パート56: 戦わずして勝つ

 準決勝での、あまりにも一方的な蹂躙劇。

 そのニュースは、決勝戦を待たずして、僕たちの優勝を決定づけていた。

 決勝の相手は、代々騎士を輩出する武門の家系で、学園最強と謳われる騎士団長が率いるチーム。

 本来であれば、激戦が予想される相手だった。


 しかし、決勝戦当日。

 僕たちが舞台に上がると、相手チームの顔には、戦意など微塵も浮かんでいなかった。

 あるのは、ただ怪物を見るような、畏怖の表情だけ。


 試合開始の合図が鳴り響く。

 僕が何かを言う前に、相手の騎士団長が一歩前に出て、深々と頭を下げた。


「……参りました。我々は、棄権します」


 その言葉に、スタジアムがどよめく。

 だが、誰もそれを非難する者はいなかった。

 準決勝での僕たちの戦いを見て、自分たちが同じ舞台に立つ資格がないことを、彼ら自身が一番よく理解していたのだ。


「勝者、チーム・アラン! これにより、本年度の学内ランキング戦、優勝はチーム・アランに決定!」


 審判長の宣言が響き渡る。

 僕たちは、戦わずして、学園の頂点に立った。

 それは、僕たちの力が、もはやこの学園という小さな枠の中では測れないことを、雄弁に物語っていた。


 表彰台に立つ僕たちの頭上に、金色の紙吹雪が舞う。

 ヒロインたちは、顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべていた。

 僕たちの、長くて短い戦いが、今、終わったのだ。

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