【1200PV 星20感謝】今日も生きてるのでとりあえずレモンサワー買いに行く

アヌビス兄さん

プロローグ

第1話 今日も生きてるいのでとりあえずレモンサワー買いに行く

 昨日飲み過ぎた。


 昨日何してたっけな? ルームメイトのボケナスと海外ドラマのフォールアウトをマラソンで見たんだっけ。

 

「ふふふふふーふふーふんんー♪」

 

 リビングでは機動戦士ガンダムのどれかのシリーズを見ながら木材を削って鼻歌を歌っているルームメイトのボケナス。

 フィリピン人のキサラ・アルテマ。

 

「ぐっもーにん。キサラ」

「あ? もう昼だぞ池田」

「あっそ、何作ってんだよ。あ?」

「これか? これなぁ? 聞いて驚け! Zガンダムのハイパーメガランチャー! 浦安でアンドレが小鉄殺す為に作ってた鉄球飛ばすゴム鉄砲!」

「あっそ……あれ?」

 

 昨日、レモンサワーを買い足してたのに、一本もねぇ。


 チッ! 


 もう昼だけど朝っぱらからルームメイトのボケナスとコミュニケーションとるのクソだるいけどしゃーねー。

 

「キサラ、俺のレモンサワーしらね? 昨日だるま屋で買ってきたやつ」

「今日さ、朝からダブルゼータマラソンで見てたんよ」

「おう。ご苦労さん。ダブルゼータがなんか知らんけど、俺のレモンサワーは?」

「池田さ、最近腹出てきてんよ? 胸より腹の方が目につくもん」

「マジで? 胸って大きくならねーのになんで腹は永久に育つんだよオイ!」


 キサラは自分の大きな胸を鷲掴みにしながら煽ってくるので、無視だ無視。それよりレモンサワー。

 

「おい、クソフィリピーナ。なに朝から俺の飲む福祉(レモンサワー)キメてんだよ? あぁ?」

「ごちっすー! いや、クソジャップも昼から飲む福祉(レモンサワー)キメるつもり満々じゃんかよ。はい、僕のPS250の鍵。だるまに買いに行きなよ。あとニュータイプとガンダムエース売ってたら買ってきてちょ」

「ッチ! 知らねーよそんな雑誌、自分で買ってこい。えっと……お? 俺のゴルフクラブは? あのこの前死んだゴルフ部の奴が持ってたの?」

「あー。あれな? 壊れたから捨てた。僕の鉄パイプ持ってきなよ」

「ッチ……」

 

 クソが!

 あのゴルフクラブ使いやすかったのになぁ。キサラのPS250何処だよ。あったあった!

 

「かー! ホンダ・PS250。街乗りの王様はいつ見てもいいねぇ! 積載性、カスタム性。どれをとっても随一だぜ! あのクソキサラが、後ろに馬鹿でかいクーラーボックス取り付けやがったからいくらでもレモンサワーぶち込めるし、持ち主はボケナスなのに、お前さんは可愛いねぇ」

 

 ブロロロロ!


 うるさすぎないエンジン音、乗り心地も上々、スピードも250ccとしては十分。あー、あのボケナスが死んだら俺の物にしてやっからなー。

 このケルビム学園特区で単車を転がす場合、法定速度より遅く、そして信号もしっかり、しっかーり確認しなければならない。


 まぁ、俺が運転しくる事たぁないんだけどな。俺とあのボケナスの行きつけの店、だるま屋は俺たちの住む家から5キロ程離れたところにある個人商店。少々上乗せされるけど、取り寄せてもらいたい物を申告すれば大抵用意してくれる。

 単車は店の前に適当に駐車。

 面倒な点があるとしたら、

 

 ガラガラガラ。

 自動扉じゃないという事だ。

 

「うぃーす! 卜部さん、レモンサワー買いに来たっす」

「いらっしゃ……池田か、毎日毎日よく飲むな。アルテマは?」

「あのボケナスは家でガンダム観てるわ」

 

 卜部さんは、三十代くらいの女。いつも加熱式タバコを咥えている。かつてこの学園特区の学生だったらしいが、そのままこの学園特区内で店舗開店してるらしい。全部“らしい“なのでほんとか知らなんけど、年齢とか聞くと機嫌がクッソ悪くなるので店主と常連以上の関係は築いてないし、築くつもりもない。

 俺はレモンサワーを籠に入れながら、ふと珍しい物を見つけた。

 

「未来のレモンサワーあんじゃん!」

「あー、それ取り寄せもんだから持っていくなよ。お前はやっすいストロング酎ハイだろ」

「一本だけ、ダメ?」

「だめ」

「若くて綺麗な卜部お姉様ぁ!」

「一本、555円だ」

「高くね?」

「上乗せ費用だ。お前が普段買ってるロング缶200円のレモンサワーも、本土だと100円切ってんだ」

「マジかよ。俺、倍払ってるのに安いと思ってたんか」

 

