パート6: 落ちこぼれの提案

 放課後、僕は約束の場所である古い温室でリナを待っていた。

 ここはもう何年も使われておらず、学園の生徒たちもほとんど寄り付かない。

 僕の秘密の拠点としては、まさにうってつけの場所だ。


(……来たか)


 ガラス戸が、きぃ、と小さな音を立てて開く。

 そこに立っていたのは、案の定、不安と決意をないまぜにしたような表情のリナだった。

 彼女は僕の姿を認めると、驚きに目を見開いた。


「あ、あなたが……この手紙を?」


「ああ、僕だよ。来てくれて嬉しい」


 僕は穏やかに微笑んでみせる。

 リナは警戒を解かないまま、僕と距離を保って温室の中へ入ってきた。


「どういう、意味ですか……? 私の力を、正しく使う方法って……」


「言葉通りの意味だ。僕は、君をプロデュースしたい」


 僕は単刀直入に告げた。

 リナの顔が、みるみるうちに困惑に染まっていく。


「プロデュース……? あの、意味が分かりません。それに、失礼ですけど、アランさんはレベル1のはずじゃ……。あなたに、何ができるっていうんですか?」


 当然の疑問だ。むしろ、そう言ってくれなければ困る。

 僕は少しも動じず、彼女に一歩近づいた。


「確かに僕のレベルは1だ。僕は、自分自身を成長させることはできない。だが、他者を成長させることはできる。僕には、人を見る目と、才能を正しく伸ばすための知識がある」


「知識……?」


「そう。例えば、君のスキル《魔力暴走》。君はそれを、制御不能な呪いか何かだと思っているだろう?」


 リナはこくりと頷く。

 僕は続けた。


「それは間違いだ。君のスキルは、膨大な魔力を内包する『貯水池』のようなものだ。問題は、その貯水池から水を引くための『水路』が細すぎること。だから、少し蛇口をひねっただけで水が溢れ、暴走してしまう」


「ちょ、貯水池……? 水路……?」


 リナは目を白黒させている。

 僕は構わず、彼女の魔術の癖を指摘した。


「君は実技の時、いつも魔力を練り上げる段階で焦っている。早く結果を出そうとして、無理やり魔力を押し出そうとする。それが、細い水路を決壊させる原因だ。君に必要なのは、出力の強化じゃない。魔力を細く、長く、安定して流し続けるための、精密な制御訓練だ」


「……っ!」


 リナは息を呑んだ。

 僕の指摘が、彼女自身も気づいていなかった核心を突いていたのだろう。

 その顔には、驚きと、そしてほんの少しの期待が浮かんでいた。


「どうして……そんなことまで……」


「言っただろう? 僕には人を見る目がある、とね」


 僕は自信に満ちた笑みを浮かべる。

 これは「落ちこぼれのアラン」ではない。「プロデューサーのアラン」としての顔だ。


「信じるか信じないかは、君次第だ。でも、このまま誰にも理解されず、落ちこぼれとして学園生活を終えるのと、僕に賭けてみるのと……どちらがいい?」


 僕は彼女に選択を委ねた。

 答えは、もう分かっていたけれど。

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