電撃姐御とカワウソ少年の最強探し

駿心

第1話 ヤンキー、異世界へ転生する!

アスファルトを切り裂く轟音が、夜のとばりが降りた東京の街を揺らした。


真夜中の高速道路。


風を切る音が、美杜みとの耳元で唸る。


その音だけが、存在をかろうじて主張しているようだった。


漆黒の特攻服が風をはためかせ、その背には刺繍された金色の文字が月光に鈍く光る。


『電光石火 美杜』


その名を冠するレディース総長、鈴木美杜すずき みと、17歳。


愛車の単車を駆り、夜の闇を疾走していた。


ヘッドライトが照らす先の道は、まるで彼女の人生そのもののように、どこまでも先が見えない。


どこへ向かっているのか。


何のために走っているのか。


そんな問いは、いつしか美杜の心から消え去っていた。


家に帰りたくない気持ちを抱え、気だるげに流れる日々に、美杜は常に微かな焦燥を覚えていた。


しかしそれよりも大きな虚無感が、彼女の心を支配している。


強さを追い求めてきた日々は、いつしか惰性となり、満たされない心だけが残った。


刺激を求めて抗争に明け暮れても、得られるのは一時の高揚感と、すぐに訪れる深い倦怠感だけ。


美杜はただ、目の前の道を、何も考えずに駆け抜けることしかできなかった。



「ちっ、まーた調子悪ぃな、このポンコツ」



不意にエンジンの唸りが不安定になり、美杜は舌打ちをしながら路肩に単車を寄せた。


錆びつき始めたマフラーから、ぼろぼろと異音が漏れ出す。


アスファルトに座り込み、慣れた手つきでエンジンの様子を伺うが、原因は分からない。


いつもこうだ。


黒いボディの相棒はもうここ最近ずっと、こんな風になっていて、どこか壊れかけのものを騙し騙し使って、やり過ごしてきた。


どこか歪みを抱えながらも、どうにかこうにか、今日まで生き延びてきた。


「私と一緒だな」


美杜はそんな言葉を漏らして笑った。


そんな、いつもと変わらない退屈な夜だった。


美杜は夜空を見上げ、深くため息をついた。


このまま、何もなく明日が来て、また同じような日々が続くのだろう。


そう諦めかけたその時だった。


しかし、その夜は、美杜の人生を根底から覆す、決定的な夜となる。



「……は?」



突如、視界を純白の光が埋め尽くした。


それは、東京のネオンとは比べ物にならないほどの、圧倒的な輝き。


美杜は思わず目を閉じ、腕で顔を覆う。


その光の中心から、全身が光り輝く女性が姿を現した。


神々しく、畏れ多い、しかし同時にどこか人間離れした存在。


美杜は、あまりの出来事に、恐怖よりも困惑が勝り、呆然と立ち尽くす。



「そ、そこのでけー姉ちゃん、いきなり光んじゃねーよ。目ぇ潰れるだろが!」



口の悪い癖が出て、思わず毒づいてしまう。


だが、その声は虚空に吸い込まれるように響き、誰もいない。


ハッと気付くと、周囲は明らかに東京ではなかった。


先ほどまで立っていたアスファルトの路肩も、バイクも、闇を照らす街灯も、何もかもがない。


あるのは、無限に広がる、真っ白な空間だけだ。


まるで、夢でも見ているかのような、現実離れした光景に、美杜の心臓が妙な音を立てる。



「なにココ!どこだ!?天国!?私、死んだ!?」



美杜の問いかけに、女神はそんな美杜の言葉などまるで意に介さない。


透き通るような、しかし感情の読めない声が、美杜の鼓膜を震わせた。



「我が名はイルミナス。この世界の調和を司る女神。私達の世界を脅かす魔王を打ち滅ぼすため、あなたの力を借りに参りました。」


「なんで私!?」


「異世界の方をこちらへ召還する際に特別の力を与える事ができるからです。」



淡々と告げられた言葉に、美杜の思考は完全に停止する。


異世界?魔王?力を借りる?


