第25話 愚かさの代償・バルバラ視点

【バルバラ視点】


「なんてことをしてくれたのですか! あなたは私の顔に泥を塗るつもりなのですか?」

 後日、私はお姉様に王宮に呼び出され、凄い剣幕で怒鳴られた。


「そんなに怒ることないじゃない? だって、自分の子と数日過ごしたかっただけなのよ?」

「キーリー公爵家に面会の申し込みもせず、勝手に連れ去ったのでしょう? それを世間では『誘拐』というのですわ」

 お姉様は私の言い訳をピシャリと遮って、誘拐だと決めつける。そんなつもりじゃなかったのに。


「違うわ。ただ、たまたま湖で見かけたから……つい一緒に過ごしたくなって……ほんの出来心なのよ」

「出来心で魔導高速馬車を使ったと言うのですか? レニエ伯爵家からキーリー公爵領までわざわざ出向いて? あなたの行動は、社交界だけでなく庶民の噂話にまでなっていますわ。あなたの名前は、いまや街角の茶店ですら笑い者になっていますし、恐ろしい女ということにもなっているのですよ。離婚したのに、なおキーリー公爵家を監視して、子供の後をつけ回していたなんて……なんと、情けない」


「だって、それは……アベラールは私の子なのに、他人のジャネットなんかに懐くから……悔しくて。それに、アンドレアスがあの女を大事そうにしていたから。私には冷たかったくせに……私は離婚なんてしたくなかったのよ」

「バルバラ、あなたの日頃の行いが原因だったでしょう? 離婚されたのも自業自得ですわ。アベラールを地下の貯蔵庫に閉じ込めていたそうね。小さな子供が暗い場所で震えていた——その話は、またたく間に王都全域へと広がったわ。これだけの醜聞が広まった以上、もはやあなたに貴族としての居場所は残されていないのよ」


「え……お姉様、それってどういう……?」

「どうもこうもないわ。修道院へ行きなさい。静かに慎ましくそこで生きていくのが、バルバラ、あなたに残された唯一の道よ。もう私もレニエ伯爵家も、あなたをかばうことはできないわ」

「嫌よ! そんなの、納得できないわ! ジャネットのことを罰して! あの女、私の頬を叩いたのよ?」


 バチン、と派手な音が響いた。私の頬が、熱く、じんと痛む。王妃のお姉様が私を叩いた音だった。


「お姉様……ひどい。ずっと私には優しかったのに。大好きだったのに……」

「そうね。あなたは歳の離れた、私のたったひとりの妹だったから……私は誰よりもあなたを甘やかしてしまった。それが、あなた自身を壊してしまったのね。今さらだけれど、それでも最後くらいは姉として、あなたを正しく導く責任があると思ったの」


 お姉様の目は、冷たくも、どこか涙をたたえていた。


「修道院の院長にはよく頼んでおくわ。あなたが静かに過ごせるように。……バルバラ。あなたはやりすぎた。そして、相手を侮りすぎたのよ」


 やり過ぎた? 侮りすぎた……? 

 意味が、よくわからない。


 でも、もう誰も私の言い分を聞こうとはしなかった。

 今、私は修道院へ向かう馬車の中にいる……


 どうして、誰もわかってくれないの?


 それからの私は終生、その修道院から出ることはできなかった。

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