第5話 謝罪と信頼への第一歩

 朝日が差し込むフェルナ村の空き家で、悠真は寝ぼけ眼をこすりながら起き上がった。体のあちこちが重い。昨日のバリケード騒動……いや、今朝の盗賊撃退戦の余韻が、まだ全身に残っている気がする。


(……ああ、やっちゃったな。村長宅の壁、見事にぶち抜いたし。鶏小屋の騒ぎも……。あれ、夢じゃなかったよな?)


 外に出ると、村人たちがバリケードの片付けや、散らばった薪や石材の回収、壊れた屋根や鶏小屋の修理に追われていた。悠真も慌てて手伝いに加わる。


「おい新入り、そっちの石、まとめてくれ!」「鶏がまた逃げてるぞ!」


「す、すみません! 今行きます!」


 村人たちの視線はまだ厳しいが、どこか昨日より柔らかい。子供たちは「さっきの魔法、すごかった!」と目を輝かせている。


 バリケードの残骸を片付け、鶏を追いかけ、屋根の修理を手伝い……気づけば朝日がすっかり昇っていた。


 ようやく一息ついたところで、クラリスがやってきて声をかける。


「悠真、村長さんが呼んでるわよ」


「う、うん……今行く!」


 寝癖を直しつつ、慌てて外に出ると、村人たちの視線が一斉に突き刺さる。昨日の失態が村中に知れ渡っているのは明らかだった。


「おい、あの新入り……」「昨日のバリケード、すごかったな……」「村長の家、まだ煙出てるぞ」


 噂話と冷ややかな視線に、悠真は思わず肩をすくめる。


 村長宅の前に到着すると、クラリスが小声で囁いた。


「大丈夫、ちゃんと謝れば、きっと分かってもらえるわ」


「……うん、やるしかないよな」


 意を決して扉を叩くと、中から渋い声が返ってきた。


「入れ」


 中に入ると、村長が腕組みで待ち構えていた。壁にはまだ大きな穴が空いており、修理途中の板が無残に立てかけられている。


「……昨日の件、どう説明してくれる?」


 悠真は即座に土下座した。


「本当にすみませんでした! 村を守ろうとしたんですが、コントロールをミスして……。修理も、何でも手伝います!」


 村長はしばらく黙っていたが、やがてため息をついた。


「まあ、あんたの力がなければ、村の防衛は間に合わなかったのも事実だ。だが、やりすぎは困る。今後は慎重にな」


「はい、肝に銘じます!」


 クラリスがそっとフォローに入る。


「悠真は悪気があったわけじゃありません。応用スキルも、村のために役立てたいって……」


「ふむ……。なら、まずは壊した家の修理からだな。あと、村の復興作業も手伝ってもらうぞ」


「もちろんです!」


 こうして悠真の「村お手伝い生活」が始まった。


 まずは村長宅の修理。スキルアレンジで木材を切り出し、釘の代わりに魔法で固定する。だが、うっかり力加減を間違えて板が空高く舞い上がり、隣家の屋根に突き刺さる。


「ぎゃあああっ!? 今度はうちかよ!」


「す、すみません! すぐ直します!」


 村人たちの冷ややかな視線と、クラリスのため息が交互に降り注ぐ。


 それでも、悠真はめげない。修理の合間に、屋根の上から落ちて泥だらけになったり、釘の代わりに魔法で板をくっつけたら扉が開かなくなったりと、ドジを連発。


「悠真、今度はちゃんと寸法測ってからやって!`

「う、うん……!」


 次は畑の手伝い。鍬を持って畑を耕そうとするが、力加減を間違えて鍬の柄が折れる。仕方なく《スキルアレンジ》で鍬を強化しようとしたら、今度は重すぎて持ち上がらない。


「新入り、道具は普通でいいんだぞ……」


 水くみも担当するが、井戸のバケツを落としてしまい、慌てて《スキルアレンジ》で「自動水くみ装置」を作る。最初は水が噴水のように吹き出して村人をびしょ濡れにしたが、何度も調整してようやく実用レベルに。


「おお、これなら楽だ!」「新入り、やるじゃないか!」


 家畜小屋の修理では、板を張り替えようとしてヤギに服を食べられたり、鶏小屋の扉を直したら鶏が全員脱走したりと、トラブル続出。


「悠真、鶏が! 早く捕まえて!」

「うわっ、待って、そっちは畑……あああ!」


 ようやく仕事が一段落し、村の広場で腰を下ろすと、子供たちがわらわらと集まってきた。


「ねえねえ、新入りのお兄ちゃん、魔法ってすごいんだね!`

「さっきのバリケード、かっこよかった!」「でも村長の家はかわいそう……」


 悠真は苦笑しつつ、子供たちの輪に加わる。


「お兄ちゃん、何か面白いことできないの?」「魔法で遊べるもの作って!」


「うーん、何がいいかな?」


「動くおもちゃ!」「速いやつ!」「空飛ぶの!」「水に浮かぶの!」


 子供たちのリクエストは止まらない。悠真は「じゃあ、みんなで考えよう」と提案し、枝や石を集めて即席の工作タイムが始まった。


「カタツムリみたいに、のろのろ動くやつがいい!」「やだ、速いのがいい!」「じゃあ、速いカタツムリ!」


「それ、カタツムリ号って名前にしよう!」


 悠真は《スキルアレンジ》で枝と石を組み合わせ、魔法で動く「自走カタツムリ号」を作り上げる。


「いくよ、スタート!」


 カタツムリ号は最初はのろのろ進むが、途中で魔力が暴走し、急加速して畑に突っ込む。


「うわー!」「速すぎ!」「すげー!」「畑がー!」


 子供たちは大笑いしながら、カタツムリ号を追いかけて走り回る。


「もう一回やって!」「今度は二台で競争しよう!」


 悠真も一緒になって、子供たちとカタツムリ号レースを繰り広げる。転んだり泥だらけになったりしながら、村の広場は笑い声でいっぱいになった。


 夕方、作業を終えた悠真は、クラリスと並んで村の広場に腰を下ろした。


「……なんとか、みんなに受け入れてもらえそうかな」


「最初はドジばかりだったけど、ちゃんと努力してるのは伝わってるわ。私も、ちょっと見直したかも」


「え、今の録音しておきたい……」


「ふふ、調子に乗らないの」


 夕焼けに染まる村を眺めながら、悠真は小さくガッツポーズを作った。


(よし、明日も頑張ろう!)


 こうして、ドジっ子転生者の「信頼への第一歩」は、少しずつ、でも確実に踏み出されていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る