第3話 仲良く通学
その日の晩。
私はパパとママを説得しようと試みる。
もちろん、ゼートとの婚約破棄の話ね。
でも、ゼートの凛々しさと、素晴らしい贈り物に感動した二人に婚約破棄の話を持ちかけるのは難しく。
結局言えずじまいで次の日を迎えてしまった。
月曜日の朝は登校時間。
私は学園の制服に着替えて馬車に乗った。
馬車に揺られること一時間。
国境付近には関所があって、そこから先は
ここは誰の領土でもなくて、各国の国王が協力して存在している特別な場所だ。
この中では国同士の争いは禁止。この場所だけは永遠に平和なのだ。
だから、各国の兵士をこの地帯に入れることは厳粛に禁止されている。
なので、ここからは従者が操縦する馬車は使えない。みんな歩きになる。
目的地の学園までは徒歩三十分ってとこ。
この時間になると、他の生徒もズラズラと学園に向かって歩いている。
インドア派の令嬢たちはこの長い距離の通学路に文句を言っていたりするのだけれど。
私は結構好きだったりする。
ここは自然が豊かで見晴らしがいい。野花を眺めているだけでも十分楽しいよ。
少し歩くと大きな岩があって、生徒たちが待合場所の目印に使っていた。
それは亀みたいな形をしているので、みんなは『亀岩』と呼んでいる。
亀岩の前には他の生徒に混じって一際背の高い男の子が立っていた。
ゼートだ。
「おはよーー!」
「おう。おはよ」
今日から彼と通学が始まる。
私たちの友情は昨日を持って復活したのだ。
ゼートは私が喜ぶことを知っているので、道端に咲いているたんぽぽに目をやってニコリと笑った。彼の笑顔を受けて私も自然と笑ってしまう。それになりより、この鮮やかな黄色。
「綺麗だよね。黄色くて可愛い花……」
「だな」
黄色い鼻に混じってフワフワの種もある。
私はそれを摘んで「ふーー」って飛ばした。
ゼートもそれを見て種のついた茎を摘む。
私たちが息を吹きかけると白い種が空に舞って、フワフワの雪のようになった。
なんだか、可愛くて……綺麗だ。
「思い出すなぁ。マルがさ……。たんぽぽの種をフーーっと吹き飛ばすんじゃなくてさ。スゥーーって吸い込んだんだ。そしたら種が口と鼻に入ってさ」
そう言ってケタケタと笑う。
「ゲフンゲフンって、むせまくってさ。あん時は俺もあせったよ」
それって私が小等部に入学したばかりの時の話だ。
彼は咳き込む私の背中をさすってくれたのよね。
「んもう。恥ずかしいこといわないでよ。完全に黒歴史なんだからさ」
「俺だってそうかもな。あんまりにもおまえがむせるから、どうしようって。恥ずかしいくらいあせってた」
「吹くばっかりじゃ能がないじゃない。吸ってみたらどうなるのかな? って思っただけよ」
「ははは。好奇心旺盛のマルらしいよ」
「ふふふ。懐かしいわね。あの時は死ぬかと思った」
それで発明したのだ。
私は、たんぽぽの種を顔の真正面に持ってきて、口を横にグニャっと曲げて吹いた。
「秘技! 横飛ばし!」
すると、たんぽぽの種は私の真横に飛んで行った。
「すご……。俺もやってみよ」
「ふふん。この秘技を習得するには年単位の修行が必要なのだよ」
「ふーー! ふーー! むず! 全然、横に飛んで行かない!」
「ははは! 修行あるのみだよ。ゼート君」
「なんか悔しいな! 絶対に習得してやる!」
ああ、やっぱりいいな。
ゼートとの登校。
私たちは気が合うんだ。
一緒にいるだけで楽しい。
「見て見て。ゼート様とマルフィナ様よ」
「すごい。あの二人、復活したんだ……」
「ビッグニュースね」
「えーー。いいなぁ、ゼート様と登校」
「羨ましいわぁ」
