第17話 マルフィナの個別授業
「え!? 私に個別の依頼……?」
連合王立セイクリッド学園は、個別授業の一貫として生徒たちの家族関連の困りごとを引き受けて解決する授業がある。
中等部の二年からは、その個別授業が導入されるのだけれど……。
その依頼が、なぜか私に指名されてしまったのだ。
「どうして私に?」
と、首をかしげていると担任の先生は当然のような顔を見せる。
先生はメガネをかけたイケメンなのだけど、教育の仕方がクールで、笑っている顔が怖い時がある。きっと、生徒をいじめているのが好きなんだと思う。
「君の幻獣は、学級の中では飛び抜けて優秀だからね。私としても初めての依頼は絶対に成功させたいんだ。だから、君を指名させてもらった」
「はぁ……」
たしかに、白ちゃんは優秀だからな。
でもぉ……。私一人で依頼をこなすのかぁ……。
できるのかな?
先生の話だと、私の実績を元にして他の生徒がレポートを書くらしい。
だったら、私が依頼を失敗しちゃうとみんなの笑いものにされるってことよね?
そんなのは絶対に嫌だ……。
不安とプレッシャーで押しつぶされそうだな。
──休み時間。
私の噂は学級内に知れ渡った。
ゼートは隣のクラスなんだけど、噂を聞きつけて私の元へとやってきた。
彼には、ベスニア先輩とのことが気になっていたんだけれど、今はそれどころではない。
「依頼は今度の日曜日か」
「うん……」
「俺もついていってやろうか?」
「それじゃあ授業にならないよ」
「そ、そうか……」
「なんかごめんね……。本来ならゼートが選ばれる予定だったみたいだしさ」
「んなこと気にすんなよ。白を操る、おまえの力さ」
「んーー。私ってか、白ちゃんなんだよなぁ……」
ゼートの後ろにはプヨプヨがいて、私の頬にプルプルの触手を当ててくる。
「心配してくれてるの?」
「プヨプヨ〜〜」
ああ、可愛い……。
でも、可愛いだけじゃ解決しないんだよねぇ。
──放課後。
私はユリアス先輩と秘密の場所に来ていた。
先輩のグリーンペガサスと白ちゃんは互いの体を毛繕いしてペロペロと舐め合っている。
そんな姿を眺めながら、私たちは二人でお茶を飲む。
「個別授業か……。僕も二年の時は一番に任命されたな」
「ユリアス先輩は優秀ですからね」
「君だってそうじゃないか。これは名誉なことだよ?」
「わ、私なんか全然! 白ちゃんがすごいだけです……。それに、本来ならゼートが選ばれる予定だったみたいで……」
「いや、強い幻獣を召喚できるのは幻獣使いの実力だよ。学園内で評価されるのは当然のことさ」
だからって一番目に私だけの依頼はプレッシャーが大きいです。
ユリアス先輩は地図を広げて私の依頼場所を確認していた。
「この辺りだね?」
「はい。山の上に湖がありまして、それを麓の村人が利用しているんです。最近になって水泥棒が現れるらしくて、その泥棒を捕まえるのが依頼みたいです」
「ふぅむ……。こんなところに村があるのかい?」
「地図に載らないほどの小さな村です。人口は15人。村というより集落ですね」
「この領土……」
「どうかしましたか?」
「あ、いや……。ここはスペンサー男爵の管理なんだね」
「ええ。その方が村を収めている領主様みたいです」
「……それにしても水泥棒の逮捕とは変わった依頼だな」
「そうなんですよね……。でも、泥棒って怖いし……。うーーん」
私が眉を寄せていると白ちゃんが反応した。
「安心しろ。そんな輩は
「そこまではしなくていいよ。捕まえて聖騎士団に差し出すまでが依頼だからね」
「ふん……。マルには
頼もしいな。
たしかに、白ちゃんがいればなんとかなるか。
* * *
マルフィナが来訪する前日の夜。
山頂の溜池はひっそりとしていた。
湖の水門には黒いフードを被ったベスニアがいた。
彼女はランタンで周囲を照らし、人がいないことを念入りに確認する。
「深淵よりいでよ。絆の獣」
彼女は巨大な蛇を召喚した。その鱗は闇のように真っ黒い。
「さぁ。私のダークスネーク。やっておしまいなさい!」
ダークスネークは水門に体当たりする。
すると水門に亀裂が走った。
(ふふふ。これで明日には水門が破壊されるわ。そうなれば依頼は失敗。その責任はマルフィナに向くのよ)
実は、依頼を仕向けたのはベスニアだった。
個別授業の依頼を出せば、最強の幻獣、フェンリルを使うマルフィナが指名される。
それを利用してこの湖に来させる作戦だったのだ。
「ククク。水泥棒なんて嘘よ。プププ。この場所はお父様の領土。スペンサー男爵はお父様の支配下なのですわ。架空の犯罪者なんていくらでも作れるんだから」
ベスニアは笑いが止まらなかった。
水泥棒を捕まえようと必死になるマルフィナを想像したのだ。
そうして、彼女が警戒している隙に水門が破壊されて依頼は失敗に終わる。
(
その時だ。
カササッ! と草の茂みが揺れ動いた。
「誰!?」
ベスニアは警戒してダークスネークと一緒に気配のあった薮をかき分けた。
彼女がランタンで照らすと、そこには大きな水溜りがあるだけだった。
「………どうやら気のせいみたいね」
湖の周辺に水溜りくらいあるだろう。それは自然なことだったのかもしれない。
しかし、彼女が去ったあと、その水溜りはウニョリと動く。まるで生命を宿しているかのように。
そんなことに気がつかないベスニアは明日のことを想像して高笑いした。
「オーーホッホッホッ! 明日が楽しみですわーー!」
水門のひびはピシリと音を立てて亀裂を広げる。
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