パーティから追放された最弱女子高生、ユニークスキル『睡眠学習』で寝てる間に最強になる

草鳥

1.追放

 とある遺跡型のE級ダンジョン。

 等間隔に立ち並ぶ燭台に照らされた薄暗い通路で、私は仲間に詰め寄られていた。


「レム。あんた、もうパーティ抜けてくんない?」


 目の前で私を冷たく見下ろすのはグループのリーダー的存在、ミキ。

 パーティの前衛で、彼女の背負う大剣は幾度もあたしたちの道を切り開いてきた。

 巻いた金髪と濃いめの化粧が今日も決まっている。

 だけどその瞳に宿るのは冷え切った侮蔑と嘲弄だった。


「そ、そんな急に……抜けろとか言われても」


「急に? 私らはずっと我慢してたんだっつの。ねえ。ハスミ、サヨ」


 ミキはそう言って振り返る。

 壁に寄りかかって自分のネイルを眺めている、ダウナー気味のギャルはハスミ。魔法スキルが得意。

 そしておどおどと視線を彷徨わせている気弱そうな子がサヨで、回復担当ヒーラーだ。


 みんな私と同じ高校に通っている中学からの親友。

 そのはずだった。


 話を振られたハスミはだるそうに視線を上げて私を見る。

 やはりその視線に温度はひとかけらも感じられない。


「あんさ、レムのユニークスキル……『睡眠学習』だっけ? 何か役に立ったことあった?」


「いや、それは……毎晩寝る前に探索者向けの解説動画流しっぱなしにして、知識はたくさん頭に入れたけど……」


「で? 戦闘には?」


「う……」


 反論できない。

 言った通り、ダンジョン探索に関する知識は豊富だ。そこに関しては自信がある。

 だけど知識だけじゃ戦っていくことはできない。

 例えばFPSゲームにおけるコツや立ち回りを熟知していたところで、相手に弾を当てられなければ意味がないように。


 そのうえ、あたしたちはずっと一緒に戦ってきたはずなのに、あたしだけ異様に成長スピードが遅いのだ。新しいスキルもろくに習得できないし……。


 おそらくこれは『睡眠学習』とやらのせいなんだろう。

 ステータスから確認した説明文にはこうある。

『睡眠時に見聞き・体験したことが身に付きやすい。その代わり、起きている間の成長率が著しく低い』……だそう。


 ダンジョン探索者それぞれが持つユニークスキル。

 あたしのそれは、どうやら『大ハズレ』だったらしい。

 

 悔しい。でも迷惑をかけているのは確かだ。

 何も言い返せず俯いていると、腹部に強烈な衝撃が走り、壁に叩きつけられた。


 ずるずると座り込みながら、ミキに思い切り蹴り飛ばされたことだけを理解した。


「げほ、げほっ! な、なにを……」


「こんな足手まとい抱えるの、もう限界。あんたのオネーチャンがS級探索者だからコネ作れるかなと思って仲良くしてやってたのにさぁ、ガッカリだわ」


「……え……」

  

 驚いて顔を上げると、前髪を掴み上げられる。

 痛みの中、目の前には嘲笑を浮かべたミキの顔が寄せられていた。

 

「こんなに役立たずで恥ずかしくないの? 姉の顔に泥を塗るだけの出来損ない。ほんと、死んだ方が良いよ」

 

 髪を離される。

 直後、拳があたしの顔面を襲う。

 鈍い痛みと共に、また床に転がされた。

 

 痛い。やめてよ。

 そんな文句よりも、ミキの言葉が頭の中を渦巻いていた。

 

 お姉ちゃん。

 あたしと違って、この国でもトップクラスに優秀な探索者。

 ああ、納得だ。あたしみたいなやつと仲良くする理由なんてそれくらいしかないか。

 ほんっと情けない。


 悔しさに唇をかみ締めていると、ミキが横を指さした。


「でも、私らは優しいからチャンスをあげる」


「……チャンス……?」


「そこの部屋見てよ」


 指の先には、通路の脇にぽっかりと空いた部屋の入口。

 よろよろと立ち上がって覗き込むと、だいたい学校の教室くらいの広さで、中はがらんとしている。


「中央に宝箱があるっしょ。あの中身を取ってきたらパーティに残ってもいいよ?」


「…………」

 

