第11話 特製ミートパイ

 いつものように、小刻ラボは和やかな空気に包まれていた。

 中央のテーブルにはジョニー特製のミートパイがドンと置かれている。香ばしい匂いが漂い、みんな食欲をそそられていた。


「ハ〜イ! みんな! ワタシのお手製ミートパイ! 熱々デース!」


 陽気な笑顔を浮かべたジョニーが、誇らしげにパイを切り分ける。

 ミートパイの中からは溢れんばかりの肉汁がじゅわっと湧き出していた。


「いただきます!」

「いただきウマ〜!」


 タケルと竹丸は目を輝かせてかぶりつく。


「うん、ジョニー兄さんのミートパイ、やっぱり美味しいわ!」


 ユレルも満面の笑みで頷いた。


「さすがジョニーさん。料理の腕前も一流ですね」


 夏雄も上品にナイフとフォークでパイを切り分けながら微笑む。


「……はぁ〜」


 急にタケルが大きくため息をついた。


「まだ第三試合の連絡が来ないなんてさ。俺、早く闘いたいよ」

「確かにウマ。大会の運営、ノロノロしすぎウマ」


 竹丸も小さな手で頬杖をつく。

 ユレルは考え込むように眉を寄せた。


「そもそも、この竹馬闘戦って、トーナメントなの?  それとも総当たり戦?  ルールがよくわからないわ」

「ああ! オレもそれ思ってた!」


 タケルが勢いよく立ち上がる。


「ワタシも、よくワカーラないデスネ〜。システム、フシギ!」


 ジョニーも肩をすくめる。

 すると夏雄が優雅にカップの紅茶を口に運び、静かに口を開いた。


「この竹馬闘戦の詳細なルールは、八百万の神々のみが知ると言われています」

「ええっ! 神様だけ?」


 タケルが思わず夏雄の方へ身を乗り出す。


「はい。なので参加者の間でも、正式なルールは噂レベルでしか語られていません。しかし……」


 夏雄は少しだけ間を置き、落ち着いた口調で続ける。


「連勝数が重要だと言われています。具体的には、連続で10勝を積み重ねた者が決勝戦へ進めるとか。もちろん敗北すればリセット、ふりだしに戻るとも」

「なるほど……」


 ユレルが感心したように頷いた。


「よく分からない。だからこそ面白いんですよ」


 夏雄は微笑みながら続けた。


「神々は気まぐれです。次に誰と当たるかもわからないし、いつ試合が入るかも不透明。実力はもちろん、運と、神々の気分さえも勝敗を左右する。それが竹馬闘戦なのです」

「はあ〜すげぇ大会だな」

 

 タケルは天を仰いだ。


「だからイイノです! 世界イチを目指すノハ、オモシロくなくっちゃネ!」


 両手を広げて大笑いするジョニーを横目に、タケルが特製ミートパイにかぶりついたその時だった。


 ピピピピ……


「ついに次の試合が来たウマ!」


 竹丸がモニターの前でぴょんぴょん跳ねる。


「確認するわよ!」


 ユレルがすばやく端末を操作し、画面にデータが浮かび上がる。


「第三試合、対戦相手は……大士ゼン!」

「ダイシ・ゼン? どんなヤツ?」


 タケルが前のめりになる。


「年齢は15歳。すでに4勝中。かなりの強者ね」


 ユレルが画面をスクロールするたびに、ゼンの情報が次々に映し出される。


「野生児?」


 夏雄が眉をひそめた。


「屋久島の山奥で育ったらしいわ。竹馬はなんと屋久杉を丸ごと一本削り出して作ったんだって」

「マジかよ? 機械は?」

「一切ナシ。完全に天然の竹馬で戦ってるって。まさに自然そのものと一体化してるって感じね」


「すごいウマ!」と竹丸が驚きの声をあげる。


「ちなみに、フィールドで撮影された画像もあるわよ」


 ユレルが画面に映し出したのは、ジャングルのような森の中で、軽やかに竹馬を操るゼンの姿。


「自然と共鳴している可能性が高いですね」


 夏雄は静かに分析を加える。


「ま、俺は早く戦えるなら誰でもいいぜ! どんな相手だろうが、全力で挑むだけだ!」


 タケルの瞳には、燃え上がる闘志が宿っていた。


「ヨッシャー! そのイキオイ、サイコーデース!」


 ジョニーが陽気に親指を立てる。

 次なる激戦が、すぐそこまで迫っていた。

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