033-決闘の勝者

「すごい...」


バドックⅢとトゥルーブルーの戦いを見ていたミユキは、ふとそう呟いた。

信じられない様なことが連続で起きていた。

一つは、いつもの自分の悪癖が出て離れてしまった少年が、自分を助けてくれたこと。

次に、少年を守るはずが、逆に助けられてしまったこと。

最後に...ブルータルの隠された機能を、あの少年が解放したこと。


『あの鎧には、真の姿がある。だが我々には、それを開かせることは出来ない。だから王は、我々にアレをお与えになったのだよ、ミユキ』


かつて彼女の祖父が言った言葉を、彼女は思い出していた。

事実、彼女が乗った時には一度もその様な反応は起きなかった。

何より...


「あの戦闘技術...ナユタだけのものではないわね」


その技術があるなら、最初から近距離武器を選び自分を追い詰めていた筈だと、ミユキは考察する。

凄まじい猛攻をいなしていくトゥルーブルー。

それどころか、徐々にバドックⅢを超えていく。


「それにしても...早く決着をつけなさいよね...」


ミユキは呟く。

まるで古代の決闘を見ている様であった。

古代王国の御前試合の決闘では、流れが重視された。

すぐに決着をつければ、最悪首が飛ぶ。

そのため、両者が舞う様に戦う様が、まるで剣舞の様であるとされたのだ。


「距離を取った...?」


その時。

唐突にトゥルーブルーが離脱し、少し離れた場所へ着陸する。

とどめを刺せばいいのに、そうミユキが思った時。

トゥルーブルーが、見たことのない姿勢へと移行する。


『限界のようだねぇ! 死ねえぇええええ!』


遠距離から攻撃を放てばいいものを、ナユタはむしろ言葉で挑発し、バドックⅢの動きを誘導していたのだ。

トゥルーブルーのバイザー...ベンテールがアイカメラを覆うように下がり、剣が赤熱化...直後に真っ白い光を放つ。

真っ直ぐ突っ込んでくるバドックⅢが、トゥルーブルーのリーチ内に入ったその瞬間。

トゥルーブルーが剣を振り抜いた。

それは、居合の型。


『終わりだ』


凄まじいまでの速度で振るわれた斬撃が、バドックⅢの胸部装甲を斬り飛ばし、たった表面を薙ぎ払っただけで、ロドス機関を損傷させたのだ。

機関部を破壊されたことで、バドックⅢの動きは目に見えて悪くなる。

まるで慈悲を与えるかの様に、トゥルーブルーは...その首を猛々しく落とした。


『勝者:ミユキ・カナタ&ナユタ・カイリ』


冷徹なシステム音声が、勝者には歓声の様に、敗者には絶望を告げる悪魔の声の様に鳴り響く。

その瞬間、ミユキは駆け出した。

ナユタの様に階段で転ける様なミスは犯さず、斜めに階段を飛び降りる。

そして、格納庫を抜けて訓練場へ向かった。

彼女が入った時には、火花を散らせてバドックⅢが頽れ、トゥルーブルーが元の姿へと変形して戻る最中だった。


「ミユキ、勝ちましたよ」

「そうね」


ブルータルのコックピットから降りたナユタが、ミユキの前に降り立つ。

彼女の頬は少し赤くなっている。

それは、悔しさからのものではない。


「...でも、貴方はどうするの?」

「...僕は、いいですから」


王子をここまで大々的にぶちのめした事で、ナユタは社会的に殺害されるだろう。

そんな自覚は、ナユタ自身にもあった。


「...なら...いえ、なんでもないわ」

「? はい」


ミユキは一瞬出かけた言葉を飲み込む。

それは、彼女の意思だけで決められぬ事だ。

恩を返したいというだけで、大して知らない相手と生涯を共にするのも、彼女には決意がなかった。


「ですが、後悔はありません」

「...そう」


ミユキは目を閉じて、脳内で気持ちを落ち着かせるべく叫ぶ。


「(ずるいじゃない...! 何なの、この人...)」


彼女は男に免疫がなかった。

棘付きの殻に籠っていた影響で、そもそも男が寄って来なかったともいうべきか。


「ミユキ?」

「...と、とにかく。名誉を守ってもらったことは感謝しますわ。ですけれど、それだけで私は貴方を認めたわけではありませんわ」

「...はい、わかってます」


ミユキは威厳を取り戻した様に言った。

直後、ナユタが何かに気付いて背後を振り返った。

そこには、銃を構えたパトリックが立っていた。


「君がいけないのだよ...この私が...持てば誰でも人を殺せる武器を使うとはね...!!」

「ナユタ!」


そして、パトリックが何でもないかの様に、ただ引き金を引いた。

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