第14話 潰れそうな店を救え!
第三試合を終えたある日、タケルは浮かない顔でラボに戻ってきた。
「どしたノ、タケル? 元気あーりマセン」
ジョニーが陽気に問いかける。
「……俺の行きつけのラーメン屋が、閉店しそうなんだ」
それは、タケルが物心ついた頃から通っていた『中華そば竹寿』。
こってりなのに後味さっぱりのスープと極太ちぢれ麺が自慢の店だ。
「それは悲しい話ウマ〜」
竹丸が目を潤ませる。
ユレルも眉をひそめた。
「理由は? 客足が減ったの?」
「そうなんだ。ありきたりのラーメンって口コミを書かれたせいで、一気に客足が遠のいたんだって」
タケルの肩は重く落ちていた。
その時、ジョニーが派手に指を鳴らした。
「ナ〜イスアイディアあげるよ、タケル! 動画配信するンダ! 『竹馬バトラー御用達ラーメン店!』ってナ!」
「動画配信……?」
タケルは目を丸くする。
「そーデスヨ。竹馬バトラーのタケルが行く店なら話題性バッチリ! 竹馬ファンがこぞること間違えナ〜イ!」
「いい考えウマ!」
竹丸も大賛成だった。
かくして!
タケルと竹丸はスマホ片手に動画撮影を始めた。
「ど、どうも〜。竹馬バトラーのタケルです! 今日は俺の行きつけ、竹寿に来てます!」
ぎこちない挨拶の後、店の内装やラーメンのアップを映し、食レポに挑戦するタケル。
「う、うん! これが竹寿の中華そば! うまい! ほんと、うまい!」
「最高ウマ〜!」
竹丸も隣で合いの手を入れる。
だが――。
翌日、配信サイトの再生回数は二桁止まり。コメント欄も「素人すぎ」、「地味すぎ」と辛辣だった。
「……だめだ、これじゃ誰も興味持たないよ」
タケルはがっくり肩を落とした。
そこにユレルが現れた。
「私に任せなさい!」
「え、ユレルが?」
「動画配信は演出が命よ!」
かくして!
ユレルは早速、店内で自撮りを始めた。胸元が大胆に開いた衣装に、魅惑的なウィンク。
「こんにちは〜♡ 今日は竹馬バトラーのタケルくんが行きつけのラーメン屋さんにお邪魔してま〜す♡ ここの特製スープがぁ、もう……とろけちゃうの♡」
ユレルは極太メンマを咥えたり、わざと胸元に麺をこぼしたり、ラーメンよりも過激な行動ばかりが撮影されていく。
竹丸が小声でツッコむ。
「ちょっとアダルトすぎるウマ……」
「分かってないわね、竹丸! これがバズる秘訣よ!」
自信満々のユレルが、ジョニーのようにサムズアップする。
だが――
翌日、ユレルのアカウントは即座に凍結された。
《本アカウントはガイドライン違反により停止されました》
「えええええっ!?」
「やっちまったウマ〜!」
タケルは頭を抱え、ユレルは真っ赤になって俯いた。
「……やっぱ俺たちみたいな子供には荷が重いのかもな……」
落ち込んでいるタケルたちの前に、ふわりと優雅な足取りで夏雄が現れた。
浴衣姿に純白のストールを肩にかけ、大正時代の文豪のような雰囲気を漂わせている。
「やあ、みなさん。少しお話を聞かせてもらいました」
夏雄はにっこりと微笑んだ。
「僕にひとつ、妙案があります」
「妙案?」とタケルが顔を上げる。
「ええ。タケルさんが大事にしているお店を、僕がプロデュースします」
突然の提案に、タケルたちは目を丸くした。
「そんなコトできるんデースか?」
ジョニーが驚いた声を上げる。
「もちろんです。僕の家は飲食も手掛けていますから」
夏雄は涼しげに言い、手早くスマホを操作した。
「冬野グループの専門家たちを招集しました」
その日のうちに、竹寿の店内には次々と高級インテリアが搬入されていった。
かくして!
わずか三日で店は様変わりした。
金色のシャンデリアが天井に輝き、壁にはベルサイユ宮殿を模した豪華なレリーフ装飾。純白のテーブルクロスに金縁の食器が並ぶ。厨房も最新鋭の設備に置き換えられた。
「うわぁ……」
タケルは言葉を失った。
「見事ウマ〜!」
竹丸が感嘆の声を上げる。
さらに食材も一新された。
最高級の昆布と鰹節に、幻の地鶏のガラを惜しみなく使用。特注の超高級小麦粉を使った麺。トッピングには金箔で包んだ煮卵まで乗せられている。
完成したラーメンは、もはや芸術品のようだった。
新装オープンから数日。
店の前には長蛇の列ができ、SNSでは「バンブーラーメン竹寿」として瞬く間にバズっていった。
「さすがだよ、夏雄……」
タケルは目を輝かせた。
夏雄は紳士的に微笑んだ。
「タケルさんの大切な場所を守るためです。これも僕たちの友情の証ですよ」
ジョニーは陽気に親指を立てた。
「ナ〜イス、夏雄! これデ財政モ安泰ネ!」
竹丸も踊るように跳ねた。
「ラーメン食べ放題ウマ〜!」
後日、タケルは改めて新生・竹寿へ足を運んだ。
案内された席に腰を下ろすと、給仕係が丁寧にラーメンを運んでくる。
「特製ゴールデン竹寿ラーメンでございます」
湯気の立つ黄金色のスープに、豪華すぎる具材。
タケルは箸を取り、そっと口に運んだ。
「……うまい」
たしかに美味しかった。
素材の旨味が濃厚に重なり合い、まるで高級フレンチのスープのようだ。
だが、同時に胸に何かが引っかかった。
(でも……前の素朴な味、好きだったな)
豚骨と煮干しが絶妙に溶け合った、昔の竹寿の味。子供の頃から慣れ親しんだ、あのホッとする一杯。
タケルは箸を止め、小さくため息をついた。
「贅沢すぎるのも悪くないけど……ちょっと寂しいな」
目の前では煌びやかなラーメンが湯気を立てていた。
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