第6話(2)

 とりあえず、今のみよりちゃんの発言に乗っかることとします。


「そうですね。彼女のハンドシンキングはかなりハイベストです。しかし私は会長の意見にも賛成です。一見するとイマジンジェネレーションですので」


 うわ、今私滅茶苦茶なこと言っています。イマジンジェネレーションって……き〇りん☆レボリ〇ーションじゃないですかほぼ。ものすごくおかしな事を言っています、私。


 でも、良いんです。私はどうせバカなんですから。バカならバカなりに突き進むしかないと思うのです。


 私の意見に便乗し、みよりちゃんが嬉々として造語の嵐を呼び込みます。


「確かに、このラブラドールの言っていることはタンバシャンなんよ。でもわしは、やっぱりビショップだと思うね」


 おおっ、みよりちゃんすごいです。でもビショップはチェスの駒の名前です。


 しかし皆さんそれには気づかず、「へぇぇ~」と舌を巻いています。なんてアホなことをしているんでしょう。でも!


 こんなことやってられるの、学生の内だけです! ならば、思いっきり楽しむ他ありません!


「みよりちゃん。私、アンチバビットだと思うんですよ」

「うんうん。じゃあわしはビバットだね」


 とにかく二人、感覚で会話します。語感でそれっぽいものを選びます。そのやりとりが楽しくて、気づかば私たちは椅子から立ち上がっていました。


「みよりちゃん! あなたはまさにマチアバリだ! とてもイングベーション!」

「うんうん! イングベーション!」


 そして、二人して、『コングラチュレーション』的にイングベーションなる造語で相手を褒め称え(?)、お互いをきつく抱擁し合いました。


 すると、生徒会室の入り口付近から、パチパチパチ、という拍手の音がしました。皆一斉に扉の方を見ます。扉の前には、神出鬼没な男、一条先輩が立っていました。


「フハハハハ、見たか、皆の衆。あやつらは心の深くまで互いを理解し合っている。公衆の面前で抱擁を交わすなど、深い友情が為しえた技ではないか。ああ、まさにイングベーションだ。素晴らしい。素晴らしい」


 一条先輩は、イングベーションが造語だということも知っているのでしょう。すべてを見透かすあの瞳が笑っています。


 というか、いつからこの会議を聞いていたんでしょう。全く読めない人です。


 一条先輩は大げさに両手を広げ、生徒会室のど真ん中に堂々と立ちました。そして、まるで独裁者のような演説をし始めます。


「我はピンクオリティをマゼリュタした結果、あの者たちが王に相応しいという結論に至った」


 鋭い声で私とみよりちゃんを指さす先輩。そのとたん、生徒会室はざわ……ざわ……となります。「何だと、ピンクオリティだって?」「マゼリュタか……なかなかに奥深い……」二つとも絶対造語です。なのに皆さん知っているふりをされています。ここまでくるともう皆さん楽しんでいるんじゃないですか?


 って、それよりも一体全体私たちが王に相応しいってどういうことですか!


「あの者どもが王になる……そうすれば、アンダリシティは崩壊し、新時代のイスクルルルエーションが開花する。そうすれば、どうなると思う? 会長」


 生徒会長さんは、いきなり話を振られて、えっ、と言う顔をされましたがすぐに、


「そうだな……私もそれにはアグリーだ。アルゴリズムを簡略化することは大事だと思う」


 ろくろを回すポーズをしながらビジネス用語(これは本当にあるやつ)を使う彼女は、本当にビジネスマンみたいに見えました。にしても、アルゴリズムを簡略化ってさっきなんたら帳に書いていた言葉ですよね。吸収したことを早速使う会長さんは、本当に真面目な人なんでしょうね。


 一条先輩は、心の底から今この瞬間を愉悦しているような目つきをした後、その長い腕を大きく振り上げて拳を作り、高らかに宣言します。


「今! 我はここに宣言をする! 見城女史と根来女史を新世界の王とすることを! それはかなりブラッドラバリエリでハイポーションなことだ!」

「「うおおおおおっ」」


 震撼する生徒会室内。ハイポーションは治療薬でしょう、とは到底言えません。


「ね、見城さん。わしら王になるんだって! すごいね!」


 みよりちゃんは無邪気な笑顔で話しかけてきます。「王ってなんだ?」とは一ミリも考えず、ただただ面白そうだと思っている、純粋な瞳です。そんなみよりちゃんを見ていると、思わず笑みがこぼれてしまいます。そうですね、王になるのも悪くはないでしょう。


「見城、根来。二人とも、民衆どもに王としての宣言をしてやれ」


 悪ノリが高じて、私もみよりちゃんも早足で生徒会室のど真ん中に立ちます。各委員会の委員長さんや、生徒会役員……いや、私たちの可愛い国民たちがこちらを期待の目で見てきます。


「では、まず私から」


 私から口を開きます。


「皆さん! 私たちの指導の下、アマカリエーションでリップバッションティップスなマツニスマーレを作っていきましょう! まっがーれ」


 声高に宣言をした途端、皆さんの熱気が高まります。「アマカリエーション、略してアマカリだな!」「何それほぼ岡山県名物のままかりじゃん」「リップなんちゃらってすっごいおしゃれだな……」「マツニスマーレもなかなか……」「いやいや、まっがーれってちょっとヤバくない? ネタ的に」皆さんざわつかれています。かなりエスプリの利いた(エスプリの意味をわかっていませんがこの際カタカナ語は何でも使いたい気分です)ことを言えた気がします。


 さて、この私のハードルを、みよりちゃんはどう乗り越えるか……。


 みよりちゃんは、一歩前に出て、民草が黙るのを待ちます。独裁者の手口ですねわかります。


 室内が静まり返ってから、みよりちゃんは口を開きました。


「みんな! ぎゅって抱きしめて! ギャラクシーの果てまでー!」

「「うおおおおっ」」


 すごい! もはやここまでくるとルー語なのに、皆さん自然に受け入れています! 「ご存知、ないのですか?」「彼女こそ、スポーツ委員からチャンスをゲットし、キングの座をダッシュしている、」「スーパー時空シンデレラ、みよりちゃんです!」つい私もそのビッグウェーブに乗っかって最後のセリフを言ってしまいました。これほどまでにすさまじいとは……恐るべき、みよりちゃん。私よりもヤバい方にネタを持っていったのに、ちょっとアレンジを加えたからセーフっぽくなってます。


 そして私たちはその場の流れで、『スター間フライト』(まあ普通に言うと星間……ゲフンゲフン)を歌うことになりました。


 会長は涙ぐみ、先輩は「お前が……お前たちが、ミーの翼だ!」と叫んでいました。

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