 旧紙幣の1000円札を二枚、十本のロング缶を購入するとそれらを持ってきたトートバックに適当に詰めてボケナスのPS250に積載されているクーラーボックスに入れる。今日の外出と行動はこれで終わりだと思うと我ながらヤバい生活だと思う。きた道を帰り、シェアハウスに向かう途中。一人の女学生とすれ違った。

 嗚呼、マジか。というのが俺の率直な感想。Uターンして、女学生の前にまで向かうと、腕と太ももが不自然に青く発光している。頭の良い学生達がこの症状をプラーナ発光と呼んでる。


 光出したが最期、光が消える頃に命の火も消える。

 

「おい、アンタ意識はあるか」

「あ、はい」

「腕と足、プラーナ反応出てるから一応聞くけど、介錯しようか?」

 

 このプラーナ発光が起きると精神状態が極めてヤバくなる。だから、意識がある内に介錯を求められたら応じなければならない。襲ってこられても困るしな。もちろん、イカれちまったら殺るか、死ぬまで放置しておくってのが暗黙のルールなわけで俺も学園特区に所属している以上従う必要がある。

 

「あの、結構です」

「そうかい、じゃあ俺は行くから、その。御愁傷様」

 

 誰かに助けを求める方法は? 


 それがないないのないなんだよな。一応病院機能は頭のいい医大生を中心に存在はしている。警察はいないが独自に自治を行なっている有志のいい子ちゃん達のおかげで治安もそこまで悪かない。だけど、この学園特区で生活している人間は外部に出る事が許されない。どこぞのお勉強だけできる馬鹿がゾンビになるウィルスを作ろうとして、感染力をもったインフルエンザをベースに色々やらかした結果。あの映像作品のゾンビウィルスはできなかったが、唐突に死のカウントダウンが始まるクソみたいな病気が発症した。俺のゼミ生も二人逝っちまったし、俺も含めて、学園特区に住まう約14000人は全員感染者として隔離されている。最初は自衛隊によるバリケードが、いつしか大きな壁ができて許可なく脱出しようものなら、銃殺許可まで出ているときた。


 最初こそ少し荒れたものの、年寄りとガキの発症が相次いだあとは落ち着いてきて、誰が言い出したか、1000日ルール。1000日経って生存していればウィルスは死滅しこの閉鎖隔離も終わるだろうという話。

 元々、外国の学生の論文らしいが、ゾンビパニックになっても1000日経てばゾンビは全ていなくなるとかいう話を元にしているらしい。

 ありがたい事に食料、生活必需品はドローンでしっかり供給されている。俺みたいに嗜好品を買わなければ支給された食料にはありつける。まぁでもいつ死ぬか分からないこの状況で酒でも飲んでないとやってられない。

 

「なんでよぉおおおおおお!」

 

 あーはいはい、さっきのは感情が追いついてなかった系か、このウィルスのややこしい事が一度感情的になるとターボでもついてるかの如く加速する。俺と違ってどこぞの良いところのお嬢さんなんだろうが、もう見る影もない。俺に向かって走ってくる。バイクに乗るよりも先に襲われるな。PS250に装備しておいた鉄パイプを取り出すと、躊躇なくフルスイング。

 

「知らねーよクソ女ぁ! 死ぬなら俺を巻き込まずに勝手に死ね!」

 

 そしてこのウィルス。プラーナ発光から死に至るまで平均3日。脳がどういう反応を起こしてるのか知らないが、凶暴化、そして肉体の異常なまでの発達する奴が稀に現れる。

 首の骨をやれず、折れ曲る鉄パイプ。

 

「やっベー……」

 

 きっと人間が熊とかと対峙した時はこんな感じになるんだろう。バイクに、それよりも前に絶対捕まるか殺られる。クッソ、こんな事なら飲酒運転になってもいいからレモンサワー飲んどくんだった。死んだらどうにかして怨霊になってボケナスのキサラを呪い殺してやる。

 

 ズドン!

 

「は?」

 

 

 ドン! ズドン!

 

 俺の目の前で起きた事。俺を襲ってきたゾンビ女の顔に一発、胴体に一発、そして再び頭に一発鉄球が飛んできた。飛んできた方向を見ると、ダンボールに“Zガンダム“と書いた物を身に纏ったルームメイトのボケナスキサラが木材で作った巨大な割り箸鉄砲みたいな物で鉄球を発射したであろう姿。

 

「ハイパーメガランチャーをうけてみろ!」

「ぬふぅ」

 

 俺は変な声と共に腰が抜けた。なんというかボケナスが作った馬鹿みたいな物に命を救われるとは思わなかった。

 俺の元にやってきたキサラは満面の笑顔だ。

 

「池田。ニュータイプとガンダムエースは?」

 

“みなさん、こんばんわ。17時の時報です。本日の観測死者数。おおよそ七名。現在生存者数、おおよそ9642名。1000日まであと784日となりました。明日も元気に迎えられるように願っています“

 

 どっかの誰かが始めた定時放送を聴きながら、俺は手を伸ばすキサラにこう言った。

 

「とりあえずレモンサワー飲もうぜ」

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