第2話 ◇ミーティア1(銀髪元王女の処女を……)

 薄暗い洞窟をカンテラが照らす。


「三百年……か」


「はい」


 まるで昨日のことのように思い出す。戦争、謀略、裏切り、果たせなかった約束。


 そして回想は一つの結論へと集約された。


「三百……ということは、俺はもう三百年もシテいないということになるな」


「シテ……ですか?」


「ミーティア、貴様は敗残王と呼ばれた王がなぜこの洞窟に封印されるに至ったか知っているか」


「ええーっと……確か、大きな戦争があって、その時エレンディア王国を率いていたのがジャン国王だったんですよね」


「うむ」


 ミーティアは記憶をたどるように右手を顎に当てた。


「そう、歴史書にはこうありました。我がブレイブハートの系譜の中に非常に好色な王あり。その者宮中の女に見境なく手を出したばかりか、隣国の王女、女王をことごとく抱き候。その所業を問題と見た弟君、後の賢王ソロスがかの敗残王を成敗せし」


「よしよし、ちゃんと勉強しているな」


「あ、どうも」


「俺を陥れたあの愚弟ソロスが賢王と呼ばれているのが気に食わんが、概ねあらすじはあっている。その敗残王こそがこの俺、ジャン・ジャック・ブレイブハートよ」


 ミーティアは美しい顔を引き攣らせたまま一方後ろに下がった。

 ガシりとその細い腕を掴む。


「ところでミーティア、性体合一の儀は知っているか?」


「せいた……い、いえ、寡聞にして存じ上げませんでした」


「つまりだ。俺は今、貴様の血で肉体を取り戻すことが出来た。だが、この体はまだまだ脆く、全盛期の十分の一の力も出せない」


「あ、あの強さで十分の一ですか」


「それ以下だ。そして、そこの魔法陣を俺に教えた女はこういった。皇女や王女と言った高貴な血筋、巫女、聖女、人々から畏敬と尊敬の念を集めるカリスマを持つ女と性体合一を行いなさい。そうすればまた、力を取り戻すことが出来る、と」


「な、なるほど。それでその性体合一というのは……」


 ミーティアはもう一歩下がろうとしたが、まだ俺は彼女の細い腕を掴んでいるためできないでいた。


「男と女のまぐわい……つまり、セックスだ。今それをするなら、今後貴様とともに旅をし、力になろう」


「や、あのっ、そんな、えーっと」


「メリットは大きいぞ。まず何よりも俺は強い。今の状態でも並の兵士なら十人二十人は物の数に入らん。並じゃない兵士や魔物相手でもまず負けない。そんな人間が、雇用費もかからず手に入る。今、さぞかし人材に苦慮しているのではないかな……?」 


 彼女がすぐに逃げないと見て手を離した。


 足元には魔法陣の他に死体が三つ転がり、血なまぐさい。


「とは言えここではな」


「そ、そうですね、旅籠にでも行ってよく話し合って決めましょう」


「三百年前の記憶だが、隣に確か比較的広くてきれいな場所があった覚えがあった。せっかくだ、着いてこい」


 経験上こういう処女は考える時間を与えると、いざ迫ったときに渋り出す傾向にある。彼女に背を向けて歩き出す。

 大股で歩くとミーティアが足元の血溜まりを踏まないように注意しながら小走りで追ってきた。


「あ、あの、だってジャン様はご先祖様なわけで」


「王室典範によれば四親等離れているいとこ同士の結婚は何の問題もない。そして俺と貴様はどうだ。まず俺は子をなしていないから直系の親族ではない。加えて軽く百親等近くは離れている」


「それは、そう……ですが。もっとこうムードとか」


「仕方ないな」


 鎧のポケットに手を入れるとスクロールを取り出した。


「そは召喚す、揃えられたものを」


 途端に天蓋付きの巨大なベッドが現れた。アイテムを自在に召喚できるスクロールは非常に高価だが、三百何年か前の俺は迷わず使い道をこれに決めた。今も特に後悔はしていない。

 ミーティアに向き直り、片膝を着いて手首から先のない左手を胸に当て右手を差し出す。


「さあ姫……お時間です」


「でもその、あれ? えーっと、えーっと……よ、よろしくお願い……します」


 彼女の細く美しい指が俺の手を取った。


 立ち上がる一動作でミーティアを抱えあげてベッドに倒す。


「わぁ」


 体がうずもれるようなフカフカの寝台に第三王女は思わず声を上げた。


「こういったベッドには慣れているのではないのか?」


 彼女の隣りに座ってそう問いかける。


「わたしが物心着いたときにはうちの国もう結構傾いていましたから。こんな柔らかいのは初めてで……」


 不意にミーティアは黙りこくった。


「どうした?」


「お父様も、お母様も、妹も……みんな死んでしまったんだなあって。ずっと逃げてたからしっかり想うこともなかったけど、なんだか今急に実感が湧いてきて……」


「気に病むなとは言わん。しっかり悲しんでやれ、後でな。今の貴様の隣には……俺がいる」


 彼女の目の焦点が俺のものと重なった。


 可愛らしい口は小さく開かれている。

 身をかがめ、華奢な肩に手を置き唇に唇を重ねると、第三王女は「あっ」と可愛い声をあげた。


 そのまま頭を撫でながら浅いキスを繰り返した。

 ゆっくり、ゆっくり、キスの時間を増やす。


 舌を入れると体がこわばりはしたが、拒絶することはなかった。どうすればいいか分からずとまどっているようだ。


 彼女の柔らかい舌にそっと舌を絡める。同時に右手を背中に回し、抱きしめるようにしながらそっと止め紐を緩めていく。


 だが、すぐにドレスを脱がしたりはしない。


 キスをやめると今度は白く細い首筋に唇を這わす。若い肌は水を弾くようなきめ細やかさで、俺の愛撫を受け入れる。


「んっ……あっ、ふっ」


 困惑しながらもミーティアは刺激に声を返した。

 かすかな汗のにおいと若い女の香りが鼻の奥に抜ける。


 ドレスを少しずらし、ほっそりとした肩と鎖骨を露出させる。控えめな谷間が可愛らしい。


 彼女の上にのしかかるようになってその顔を見ると、耳まで真っ赤に染めていた。恥ずかしいのか目を逸らしている。


 そのまま首と鎖骨に愛撫を続けた。


「あっ、そこ……くすぐったい、やっ、なんか変な感じです」


 あらわになった肌に小さくキスをするたびにミーティアは小さく声を上げ、細い腰をくねらせ、ドレスの下で太ももをもじもじとすり合わせた。

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