029-直感
戦闘が始まると同時に、ブルータルが遠距離射撃を放つ。
だが、それはバドックⅢのシールドに阻まれて、吸い込まれるように消えた。
「どうする気なんだ...?」
同時に、ブルータルが跳躍する。
第三訓練場の特徴として、地上から50m以上は無重力である事が挙げられる。
無重力空間に突っ込んだブルータルは、バドックⅢに対して連続で射撃を浴びせかける。
しかし、効果が無い。
「これは...酷過ぎる」
勝負になっていない。
それと同時に、僕はパトリックに対して怒りを覚えている事に気づいた。
クライムに対してのあの態度。
堂々と戦おうともしないその姿勢。
彼が王になれば、きっと多くの人間が不幸になる。
だが、彼は抜け目がない。
多くの人間は、彼の内面には気付かないのだろう。
『ハハハハハッ、全く効いていないようだね。では...反撃と行こうか!』
次の瞬間。
一瞬で加速したバドックⅢが、ブルータルに最接近する。
ブルータルはそれを回避する。
光条が、ブルータルのすぐ側を突き抜けた。
「...!」
固唾を飲んで、僕は勝負の結末を見守る。
大丈夫、ミユキ・カナタだ。
僕が当然敵わない相手が、苦戦するはずが無い。
これは杞憂だ。
『くっ...全く、効果が無い!?』
『痛くも痒くも無いさ、さあ、どうする?』
ブルータルは一気に加速すると、バドックⅢの関節部にライフルを押し当てて射撃する。
だが、そこにもシールドがあるのか、暴発したビームが吸い込まれて消えた。
「勝負にならない...!」
バドックⅢが、ブルータルを蹴り飛ばした。
ブルータルは速度を上げて、一度バドックⅢから距離を取る。
『少し、本気を出そうか』
直後、バドックⅢが装備していたビームライフルが変形、それと同時に散弾を発射し始めた。
何が本気だ。
それはお前の力じゃ無い。
僕は叫びたくなったが、ここで何か言っても仕方がない。
聞こえているのは通信のみなのだから。
『くっ...機体コントロールが重い...』
『それは理由にはなり得ない、単に君が弱いんだよ、ミユキ』
ブルータルの被弾が増えていく。
盾を持っているのに、全く使わないのは何故だろう?
天井近くに逃げ込んだブルータルは、バドックⅢの射撃をかわしながら突き進む。
制限時間切れまで粘る気だろうか。
少なくとも、時間切れになれば引き分けに持ち込める。
『やはり、君は愚かだよ』
直後。
バドックⅢの全身が変形する。
ショルダーキャノン、両腕のガトリングパルスレーザー、胸部のメガビーム砲、両足の固定砲台...それらが一斉に、光を放った。
「危ない!」
『やる...!』
ブルータルは、まるで薙ぎ払うように放たれたビームの束を回避しようと機敏に動く。
だが、まるで人が操っていないようにビームの束は、ブルータルを的確に追い詰めていく。
『駄目! 駄目よ...!』
そして。
急にブルータルの動きが明らかに劣化した。
なんだ...?
動きの悪くなったブルータルは、発射直前のライフルを捨てて放り投げ、ビームの束を回避して、バドックⅢに組み付こうと飛びかかった。
『それは、優雅じゃないよ』
直後。
バドックⅢは、正拳突きをブルータルに叩き込んだ。
吹き飛んだブルータルは、格納庫付近まで行って壁に激突、停止した。
ダウンまでのカウントダウンが始まる。
「...くそ」
どうすればいい?
僕にはどうすることも...
『』
「...!?」
どこかから、響くような声が聞こえた。
その声が聞こえた時、僕は立ち上がって走り出していた。
格納庫の方へ向けて。
「うわっ、ぐ!」
階段で転んだ僕は、急いで立ち上がる。
カウントダウンは残り三十秒もない。
彼女が戦意を喪失すれば、負けてしまう。
それだったら...やるしかない。
もう決めたんだ。
行くところまで行く...と。
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