誰かの星

 アルファが降り立ったその星は青かった。

 空が青く、海は時折汚れ、地上には様々なものが溢れていた。

 誰も生まれなくなった、というのはこの星で主に覇権を握っていたニンゲンという種が滅んだ故のレトリックに過ぎない。そこには確かに植物や動物という生命が芽吹いていた。

 けれどアルファが探すのはそれではない。

 アルファは指定された座標に降り立ち、その場所を探索する。資料のたくさんある建物だ。やや荒れており、埃が溜まっている。

「生殖研究室」

 そう書かれた場所はかつて、出生率が下がり続ける国の人々がどうすれば赤子が増えるのかを研究する施設だった。

 アルファは片っ端から部屋を漁り、鍵がかかっている場所は壊し、資料を探し、ページを捲る。電子媒体のものは破損して見られそうにないが、うまく解析ができれば儲け物だろう。アルファは建物中を歩き回り、資料のある場所を探した。いくつかのものはダメになり、動物に食い荒らされ、劣化していたが資料室にあるものは厳重に保管されていたため無事だった。

 アルファは本を適当に何冊か手に取ると、それを読み始める。

『我が国では女性の社会進出が顕著であり、その結果家庭に入りたがる女性は減った。それゆえ我が国では国を主体とした成婚パーティを行い——』

『若年層へ子育ての素晴らしさを伝えるためのテーマソングを作った』

『独身の者に税を課すことで結婚を促した』

『妊孕性のある個体の数を厳しく管理し、政府主導のもと生殖を義務付けることで幼児の数を増大させる試み』

 その他、さまざまな国の生殖にまつわる法律や政策をまとめた項目がいくつかあったが、アルファは全て読み切る前に本を閉じた。

 あまりにもくだらない内容だったためだ。そも種の発展に生殖は必ずしも不可欠ではない、というのがアルファの考えだった。何より進化の過程により淘汰されていく種は数多あり、その中でなぜ文明を築いたものが絶滅したことを殊更嘆くのかも理解ができなかった。アルファは滅びを受け入れられぬ者は愚かである、とすら思っている。

(ニンゲン、という種族は随分と驕り高ぶった種族なのだろう)

 聞くところによるとニンゲンの乱獲•環境汚染により個体数の著しく減った動植物を絶滅危惧種と呼び保護活動などを行っていたという。自ら減らし、保護する。おかしな道理があるものだ。矛盾している。

 彼らは酷い矛盾の中で生きていた。

 種の存続を掲げながら、その担い手であるものたちを冷遇しする。国、という単位や肌の色という遺伝子情報をアイデンティティとしたによる争い。奪いあい、保護するべきものも殺してしまう。

 アルファにはその矛盾が不思議でならない。ベータに聞けばわかるのだろうか。

 アルファは気を取り直して本をもう一冊、開く。それはどうやは印刷されているものではなく手書きのものだった。

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