が忙しい時期だから貸切状態。」

白昼さんは胸を撫で下ろした。口角を上げて、笑った顔はとても可愛い。つい見惚れてしまいそうになる。私がジッと見つめていたのがバレたようで、またすぐに目を逸らしてしまった。

「ごめんね、急に連れてきちゃって、実は」

続きを言おうとしたその時、彼女はバタリと音を立てて、また倒れてしまった。

「白昼さん!白昼さん!」

スマホに救急車の番号を打とうとした。

「…うぅ」

「白昼さん!今、救急車呼ぶからっ!」

「ぐぅ、ムニャムニャ…」

「え」

「ムニャ、布団はダックでぇ…」

彼女は気持ちよさそうに寝息を立てている。


「もしかして、寝てるの…」 

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