「ゼート様。絵になるぅ……」
はぁ……。
ゼートと登校すると陰でコソコソと言われるからな。
彼は学園内ではモテモテなんだよね。
私は通学路から見える高台に目をやった。
そこには朽ちた教会があって、今は使われていない鐘楼(鐘のある塔)がある。
あの鐘楼は学園の都市伝説になっていて、建物の前で告白した時、鐘が鳴ったらその恋は永遠に続くという。
私はそんな都市伝説を信じていた。
だから、去年の秋……。私はゼートを鐘楼の前に呼んで告白したんだ。
まぁ、結果は惨敗。鐘なんか鳴らなかったけどね。
でも……一度は素敵な人と……。
あの鐘の前で……。
キスをする。
憧れちゃうな……。
「ふぅーー! ふぅーー! おいマル! コツ教えてくれ」
ふふ。
まぁ、今は友情復活を楽しめばいっか。
「それでさ……。どうだった? 破談の話。ご両親に相談できそう?」
「国王も王妃もマルのことが大好きだからさ。とても、話せる状況じゃなかったよ。それどころか、今度遊びに来て欲しいって大はしゃぎ」
「うう……」
「おまえん所はどうだったんだよ?」
「私の所も同じだった」
「……良縁ってことで話が進んでるからな。まぁ、いきなりは難しいよな」
「じゃあ、放課後に会って相談しましょうよ」
「それはいいけどさ。今度、幻獣召喚の再試験があるんだろ? 二年に上がる進級試験。一年で合格してないのはおまえだけだ」
ああ……そうだった。
今は破談の話より、切羽詰まった状態でした。
このままいけば落第だよ。
「あうう……」
と、頭を抱え込む。
「破談の話は再試験をクリアしてからだよな」
「……だね」
「そう落ち込むなって。一緒に練習しようよ。今日の放課後に俺が教えるからさ」
「本当!?」
「ああ。婚約の件は試験を合格してからってことにしよう」
「うん!」
あは!
ゼートは学園上位の幻獣使いだからな。
彼に教えてもらえるなら百人力だよ。
「えへへ。持つべきものは友達だね」
「マルが落第したら、仲良くしている俺だって恥をかくんだからな」
た、たしかに……。一刻の姫君が学園で落第すれば、私の関係者は恥をかく。
大好きなパパとママだっていい笑われものだ。
ああ、プレッシャーで押しつぶされそう。
「ううう……」
「おいおい。まだ、落第が決まったわけじゃないんだ。最終試験までは数日あるんだからさ。それまでになんとかしよう」
「う、うん……」
「俺がついてるから安心しろ。必ず上手くいくよ」
ゼートはニコリと笑う。
今までもそうだった。彼がいると、大抵はなんとかなってしまうのだ。
本当にいいやつだ。ゼートは。……まぁ、振られたけどね。
しばらく歩くと、私たちの通学時間は終わりに差し掛かる。
遠くからでも良く見えるのが私たちの学園。
連合王立セイクリッド学園。
ここには各国の子息、令嬢が集まっている。
上流階級の素養教養を学ぶのはもちろんこと、幻獣使いを養成する学校でもあるのだ。
学園は小、中、高と三つの部に別れていて、私とゼートはここの中等部に在籍している。
私の腰には星一つのエンブレム。これが中等部一年の証だ。
ゼートは進級が確定しているので星二つ。
うう、なんとか進級しなくっちゃ。
* * *
放課後。
私は森の中にある訓練場に一人でいた。
ゼートが来る前にも、一人で練習はしておこう。
眼前の床には巨大な魔法陣。
これは未熟な幻獣使いの魔力をサポートしてくれる物だ。
さぁ、精神を集中して……。
「深淵よりいでよ。絆の獣!」
さぁ出てこい、私の幻獣!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます