後天性分裂双子【スキャニーズ】

てぃぐま

第1話 禁域の丘と二つの頭

 風が湿り気を帯び、太陽がゆったりと山の稜線にかかる。

「あーあ、もうお隠れ時かよ。早すぎねぇ? まだ十分明るいのにさ」

 そばかすの散った顔で、ポルトが不満げに赤い太陽を睨んだ。

「お兄ちゃんが寝坊するからでしょ。もう」

 ティピは頬を擽る後れ毛を撫でつけながら、ポルトの背中をススキの穂で叩く。

 険しい山にぐるりと囲まれたケルノト村では、これが子どもにとってお開きの合図だ。じわじわと暮れゆく空は、直に夜色へと変わる。しかし、ポルトはどうにも遊び足りないようだ。

「なあ、まだいいだろ? もうちょっと先まで行ってみようぜ」

 ポルトは悪戯っぽく笑うと、ティピの手からススキを引っ手繰って駆け出した。

「あ、それあたしの! ……もう、しょうがないなー」

 口ではそういいながらも、ティピはいつものように結わえた黒髪を揺らしてポルトの背を追う。そして、そんな兄妹のもとへ遅れてやってきた少年が二人。

「おーい、しょうがないのはティピもだぞ。声が笑ってる」

 のんびりとした声でティピに続くのは、のっぽで猫背なドナーク。

「え、待ってよ。そっちは駄目だって言われてるよね? ねぇってば!」

 そして、声だけで呼び止めようとその場にとどまるのが一番年下のラズ。彼は髪と同じく淡い色の眉をハの字にし、薄っすらと朱のさした空と彼らの背中を見比べ、三人を追って駆け出した。

「ねぇってば! 帰ろうよ、怒られちゃうよ!」

 それはいつもの四人。いつもの一時だった。


 大人の忠告を無視した行動。それは、彼らにとってはほんの度胸試しだった。禁域の丘と呼ばれるそこには、夕闇を背にそよぐ一面の綿帽子と、見たことのない模様の羽を翻す蝶が群れていた。

「わー、きれい! すごいじゃないお兄ちゃん! いい場所見つけちゃったね!」

「だろー? やっぱ冒険しねぇと!」

 両手を広げて蝶を追うティピと、自慢げに胸を反らして綿帽子を見上げるポルト。そして、それをわき目に大の字になって悠々と寝っ転がるドナーク。

「すごい景色だな。こんな色の綿帽子も蝶も、初めて見た」

「でも、ここ禁域なんだよ? 大丈夫なの?」

 あたりを忙しなく見まわしつつ、ラズはドナークのそばでちんまりとしゃがむ。ドナークは横目でラズを見やり、「ラズはしっかりしてるな」と頭を撫でる。

「ポルトには、よく怖がりって言われるけど。ティピには、女の子みたいって」

 ラズはちょっと眉を寄せ、しかし不服とは違う顔で小さく返した。

「怖いだけなら一人で帰るだろ? ラズはちゃんとみんなを心配して、いつだって怖いのに一緒に帰ろうとしてくれる。ラズは素直で、優しいな」

「……ドナークは、何を言っても褒める」

 ラズは視線を落とし、意味もなく足元の草を毟り始めた。

「ラズは何を言っても照れる」

「……今、沈黙中なだけだし」

 ティピとポルトは兄妹で、下にも一人よちよち歩きの弟がいる。しかし、ドナークとラズはどちらも一人っ子だ。ラズにとって、ドナークは友だちというより兄に近い存在で、いつだってラズの怖がりの裏に引っ込んだものを見つけ、言葉にしてくれる。

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