 何もない部屋の中央に、これ見よがしに宝箱がひとつだけ。

 誰がどう見たって罠だ。入れば――もしくは宝箱を開ければ罠が作動し、出られなくなる。

 その後はおそらく侵入者を殺すための、何かしらのギミックが襲い掛かってくるんだろう。

 天井が降りてきて潰されるとか、毒ガスが撒かれるとか。


 ああ、この子たちは本気であたしを殺すつもりなんだなということをやっと理解した。

 抵抗したって無駄だ。ミキの方が私の何倍も強い。


 そしてあたしがここで死んでもこの子たちは罪に問われない。

 『モンスターに殺された』『罠にかかって死んだ』――涙の一粒でも流して探索者協会にそう報告すれば誰も疑わない。そう珍しい話でもないからだ。


 ……正直、逃げる気力も無い。

 一番の親友たちはあたしのことを嫌っていた。身体も心も手酷く痛めつけられて、ショックで頭が働かない。

 そうやってあたしが黙り込んでいると、今まで口をつぐんでいたサヨちゃんが声を上げた。


「ねえ、やめようよ……レムちゃんのおかげで助かったこと、たくさんあったはずだよ……」


 震えていた。

 だけど小さな手をぎゅっと握って、勇気を振り絞っているのだとわかった。


「初見のモンスターだってレムちゃんが勉強してたおかげで楽に戦えたし、前にトラップルームに閉じ込められたときだって、レムちゃんがギミックを知っていたから脱出できたのに……」


「あ? サヨ、あたしに逆らう気?」


 だけど、ミキが凄むだけでその勇気はしぼんでしまう。

 ひっ、と細い声を上げて縮こまってしまった。

 ハスミは手間がかかっていそうな巻き毛を指でくるくると弄り、追い打ちをかける。


「サヨもこいつと一緒に追い出してやってもいいんだけどー? あんたのユニークスキル……なんだっけ、回復魔法だった? うちも最近それ使えるようになったんだよね。知ってるっしょ? もうサヨが居なくてもパーティ成り立つんだわぁ」


「そうそう。私とハスミだけで充分なの。回復だけしかできないあんたも戦闘じゃ大して役に立たないしね」


 耳を疑う発言に、思わず唇を噛みしめた。

 それは聞き捨てならない。


「ちょっと待ってよ。あたしはなに言われても良いけど、サヨちゃんまでそんなふうに言わなくても良いじゃん」


 そう反論すると、ミキは心の底から苛立ったように私の方を向く。


「……うっざ。ごちゃごちゃ言ってないでお前はさっさと行け、よッ!」


「うあっ!」

 

 また蹴り飛ばされた。

 ごろごろと転がって、宝箱部屋の中に。

 ドアの無い入り口の外から、ミキとハスミがニヤニヤとあたしを見下ろしている。


「レムちゃん……!」


 悲鳴じみた声を上げるサヨちゃんに、ミキはニヤついたまま振り向いて問う。


「で、どうする? サヨも一緒に『お宝』取ってくる?」


「…………っ」


「サヨちゃん、いいよ。あたし一人で大丈夫」


 もうあたしはパーティには戻れないだろう。これまで信じていた友情というものが壊れてしまったことはとても悲しいが、戻る気も失せた。

 だけどサヨちゃんまでもが同じ目に遭うのは嫌だ。


 宝箱を見る。

 どうせろくなことは起きないから開けたくはない。

 でもモタモタしていたら今度はサヨちゃんまで部屋に入れられかねない。

 

 諦めて開けないと、ミキたちは納得しない。


「……開けるよ」


 立ち上がり、誰にでもなく宣言して蓋を開ける。

 空っぽだ。それを確認した瞬間、宝箱は光の粒となって消え、部屋の入り口に鉄格子が降りる。やっぱり閉じこめられた。

 私を呼ぶサヨちゃんの声が聞こえたが、応える余裕は無かった。


 何故なら、目の前の床に大きな魔法陣が出現していたからだ。

 慌てて距離を取ると、魔法陣はその輝きを増し、そこから巨大なモンスターがせり出すようにして姿を現した。


 それはレンガのような石材が集まって形成されたゴーレム。

 身長だけで私の三倍以上はある。

 じっと見据えると、視界に名前が表示された。『レギオンゴーレム』だ。

 本来はB級ダンジョンに生息する、強力なモンスター。

 

 このダンジョンのランクがE級であることを考えると、部屋に閉じ込めて絶対に勝てないような強敵と強制的に戦わせる――そんなトラップルームなんだろう。

 震える手で腰に差した短剣を抜く。頬を冷や汗が流れ落ちた。


 たぶん、あたしは今日死んじゃう。


「じゃーねー! 明日あんたの机に花くらいは置いてやるからさぁ!」


 ギャハハハ、と嫌な笑い声、そして遠ざかっていく足音がダンジョンに響いた。

 ああ、これはもう、あれだ。

 悪夢みたいだ。

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