第5話 うっかりやってしまった
11時から、予定通り交流会が始まる。
フリートークみたいな感じでとにかくクラスメイトとの仲を深める時間らしい。
俺はというと特に友達を作るつもりもない。んだけど周りは同じ気持ちではないらしい。
「ようっ!」
目の前の席の男がわざわざ振り返って話しかけてくる。
赤い髪がトレードマークのやつだった。
「初めて見た瞬間から気になってたんだよ、少し話そうぜ?俺はアッシュってんだ」
「なにについて話すんだよ」
「君の好きなタイプとか」
「ふっ、優しい子かな」
「おー、いいねー!俺ってばこう見えて優しいからよ」
「なら、具体的な優しいエピソードでも聞かせてくれよ」
「もちろん、いいぜ。小さなころさ、隣に住んでた奴が犬がいなくなったーって言うもんでさ」
「探すのを手伝ったのか?それは優しいな」
「いや、違う。俺が犬の真似して3日くらい代わりに『ワンワン』鳴いてた」
(んん?)
「俺が鳴くことによって、そいつは寂しくなくなるだろ?だから鳴いてた。そしたらさ、3日くらいしたら犬が帰ってきたんだよ」
「よかったじゃん(探すだけじゃだめだったのか?)」
「いやー、あの時はマジで嬉しかったわ。犬もちゃんと帰ってきたしな、うんうん」
アッシュとかいうやつは口を開く。
「で?どうだった?俺優しいだろ?とりあえず友達から始めようぜ?」
「友達から始めようぜって、それ以上先はないだろ」
「あちゃぁ、振られちったか〜」
「お前なにか勘違いしてない?」
「なにを?」
「俺、男だぞ」
しばらくの沈黙。
それを破ったのは隣にいたユフィだった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!」
ユフィは椅子を蹴飛ばすようにして勢いよく立ち上がると俺に話しかけてくる。
「男子だったんですか?」
「見て分からん?」
「女子かと思って話しかけてました」
「俺も俺も」
どうやらアッシュは俺の思った通り女だと思ってたらしいけど。
ユフィにもそう思われていたのか。
まぁ中性的な顔ではあるけど、言葉遣いとかで分かりそうなもんだけど。
(そうか。分かんないかー)
だけど、俺としてはこれ以上どうにも出来ないよなー。
「ふぅ、まぁいいや。んじゃゆりかごから墓場まで友達でいようぜ」
アッシュが手を差し出してきた。
(ま、知り合いくらいはいても不都合はないか)
俺はその手をとる事にした。
しばらくあと、チャイムが鳴った。
お昼の休憩を告げるもの。
「飯いかねぇか?飯」
「わ、私もいいですか?」
「おう、こいよ。人数多い方が楽しいよなー」
と、2人は俺と飯を食いに行くつもりらしい。
俺としてはミーナと食おうと思っていたのだが……。
まぁ、今のところミーナとは約束もしてないし、いいか。
それに、一緒には食わない方がいいか。俺たち回復科は迫害されてるしな。「やだ、あの子回復科と一緒にいる」とか言われたらかわいそうだしな。
「食堂、行くか」
学園にはいくつか食堂があるが、俺たちが使えるのは初等生専用第二食堂と呼ばれる場所。(食堂が何個も分かれている理由だが、所属学科なんかで提供されるメニューが違ったりするからだそうだ)
中に入ると、白く広々とした空間に、長テーブルと魔導照明がずらり。
キッチンやホールではゴーレムが動いており、生徒が魔導端末マギレットで選んだ料理を自動で作っている。
「思ったより、ちゃんとしてんな」
「グラタンとか唐揚げとか、結構ガッツリしてますね!」
アッシュとユフィがそれぞれ端末を操作している間に、俺もマギレットのメニュー画面をタップしてみる。
(さて、何があるかな……ふむふむ、次、次)
……ん?
