第1章『最初の死 ― 高橋勇太郎』
Scene1:深夜、モニターの前の神谷麗
暗い部屋だった。
時計の針が、午前1時47分を指していた。
カーテンの隙間からは、隣家の微かな明かりだけが差し込んでいた。
モニターの光だけが、彼女の横顔を照らしている。
神谷麗。17歳。
高校二年生。今は学校に通っていない。
いや、正確には“通えない”のだ。
画面には、SNSのタイムラインが無音で流れていた。
タグは「#女子高生盗撮」「#バイト中にやらかし」
投稿したのは、「Takahashi\_Yutaro」。
バイト先の制服を着た自撮りに、客の名札と顔が写った写真。
“エロかったから、つい”という言葉が添えられていた。
画面の横に、別ウィンドウが開いていた。
麗の作った――死の候補リスト。
上から何十人も並ぶ“高橋”の名前。
その一番上で、赤い矢印が止まっていた。
「高橋勇太郎」
指先が、ぴたりと止まる。
麗は何も言わず、その名前を見つめ続けていた。
だが、胸の奥では燃え尽きない痛みが、じくじくと疼いていた。
「この名前から、始めよう」
声に出したその言葉は、驚くほど冷たく、静かだった。
涙も、怒りも、そこにはなかった。
ただ、必要なことを選んだという確信だけがあった。
デスクの横に置かれた小さなノートを開く。
“最初の地獄”と書かれたページ。
彼の名前がそこにもあった。
勇太郎の名前は、麗にとって過去の記録であり、これから始まる制度の象徴でもあった。
画面右下に、点滅するアイコン。
Minamo専用アプリのチャットだ。
【クロ】
今、バイト先確認した。出てくるのは21時半。
帰り道、例の人気ない道、通ってる。
癖でガム買ってるから、ドラッグストア前で足止めるはず。
やるなら、あそこがベスト。
【シロ】
生理周期を何度も聞いた、初回のメッセージのログも保存済み。
配信向けに再現台本、整えとくね。
【カナメ】
勇太郎の携帯に遠隔アクセス完了。
GPS誘導で囮も可能。
あと、顔認証に使う写真は例の「自撮り」と「盗撮投稿」から抜いてある。
メンバーたちは何も問わない。
復讐の対象を聞かずとも、麗の指が止まった時点で理解している。
それが「ミナモ」という名前の絆だった。
麗は短く返した。
【麗】
実行、承認。
開始して。
一度、手を止める。
モニターに戻ると、勇太郎のアカウントが自動で更新されていた。
今度は、“部屋の中で寝転んだ写真”
画面に映るのは、あの顔。
高校の時から何も変わっていない、丸顔で鼻の潰れた気色悪い笑み。
麗は、指先で写真を拡大した。
「お前の指で、何人の子の尊厳を壊したの?」
「その指、一本ずつ切り落としてやるよ」
囁くように言ったその言葉は、もはや呪詛ではなかった。
執行宣言だった。
椅子の背に寄りかかり、麗は天井を見つめた。
思い出すまでもなく、すぐに浮かぶ。
あの日。
あのメール。
あの笑い声。
あの冬の朝、ベランダの手すりに立った自分。
「あれで終わっていたら、楽だったかもしれない。
でも、死ねなかった私に残されたのは――」
「やるしかない、ってことだった」
次の瞬間、スマホに通知が届く。
【LIVE配信準備中:Minamo公式】
タイトル:《#1 高橋勇太郎 処理中》
視聴待機者:2,394人
小さく、でもはっきりと――
彼女は笑った。
「ようこそ、“姓滅”の世界へ」
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