子供向けの絵本に出てくるような、絵空事のような話だ。


こんな馬鹿げた話、信じられるわけがない。



「は?何言ってんのか意味わかんねぇんだけど。だから何で私!?」


「あなたは選ばれたのです……この世界を救ってくれる最強の12人の戦士に」


「いやだからなんで私……」



美杜の疑問を遮るように、女神は淡々と告げる。


しかし、目の前の光景は、紛れもない現実を示していた。美杜は、頭が痺れるような感覚を覚える。


これまで生きてきた中で培ってきた常識の全てが、今、目の前で音を立てて崩れ去っていく。


美杜は話が通じない相手と察して頭を掻き、気だるげにため息をついた。


こんな意味不明な状況に、どう反応すればいいのか、皆目見当がつかない。



「私には、あなたが必要です。あなたに、この世界に蔓延る闇を打ち破る、光の導き手となってほしいのです」



女神が手をかざすと、美杜の全身に、ビリビリと痺れるような電撃が走った。


それは痛みではなく、むしろ体の細胞の隅々まで電気が駆け巡るような、不思議な感覚。


体の奥底から、これまで感じたことのない力が湧き上がるのを感じる。


そして気付けば、真っ白だった世界は消え失せ、目の前には、どこまでも続く海岸と、抜けるような青空が広がっていた。


後方には、鬱蒼うっそうとした森の入り口を思わせる木々が続いている。


潮の香りが、美杜の鼻腔をくすぐった。



「な、なんだこれ…!」



美杜の体から、青白い電光がほとばしる。


明らかに雷を纏っている。


電気が、美杜の意思とは関係なく、勝手に体を巡っている。


女神は微笑んだ。



「それは、あなたに与えられた新たな力です。あなたに3つの力を与えます。努力次第、工夫次第でそれ以上の力が使える可能性もあります」


「力!?」


「ひとつは千里眼……遠い場所でも障害物があっても、何がどこにあるか見通せる力です。慣れない異世界でもすぐに慣れることでしょう。」


「え……すげぇ」


「次にサイコメトリー……触れると力を発動して生き物の思考が読めます」


「すごいを通り越して逆にいらない。なんか怖いんだけど」


「そして最後に電撃攻撃。あなたが本気を出せばあらゆるものを打ち砕くことでしょう」


「なにそれ格好良い、それは嬉しい」



女神の言葉を聞きながら、美杜は自分の体に起きている変化を実感した。


手のひらから、青白い稲妻がほとばしる。


目の前に広がる景色が、まるで水中を覗き込むかのようにクリアに見える。


普段の視界とは比べ物にならないほど鮮明だ。


サイコメトリーを試しに使うことは少し怖かったため、控えた。


人の心を読むなんて、どんな情報が流れ込んでくるか、想像もつかなかった。



「…へぇ。すげーじゃん」



柄にもなく感嘆の声が漏れた。


こんなにも常識外れの事態なのに、新しい力への好奇心が、美杜の心を少しだけ浮上させる。



「そしてあなたの雷の力を最大限に活かす為に、水中でも行動出来るようにしてあげました」


「え、水中でも息出来るってこと?最強じゃん」


「そうです……水中で電撃が使えるとなれば、あなたは無敵でしょう」


「そうなん……だ……あれ?」



美杜は急に体に力が入らず、膝を着いて息切れした。


さっきまで感じていた力が、急速に失われていくような感覚。


頭がくらりとする。



「あぁ……メインの呼吸器はエラ呼吸ですからね。」


「は!?」


「口呼吸器官も残っていますし、魔力で生命維持をしていますが、あまり長く地上に立っていると魔力がすぐに尽きてしまいます。さぁ、はやく海の中へ入りなさい」


「ちょっと待てちょっと待て!?何、人の体改造してくれちゃってんの?」



女神は最後に、とんでもない爆弾を落としてきた。


美杜の思考は再び停止し、やがて猛烈な怒りが込み上げてくる。


何が最強だ。


何が光の導き手だ。



「水に一回入らないと魔力は回復できません。しかし水の中さえいれば、生命あふれる水の中のマナにより常に魔力が満たされるので、無限に魔法が使えます」


「でもエラ呼吸でもう地上に上がれないんだろ!?何やってくれてんだ!」


「もちろんあなたは人間なので、地上で口呼吸も出来て、ある程度の活動は可能です。しかし地上ではすぐに疲弊し、雷攻撃も水中ほどの威力はございません。」


「それ全くもって最強じゃなくない!?もういっそずっと水中にいる!そうすりゃ安心だろ?」


「そしてあなたのエラ呼吸器官では充分な酸素は確保できないので、時々地上に出て酸素は取り込んでくださいね」


「はあああぁぁぁあ!?もうただのウィークポイントじゃねぇか!何してくれてんだああぁぁあ!」



美杜は、これまでの人生で出したことのないような大声で叫んだ。



「そんな不便極まりない体で、魔王退治だと?冗談じゃない!」


「では、頼みますよ。あなたならきっと天空魔城にいる魔王を討ち滅ぼしてくれるでしょう」


「おいこら待て!」



女神は穏やかな笑顔で、光の中に消えていく。


残されたのは、煌めく水面の波。


そして、異世界の海岸に一人取り残された、怒り心頭の美杜だった。


彼女の新しい異世界での“ほのぼの”生活が、こうして幕を開けたのだった。

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