極光のビスク、深紅のフルーツプレート、月花の養生粥。なんか、字面からして美味そうだな
とりあえず気になったやつ全部注文するか、俺ダイヤの学生で全部無料だしな。ダイヤランク最高。
ピロン、と音がして、注文が通ったことをお知らせしてくれる。
楽しみだなー、と待つこと数分。
2人の料理はすぐに運ばれてきていた。
俺のはまだ時間がかかるみたいだ。
「実際食ってみると冷凍のをチンしたような感じだな、これ」
「うぅ、私のもそうですね。回復科の扱いってこんなもんなんですね」
2人の感想はそんなもんらしく、急に不安になってきた。
そのときだった。
「うひゃぁ、他の食堂が混んでるからこっちに来てみたけど噂通りくっせぇなぁ」
「魔草の匂いだろ。回復科の連中は体内魔力が少ねぇからなぁ。強化するためにも魔草の料理を使ってやらなきゃなんねぇし」
そんな会話が聞こえてくる。
目を向けるとそいつらは別の学科の生徒たち。
俺たちの横に座ってきた。
そしてこれ見よがしにアッシュの飯を見ると。
「貧相な飯だな。俺たちのとは比べ物にならねー」
「俺なら耐えらんねぇ。豚の餌かよ」
「んだとごら……」
キレかけたアッシュ。
俺は無言でそいつらの飯を皿ごと顔面に押し付けてやった。
「ははっ飯食う時くらい黙って食えねぇか?あんまりにもうるさいんで口にチャックしてやったけど」
──しん、と空気が凍った。
押し付けられた皿をゆっくり外しながら、そいつは震え声で言う。
「お、おい……てめぇ、どこの学科だ?」
「見て分からんか?回復科」
「回復科……!?」
鼻で笑った奴らの顔が、一瞬だけ引き攣る。
しかし、すぐに見下したような笑みが戻った。
「へっ、そうかよ。回復科のクソ雑魚が調子に乗りやがって──」
ちっちっちっと指を振った。
「お前らアウェイ、言ってる意味分かる?」
「はぁ?」
そいつら2人は周囲に目を向けた。
ここいらは回復科の奴らばっかだ。
そいつらの視線はこの2人を見てる。
「早いとこ撤退した方がいいんじゃない?負け犬みたいに尻尾巻いてさ。みじめだねー」
「おい、行くぞ」
「ま、待てよ。ちっ。覚えとけよ!」
2人は逃げるようにして食堂を出ていった。
そんな一悶着があった頃、やっと俺の飯が届いた。
まるで宝石のようだ。
配膳ゴーレムが運んできた銀のトレイの上には──
極光のビスク、深紅のフルーツプレート、月花の養生粥。
そのどれもが、見た目からして明らかに別格だった。
「うっわ……なにこれ……?」
アッシュとユフィが揃ってのぞき込んでくる。
そりゃそうだ。俺もちょっと、びびってる。
まず、極光のビスク。
淡い黄金色のスープの表面が、うっすらと七色に輝いている。
魔力を含んだ希少食材「煌海エビ」の旨味を濃縮したとかで、一口すくっただけで、ふわっと濃厚な香りが鼻腔を突いた。
(……やば、これ本当に学生用のメニューか?)
続いて深紅のフルーツプレート。
ルビーのように輝く果実がいくつも盛られていて、見た目がもう宝石箱。
口に入れた瞬間、ジューシーな甘酸っぱさが舌の上で弾け、口いっぱいに清涼感が広がる。まるで高級菓子みたいだ。
そして最後、月花の養生粥。
月明かりのような白銀の粥の上に、ほんのり光を放つ花びらが添えられている。
見た目は淡いけど、味は優しく沁みるような深みがある。不思議と体の内側から温まってくるような……。
(そういえば、ランク事に限定のメニューがあるって聞いた記憶があるけど、まさか。これがそうか?うっかり注文しちゃった)
この3つは二人の冷凍メシとはまるで別物に感じる。
質感も香りも。
「すげぇ、なんか、そっちだけ高級じゃね?」
「えぇ?こんなメニューあるんですか?見たらよかったです」
「あ、あはは。なんなんだろうね」
と、ぼかしておく。
まさかダイヤランクだからとは、言わないでおこう。
そんなこと言ったら目立っちゃいそうだし。
俺は目立ちたくないもん。
(次からはちゃんと考えて食事を選ばないとな)
目立って原作ストーリーに関わるとか死んでもごめんなのだ。俺はモブらしく生きたいのです。
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